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好きなのに、彼氏の匂いがどうしても無理。この悩みを口に出せた人と、別れを選んだ人

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好きなのに、彼の匂いだけがどうしても受け付けない。そんな自分を、薄情だと思っていませんか。愛があるなら匂いくらい受け入れられるはずなのに、なぜか身体が拒否する。しかも、よりによって匂いの話なんて、口が裂けても本人には言えない。今回は、その悩みを最後に口に出せた人と、口に出さずに別れを選んだ人、二人に話を聞きました。

最初に会った20代後半マユさんとは、日曜の午後、人の少ないカフェの奥の席で待ち合わせました。注文を済ませたあと、彼女は少し声を落として、こんな話を、と前置きしました。

「これ、友達にも言えなかったんです。彼の匂いが無理、なんて言ったら、私がひどい女みたいじゃないですか」

そう言って、彼女は気まずそうにアイスティーのストローをいじりました。

目次

最初は好きだった匂いが、無理になっていった

旅行の夜から、急に気になり始めた

マユさんは、付き合い始めの頃、むしろ彼の匂いが好きだったといいます。

「ハグしたとき、汗がふわっと香るのが、なんか安心したんですよ。この人の匂いだ、って。だから自分でも信じられなかったんです、あんなに好きだった匂いを、後から無理だと感じるようになるなんて」

きっかけは、付き合って一年が過ぎた夏の旅行でした。

「二人で温泉に行って、同じ部屋に泊まったんです。そしたら、彼の汗の匂いが部屋にこもってる感じがして。それまでハグの一瞬しか嗅いでなかったのが、二十四時間ずっと一緒だと、逃げ場がない。気づいたら、キスするのもちょっとためらってる自分がいて。あ、私、今この人の匂いを避けてるって気づいたとき、すごく罪悪感がわきました」

言ったら彼を全否定する気がして、言えなかった

気になっても、彼女はそれを口にできませんでした。

「だって、匂いを指摘するのって、足が臭いとか口が臭いとか、その人の存在そのものをだめ出しするみたいじゃないですか。あなた臭い、って、あなたが不快、ってほとんど同じに聞こえると思って。言ったら彼が深く傷つくし、関係が終わるかもしれないって怖くて」

そのまま我慢を続けた結果、関係に静かな影が差し始めたといいます。

「だんだん、身体を重ねるのも避けるようになって。誘われても、今日は疲れてるからって逃げる。彼は察してたと思います。理由は言わないけど、私が距離を取ってるのは伝わってたはずで。お互い、何かおかしいのに、その何かに触れられないまま、半年くらい過ぎました。正直、あの時期はけっこうしんどかったです。彼を嫌いになったわけじゃないのに、身体だけが拒否してる、その分裂が苦しくて」

頭では好きなのに、身体が言うことを聞かない。この心と身体のずれを、彼女はどう扱えばいいのかわからなかったといいます。

匂いは、心が先に気づくサインのことがある

嗅覚だけは、嘘をつけない

マユさんの話を聞きながら、嗅覚という感覚の不思議さを考えていました。

匂いは、五感の中でいちばん理屈を通しません。嗅覚は、感情や記憶をつかさどる脳の古い部分に、ほぼ直結しているといわれます。だから頭がいくら好きだと思っていても、身体のほうが先に、無理、と判断してしまうことがある。嗅覚だけは、本人にも嘘がつけないんです。

だからこそ、匂いへの違和感は、ただの清潔さの問題とは限りません。もちろん、純粋に体質や洗い方や生活習慣のせいで匂いが強い、というケースは多い。まずはそこを疑うのが順番です。でも、それで腑に落ちないとき。前は平気だった匂いが急に無理になったようなとき。疑うべきもうひとつの可能性があります。自分の心に、まだ言葉にできていない不満や距離が、溜まっていないか。

「それ、図星かもしれないです」マユさんが、はっとした顔をしました。「実はあの旅行の少し前から、彼に対して言えてない不満が、いくつかあったんです。小さいことなんですけど。それを飲み込んでるうちに、なんか、彼の全部がうっすら嫌になってて。匂いは、その嫌さが出口を求めて、いちばん正直な鼻から噴き出してた、みたいな」

気持ちが離れると、同じ匂いが急に気になり出す。逆に、関係がうまくいっていると、汗の匂いさえ心地よく感じる。匂いは固定された事実ではなくて、心の状態で揺れる変数なのかもしれません。

涙ながらに、打ち明けた夜

限界がきたのは、ある夜のことでした。マユさんは、とうとう彼に打ち明けたといいます。

「もう抱え込めなくなって、泣きながら言いました。あなたのことは好き、でも最近、匂いが気になって、それで距離を取ってた、ごめんって。言いながら、最低なことを言ってるって思って、涙が止まらなくて」

彼の反応は、彼女の想像とまったく違っていました。

「彼、すごく静かに、実は俺もずっと気にしてた、って言ったんです。夏になってから自分でも汗の匂いが強くなった気がして、でも言い出せなくて、君が離れていくのが怖かったって。お互い、同じことを別々に怖がって、半年も黙ってたんだって分かって。なんだか、笑っちゃいました。泣きながら」

それから二人は、ようやく本音で話せるようになったといいます。匂いのことだけでなく、彼女がずっと飲み込んでいた小さな不満も、そこで初めて口に出せた。

「結局、匂いって入り口だったんですよね。本当に詰まってたのは、言えてなかった気持ちのほうだった」

「あなた、臭い」を二人の課題に変える

主語を、あなたから私たちへ

打ち明けたあと、二人が具体的にやったことが、私には印象的でした。彼女は、彼を責める形を一度も取らなかったんです。

「あなた臭いから何とかして、じゃなくて。暑くなってきたし、一緒にシャワー浴びてからゆっくりしよ、って誘ったり。デオドラントも、彼のためじゃなくて、二人で使うものとして一緒に買いに行ったり。匂いを、彼ひとりの問題じゃなくて、二人で取り組むことにしたんです」

主語を、あなたから私たちへ移す。これが、傷つけずに伝える核心だと思います。匂いの指摘が人を抉るのは、それが存在の否定に聞こえるから。でも、一緒にやろうという形にした瞬間、それは断罪ではなく共同作業に変わる。彼は、責められたのではなく、誘われた。だから素直に動けたんです。

しかも、と彼女は付け加えました。

「私、自分の弱いところも一緒に出したんです。実は私も足とか気にしてるんだよね、お互いケアしようよって。私だけが審査する側で、彼が審査される側、っていう関係にしたくなかった。お互い様にしたかったんです」

自分の匂いや弱点も差し出して、対等にする。片方が一方的にジャッジする構図を崩す。それで彼の逃げ場がなくなる代わりに、二人で立つ場所ができる。マユさんたちは、匂いという最もデリケートな話題を、絆を深める入り口に変えていました。

それでも、どうしても合わない匂いもある

本能で無理だった、元彼のこと

ただ、すべてが話し合いで解決するわけではありません。二人目に会ったリナさんは、まったく違う結末を選んだ人でした。30代、看護師。仕事帰りの夜に会ってくれました。

「私は、元彼の匂いがどうしても無理で、別れたんです」彼女は淡々と言いました。「あの人、清潔にしてなかったわけじゃないんですよ。ちゃんとお風呂も入ってたし、不潔ではなかった。でも、抱きしめられても、どうしても落ち着かなくて。理由のない違和感が、ずっと消えなかった」

伝えて改善する、という発想はなかったのかと聞くと、彼女は首を振りました。

「習慣の問題なら、たぶん話し合えたと思います。でもあれは、もっと根っこの、本能みたいなものだった気がして。デオドラントとか、そういう次元の話じゃなかった。一緒にいると、身体が常にうっすら緊張してる感じ。それが何年も続くのは、お互いにとってよくないって思ったんです」

今の彼とは、まったく違うといいます。

「今の彼は、汗をかいたあとでも、なぜか心地いいんですよ。同じ人間の汗なのに、不思議ですよね。だから私、匂いの相性って、本当にあると思ってます。努力でどうにもならない領域が、確かにある」

心と体の折り合いは、すぐにはつかない

二人の話は、きれいに重なりませんでした。マユさんは打ち明けて乗り越え、リナさんは打ち明けずに別れた。どちらが正解という話ではないんだと思います。匂いの問題には、話し合いと習慣で越えられる部分と、本能のレベルで越えられない部分が、混ざって存在している。やっかいなのは、自分が今直面しているのがどちらなのか、最初は見分けがつかないことです。

マユさんに、今は完全に元どおり彼の匂いが好きになったか、と聞いてみました。彼女は少し考えて、正直に答えました。

「うーん、完全には戻ってないかな。前みたいに、嗅いで安心、まではいかない。でも、無理ってほどでもなくなった。お互いケアして、気持ちも通じ合って、その上で、まあこのくらいでいいかって折り合ってる感じです」

頭で好きでも、身体は別の返事をすることがある。その心と身体のずれは、たぶん完全には統合できません。マユさんのように折り合いをつけて並んでいくのか、リナさんのように身体の正直さに従って離れるのか。どちらを選んでも、好きなのに身体が無理だった、という経験そのものの切なさは、たぶん消えずに残ります。

帰り際、リナさんがぽつりと言いました。匂いって、こっちがどんなに頭で好きでいようとしても、勝手に本当のことを教えてくるんですよね、と。その正直すぎる感覚と、私たちはこれからもうまく付き合っていくしかないのだと思います。

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