毎月来る。分かっている。でも毎月、心が削れる。
些細なことでキレられる。翌日は謝られる。それを何ヶ月も繰り返して、気づいたら「もう無理かもしれない」と思っていた。
PMSのせいだと分かっていても、傷ついた言葉は消えない。理解しようとするほど、疲弊する自分がいる。
彼女のPMSで別れを考えた男性たちに話を聞いた。彼らが直面していた本当の苦しさは、思っていたより深かった。
「メンヘラなんじゃないか」と疑い始めた夜―毎月繰り返す謝罪のパターン
吉祥寺の居酒屋。平日の夜、慎也は同棲半年の彼女との関係を語った。33歳、会社員。
「最初は穏やかな子だったんです。でも生理の2週間前になると急変して」
些細なことでイライラが爆発する。何でそんなこと言うの、あなたって本当に分かってないよねというトゲのある言葉が連発される。残業で遅くなると、私を一人にしないでよと不安が爆発する。
「翌日には、ごめん昨日はPMSだったって謝るんですよ。それが毎月繰り返されて」
慎也は調べ始めた。PMSとは何か。なぜそうなるのか。
「ホルモンの影響で感情が不安定になるって知って、理解しようとはしたんです。でも理解しても、毎月この地雷原を歩かなきゃいけないのは変わらなくて」
ある夜、一人でリビングに座って考えた。このままじゃ疲れる。別れた方がいいかもって。
「本気で考えた夜が何度もありました。でも翌日の彼女が普通で優しくて、その落差がまた苦しくて」
慎也は今、事前に甘いものを買って帰るようにしている。今月も大変だね、と声をかけるようにしている。少しずつ喧嘩は減った。でも迷いは消えていない。
「毎月来るものだと分かっていても、毎月傷つくんです。慣れないんですよ、これが。理解することと、受け入れられることは別で」
理解できることと受け入れられることの間
PMSの知識を得ることと、毎月その状態に向き合い続けることは、全く別の話だ。理解は知識で補えるが、感情的な消耗は知識で解消されない。その差が、多くの男性を追い詰める。
慎也の友人、隆志は30歳。彼は知識を得たことで、逆に苦しくなった。
「PMSだって分かった後の方が、しんどかったんです。分かってるのにイライラされると、仕方ないんだと我慢して。でも我慢の貯蓄がどんどん減っていく感じがして」
隆志は続けた。
「理解を強いられてる感じがするんですよね。彼女はホルモンのせいで仕方ない、でもこっちは仕方ないじゃすまされない。その非対称さが、長期的にきつい」
遠距離で逃げられない1時間の電話罵倒―「別れようか」と切り出しかけた深夜
渋谷のカフェ。休日の夜、拓也は遠距離の彼女との電話の夜を語った。28歳、エンジニア。
「1ヶ月のうち2〜3週間は言葉が刺々しくなるんです。LINEの返信も冷たくなって」
会いたいのに会えない遠距離だからこそ、PMSの影響が増幅する。
「ある月、最近あなた冷たくない?って突然責めてきて。仕事が忙しいだけだよって返したら、大爆発で」
電話で1時間以上、泣きながら責め立てられた。
「逃げられないんですよ、電話だから。直接会ってたら部屋を出るとかできるけど、電話は切るか続けるかしかない。切ったら余計に爆発するから、ただ聞くしかなくて」
拓也は限界を感じた。これ以上続けてもお互い傷つくだけ、別れようかと切り出しかけた。
「病院に行くよう提案したら、行きたくないって拒否されて。じゃあどうすればいいんだって、答えが出なくて」
拓也は今、別れを真剣に検討している。
「PMSのせいだとしても、俺の心が持たない。それが正直なところで。彼女のことは好きなんですよ。でも好きだからって、毎月消耗し続けられるかは別の話で」
相手の苦しさと自分の苦しさの間で
PMSで苦しいのは彼女自身だ。それは分かっている。でも毎月その苦しさを受け止め続ける側も、苦しい。どちらの苦しさも本物で、どちらを優先すべきかという問いに答えはない。
拓也の友人、健人は29歳。彼も同じ状況で、違う選択をした。
「俺は別れたんです。PMSの彼女と。理解しようとしたけど、限界が来て」
健人は今も後悔と解放感が混在している。
「別れて楽になったのは確かで。でも彼女のこと、今でも心配で。俺が居なくなってどうしてるかなって。苦しくて別れたのに、別れた後も別の苦しさがある」
家に帰るのが怖くなった夜―ドアがバタンと閉まった後のリビングで
吉祥寺のカフェ。休日の午後、浩二は同棲3年目の話を語った。42歳、営業職。
「普段はすごく優しい子なんです。でも生理前になると、人格が変わるように怒りっぽくなって」
夕食の味付けで突然キレられた。謝っても謝るだけじゃ意味ないとエスカレートした。ドアがバタンと閉まった。
「リビングで一人、家に帰るのが怖いという自分に気づいた。この子と暮らす意味があるのかって、本気で思った」
浩二は過去に、PMSの知識がなくて別れた経験がある。
「前の彼女も同じ状況だったんです。でもその時はPMSを知らなくて、性格が変わったと誤解して別れた。今回は知識があるから、また同じ過ちを繰り返したくなくて」
彼女にPMSかもしれないと伝えると、私もつらいのわかってと涙ぐんだ。
「夫婦のような関係だから耐えるしかないとは思っています。でも毎月のこの嵐が続くなら、いつか限界が来るとも思ってる。その限界がいつかを、自分でも分からないまま今を続けてる」
知識があっても変わらない消耗の現実
PMSの知識があることと、毎月その状況を乗り越えられることは別物だ。知識は状況を説明してくれるが、感情的な負担を減らしてはくれない。
浩二の同僚、誠は39歳。彼は別れずに5年続けている。
「対処法を一緒に試したんです。サプリとか、生活リズムとか。それで少しマシになって」
でも誠は正直に言う。
「楽になったのは確かで。でもゼロにはならないんですよ。毎月来るものだから。その事実は変わらない」
大きな喧嘩になって自然消滅した8ヶ月―我慢しすぎた代償
新宿のバー。金曜の夜、翔太は短命だったカップルを振り返った。25歳、大学生。
「彼女がPMSでデート中に突然、もう別れたいかもって言い出して」
翔太は動揺した。
「PMSのせいだって分かってるけど、毎回こんなに傷つけられるのはきついって反論して、大喧嘩になって」
結果、自然消滅に近い形で別れた。
「後で振り返ると、PMSを理由に我慢しすぎた自分が悪かったとも思う。でも彼女の体調を尊重しながら自分の心を守るバランスが取れなかった」
翔太は今の自分に言い聞かせるように言った。
「我慢にも限界があって。その限界に達する前に話し合えればよかったんですけど、PMSのせいだからと言いたいことを飲み込んでた。飲み込み続けた結果が、あの喧嘩だったんだと思う」
我慢することが関係を守るという誤解
PMSだから仕方ない、という理解が、時に我慢を強制する。でも言いたいことを全部飲み込むことは、関係を守ることじゃない。蓄積した感情は、どこかで爆発する。
翔太の友人、大輔は27歳。彼は早い段階で話し合いを始めた。
「俺も我慢してたんですよ、最初は。でもある時、我慢してることを正直に話したんです。PMSのイライラは分かる。でも俺も毎月傷ついてると」
大輔の彼女は最初、傷ついた顔をした。
「でも話してよかった。彼女も、自分がどれだけ相手を消耗させてるか、初めて実感したって言ってくれて。そこから少し変わった」
知識を得て寄り添い、関係を続けている男性の5年後
恵比寿のカフェ。休日の午後、大介は5年間の変化を語った。37歳、公務員。
「最初は別れようかと何度も思ったんです。でも調べて、一緒に試してみようって提案して」
ビタミンB6、マグネシウム、ヨガ。一つずつ試した。
「今では生理前になると、今週は機嫌悪いかも、ごめんねって、彼女から事前に教えてくれるようになって」
大介は続けた。
「完全になくなったわけじゃないんですよ。今でも波は来る。でも事前に知らせてもらえると、こっちの心構えが違う。同じ状態でも、準備できてるかどうかで受け取り方が全然変わる」
大介は別れを考えた時期を振り返った。
「あの時別れてたら、今の彼女はいなかった。でも我慢しろとは言えない。人それぞれで、どこまで受け入れられるかは個人差があって」
大介はコーヒーを飲んだ。
「分かったことは、PMSをどう扱うかじゃなくて、二人でどう向き合うかが決め手だってこと。彼女が自分のPMSを開示して、一緒に対処しようとしてくれるかどうか。それが続けられるかどうかを決めた気がする」