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彼女いない歴=年齢の男性たちが初めて全部話した夜

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「彼女いない歴、何年?」

その質問が怖くて、合コンのトイレに10分籠もったことがある男性がいる。

聞かれる前に話題を変えようと、必死で話し続けた男性がいる。「いや、最近は仕事が忙しくて」と笑いながら誤魔化すことを、5年かけて完璧にマスターした男性もいる。

彼女いない歴が長いこと。それは、本人が思っている以上に深いところで、その人の自己像を蝕む。「モテない」という事実より、「それを誰かに知られること」への恐怖が、年齢を重ねるほど巨大になっていく。

この記事は、25歳から34歳まで、彼女いない歴が5年以上ある男性4人と、そのうちの一人が初めて交際した女性への取材をもとにしている。「どうすれば彼女ができるか」という攻略本を書くつもりはなかった。ただ——彼らが今まで誰にも言わなかったことを、できるだけそのまま引き出したかった。


目次

取材は、平日夜の定食屋から始まった

駅から少し歩いた先にある、チェーンでも高級でもない、ただの定食屋。カウンター席に並んで座って話す形になった。

最初に話を聞いた村井さん(仮名・29歳・エンジニア)は、待ち合わせの時間ちょうどに来て、「どこ座ればいいですか」と聞いた。指定すると、静かに座ってお茶を両手で持った。

細身で、清潔感があった。一見すると、なぜ彼女がいないのか、外見だけでは全くわからない。

「……彼女いない歴の話、ですよね」

確認するように言って、少し視線を落とした。

「29年間、一度もいないです。付き合ったことがない。告白したこともない。好きな人はいたけど、何もできなかった。それが全部です」

淡々とした口調だったが、その淡々さが、何度も同じ事実と向き合ってきた人間の、防衛としての平静さに見えた。


「普通にやってきたつもりが、気づいたら取り残されていた」

——村井さんが自分の状況を「おかしいかもしれない」と初めて意識したのは、いつですか?

「大学2年のとき、友達が次々と彼女を作り始めて。俺だけ取り残された感じがして——でもそのときは、まだ焦ってなかったんですよ。大学生なんだから、これから機会もあるだろうって。で、大学を卒業して、社会人になって、26歳になったとき。同期がほぼ全員、彼女持ちか既婚か、そっちに進んでて。そのとき初めて、あ、俺は普通じゃないかもしれない、って思った」

「普通じゃない、って思ったとき——正直、怖かった。何が怖いって、この先も変わらないんじゃないかって。29になった今、それはもう確信に近くなってる。何かを変えない限り、変わらないって」

——何か行動しましたか?

「しました。マッチングアプリを入れて、3つ同時に使って。半年間、ひたすらスワイプして、メッセージ送って。マッチはした。でも会う前に消えることが多くて。会えた人もいたけど、2回目がなかった。結局、アプリを全部消した」

少し間があった。定食屋の厨房から、包丁の音がした。

「消したのは、アプリが悪かったというより——うまくいかない経験を重ねるのが、自分には耐えられなかったから。傷つくのが、怖かった」


「恋愛の”初期設定”が狂ったまま大人になる」という構造

ここで、この取材を通じて見えてきた核心的な視点を提示したい。

彼女いない歴が長くなる男性の多くに共通するのは、「意欲がない」でも「魅力がない」でも、実はない。むしろ取材した全員が、真剣に悩み、何かしらの行動を起こし、深く傷ついた経験を持っていた。

では何が問題なのか。私はこの取材を通じて、**「恋愛の初期設定が狂ったまま大人になっている」**という構造的な問題があると考えるようになった。

恋愛には、ある種の「慣れ」が必要だ。好きな人に話しかける慣れ。断られても次に進む慣れ。相手の気持ちを読みながら距離を縮める慣れ。これらは10代の小さな経験の積み重ねによって、無意識のうちに「初期設定」として体に入っていく。

ところが何らかの理由で——内気すぎた、勉強や部活に集中しすぎた、傷ついた経験が早期にあった、環境に異性が少なかった——その「初期設定」が形成されないまま大人になってしまうと、恋愛の場面で体が動かなくなる。

それは「やる気がない」のではなく、**「やり方がわからない」**に近い。しかし周囲からは「普通のことができない人間」に見える。本人も自分をそう認識し始める。その自己認識がさらに行動を阻む——という負のループが、年齢とともに深まっていく。

村井さんの「傷つくのが怖かった」という言葉は、単純な臆病ではなく、このループの中にいる人間の、正直な声だと思った。


なぜ彼女ができないのか——本人たちが語る、本当の理由

次に話を聞いたのは、埼玉在住の公務員、木下さん(仮名・32歳)。待ち合わせ場所に指定したファミレスに、5分前に来ていて、すでにドリンクバーのコーヒーを飲んでいた。

「自分では原因わかってるんですよ、ある程度」

と、開口一番言った。

——どんな原因だと思っていますか?

「好きになるのは早いのに、動くのが遅すぎる。これに尽きると思う。誰かを好きになって、でもまずその気持ちを確認する期間があって、次に相手の反応を観察する期間があって、その後でやっと動こうとするんですけど——そのころには相手に彼氏ができてる、みたいな(苦笑)」

「一番ひどかったのは、26歳のとき好きだった職場の子。1年かけてゆっくり距離を縮めて、やっと二人でご飯に行けるようになって、『そろそろ言えるかな』って思ったタイミングで、『実は付き合い始めた人がいて』って報告されて。立ち直るのに3ヶ月かかりました」

——なぜ動くのが遅くなるんだと思いますか?

「……失敗したくないから、だと思う。ちゃんと準備ができてから動こうとするんですけど、恋愛に完璧な準備なんてないから、永遠に動けない。頭ではわかってるんですよ。でも体がついてこない」

木下さんは、コーヒーを一口飲んだ。

「あと——正直に言うと、拒絶されたときの自分が想像できなくて。告白して断られたら、俺はどうなるんだろう、って。その答えが出ないから、そのステップに進めない。チキンだって言われたらそうなんですけど、本当にそれだけは怖くて」


年齢を重ねるごとに重くなる「言えない感覚」の正体

27歳の会社員、田端さん(仮名)は、取材をオンラインで希望してきた。「顔を見せて話すのが、少し苦手で」と事前に連絡があった。

画面越しの田端さんは、部屋の照明を少し落としていた。

——彼女いない歴が長いことを、周りに言えていますか?

「言えてないです。誰にも。親にも、友達にも。聞かれたら絶対誤魔化します」

——なぜ言えないと思いますか?

「……恥ずかしいから、というのもあるけど——言ったら、何かが変わる気がして怖いんだと思います。『え、なんで?』って顔をされること。その顔が、俺の中の何かを決定的に壊す気がして」

「小さいころから、なんか浮いてる感じがあったんですよ。みんなが当たり前にできることが、俺だけできない、みたいな。勉強とかスポーツじゃなくて、もっと日常的な、人間関係のレベルで。恋愛はその延長にあって——もし誰かに話して、その人の表情が変わったら、俺が思ってたよりずっとおかしい人間なんだ、って確定しちゃう気がして。だから言えない」

長い沈黙があった。画面の向こうで、田端さんが少し息を吐いた。

「本当のことを言うと——彼女がいないことより、この先も一人かもしれないことより、自分がどこかで壊れてるんじゃないかって疑いが、一番しんどいです。27年間、その疑いと一緒に生きてきた」


彼女いない歴が長い男性の、恋愛への具体的な行動パターン

複数の取材から浮かんできた、彼女いない歴が長くなりやすい男性に共通する行動パターンを、ここで整理しておく。

「完璧を待つ」ループ

告白するタイミング、デートに誘うタイミング、LINEを送るタイミング——何かをする前に「もっと仲良くなってから」「もう少し自信がついてから」と先延ばしにする。完璧な状態を待ち続けることで、永遠に動けない。

木下さんはこれを「1年かけてゆっくり距離を縮めた話」で体現していた。

「相手の気持ちを確定させてから動こうとする」

向こうが好きかどうかわからないと動けない。でも相手の気持ちを確定させる方法は、動くしかない。その矛盾の中でフリーズする。

「脈があると確信が持てないと告白できないんですよ。でも脈があるかどうかって、告白してみないとわからないじゃないですか。それが永遠に解決しない」と村井さんは言った。

アプリや婚活サービスへの過剰な期待と、早期撤退

外見でも内面でも、「出会いさえあれば何とかなる」という期待でアプリを始め、最初の数回の失敗で「自分には無理だ」と確信して退場する。実際には、アプリ上でのコミュニケーションにも慣れが必要だが、その段階まで続けられない。

「好きな人がいない時期」のゼロリセット

交際経験のある男性は、失恋しても次の出会いへのモチベーションを維持しやすい。一方、経験がない男性は、好きだった人への片思いが終わると、ゼロに戻る。その「ゼロへの帰還」が積み重なるたびに、次への一歩が重くなっていく。


「初めて付き合えた」男性が語る、その前夜の話

四人目は、少し毛色が違う。

大阪在住の中谷さん(仮名・34歳)は、33歳まで彼女いない歴=年齢だったが、1年前に初めて交際を始めた。

Zoomで繋いだとき、背景には本棚と、小さなサボテンが見えた。

——33年間彼女がいなかった人間が、なぜ急に変わったんですか?

「急じゃなかったんですよ、実は。変わろうとして、何度も失敗して、やっと変われた感じで。でも決定的な転換点はあって」

——それは何でしたか?

「友人に、全部話したことです。33年間一人だってこと、女の子と話すのが怖いこと、このまま一生一人かもしれないと思ってること——全部。酔った勢いで、一気に話した」

「その友人が、笑わなかったんですよ。変な顔もしなかった。ただ、『そうか、ずっと一人で抱えてたのか』って言って。それだけ。それだけだったんですけど——俺、その場で泣いた。人前で泣いたの、たぶん10年ぶりくらいで」

「その夜を境に、何かが変わった気がする。一番怖かった『人に知られること』が起きて、でも何も壊れなかった。その経験が、次の行動を可能にしてくれた気がする」

——今の彼女とはどうやって付き合い始めたんですか?

「友人の紹介です。最初から33年間の話をしたわけじゃないけど、ある程度打ち明けた。彼女は『それ、すごく正直に言ってくれてありがとう』って言ってくれて。そこから急に距離が縮まった。正直に言うことが、武器になるなんて思ってなかったから——それが一番の発見でした」


彼女いない歴の長い男性と付き合った女性の、本音

中谷さんの彼女、岡本さん(仮名・31歳)にも、別で話を聞かせてもらった。

——彼が彼女いない歴が長いことを知ったとき、どう思いましたか?

「正直に言うと、最初は少し不安でした。なんか、問題があるんじゃないかって。ごめんなさい、そう思った(苦笑)。でも実際に付き合ってみたら——全然そんなことなくて」

——付き合ってみて、経験がない人ならではの、良い部分はありましたか?

「丁寧さ、ですね。一つ一つのことを、すごく大事にしてくれる。デートの行き先を決めるときも、私の好みを本当によく聞いてくれるし、誕生日の準備が異常に細かくて(笑)。変な癖もないし、前の彼女と比べられることもないし——それが、こんなに楽なのかって最初は驚いた」

——難しいと感じることはありますか?

少し考えてから。

「……彼が、自分を責めすぎること、かな。ちょっと失敗すると、すごく落ち込む。それが見てて、胸が痛くなることがある。もっと自分を信じてほしい、って思う。でも——そうなった理由を、私なりに想像できるから。責める気にはならない」

「ただ、彼の中に、まだ何か、溶けてないものがある気がして。それが何なのか、私にはまだわからないんですよね」


「おかしくなんかない」と言えるようになるまで

取材の終わり近く、田端さんがこんな話をした。

最近、同じような境遇の男性が集まるオンラインコミュニティに、ひっそり参加してみたという。

「最初は、恥ずかしかったんですよ。こういう人たちと一緒にいる自分が。でも話してみたら——ああ、俺だけじゃないんだ、って思って。それだけで、ちょっとだけ楽になった」

「でも同時に、怖くもあって。このままここに居続けたら、変わらなくていい言い訳を作り続けるだけになるんじゃないか、って。だから今、すごく揺れてる。コミュニティにいることで楽になってる部分と、そこに依存したくない気持ちが、両方あって」

彼の「揺れ」は、誠実さの証だと思った。


最後に——29年間の話を、誰かに語れた夜

吉祥寺の定食屋を出るとき、村井さんが少し立ち止まった。

「今日、話してみてどうでしたか」と聞いてみた。

少し間があった。夜の街に、人が流れていた。

「……楽でした、意外と。誰かに話すって、こんなに楽なんですね」

笑いながら言ったが、声が少し揺れていた。

「でも——話して楽になっても、何も変わってないんですよ、現実は。明日も、一人で帰る。それが、たまらなく惨めになるときもあるし、もう慣れた感じもするし。どっちが本音かもわからない」

「ただ、今日初めて、全部言えた。それだけは、確かです」

彼女いない歴が長い男性に共通するのは、弱さでも欠陥でも、おかしさでもない。ただ——誰にも言えないまま、一人で抱えてきた時間の重さだ。

その重さは、話したからといって消えるわけじゃない。経験値は、一夜では埋まらない。それでも、「言えた」という事実だけが、次の一歩を少し軽くすることがある。

村井さんは、駅の方向と逆に歩いていった。少ししてから気づいて、照れたように笑って、向き直った。

その笑顔が、29年分の何かを、少しだけ含んでいた気がした。

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この記事を書いた人

ノンフィクション・リアルドキュメント編集部
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