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男性が苦手な美人と、美人が苦手な男性。同じ部屋にいるのに、どちらも一人の人間として話せていない

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顔を褒められるたびに、内側で何かが下りる。悪気がないのはわかっている。それでも信じられない。逆の側もいる。整った顔の相手を前にすると頭が白くなり、話す前に自分の物語を終わらせてしまう。

日曜の午後、大きな公園に面したカフェ。窓が広くて、外を歩く人がよく見える。香織さんは窓を背にする席を選んだ。理由を聞くと、視線が来る方向を減らしたいので、と答えた。それが習慣なのか、この日だけなのかは聞かなかった。

目次

褒め言葉が、入場券に聞こえる

また始まった、と思う

香織さん、二十八歳、企画職。

初対面で、美人ですね、って言われるんです。タイプです、も多い。

そのときの内側を、彼女ははっきり説明した。

スイッチが落ちるんですよ。また始まった、って。相手に悪気はないんです。むしろ本気で褒めてくれてる。

それでも受け取れない理由は。

外見だけの入場券に聞こえるので。この人は顔を見て話しかけてきたんだな、って確定するんです。そこから先の言葉が全部、その延長に聞こえる。

努力が、元がいいからで終わる

学生のころからの積み重ねがある、と彼女は言った。

触られたことも何度もあるし、性格まで勝手に決めつけられる。あと、何を頑張っても、元がいいからって言われるんです。

具体的には。

企画が通ったときに、まあ君が言えば通るよね、って言われました。半分冗談だったと思います。でも半分は本気だったので。

好意の入り口がいつも顔から始まる。だから顔から入ってきた言葉を信じられなくなった、と彼女は言う。

真顔でいるだけで、怒っていると読まれる

美羽さん、二十六歳、受付。

彫りが深い顔なんです。無表情でいると、近寄りがたいって言われます。

実際は。

ただ緊張してるだけです。何も考えてないときもあります。

周囲はどう読むのか。

クールで高飛車、です。何回も言われました。

笑顔を作ろうとするとどうなるのか。

不自然になるんですよ。ぎこちない笑い方になる。それはそれで、なんか裏がありそうって思われる。

どちらを選んでも損をする感じがして、と彼女は言った。

人と話す前に疲れます。座った時点で、もう体力が減ってるんですよ。

好きな服が着られなくなる

里奈さん、三十一歳、営業。

会社では、あえて地味な服を選んでます。

いつからそうなったのか。

言い寄られるのが嫌になった時期があって。二十代半ばです。それ以来、好きな服を着られなくなりました。

休日と平日で別人になるという。

休みの日は好きな格好をします。会社では絶対にしない。

周囲の反応は。

もっと盛れるのに、って言われます。悪気はないんですよ。ただ、盛ったあとに来るものを、私は知ってるので。

断ると、関係が壊れる

真由さん、二十四歳、事務。

友達だと思ってた男性から、何度も告白されました。何人にもです。

断るとどうなるのか。

関係が壊れます。職場の空気まで変わる。私が悪いことをした感じになるんですよ。

彼女はそこを、諦めていると言った。

この面倒は、私の人生から消えないと思ってます。

いちばんきついのは何か、と聞いた。

寄ってくる人数は多いのに、対等に話せる相手が少ないことです。押しの強い人か、最初から遠巻きに見てる人しかいない。真ん中がいないんですよ。

喜んだ瞬間に、前のめりになられる

千尋さん、三十三歳、経理。

褒められると距離を感じます。かわいい、がプレッシャーになる。

素直に喜べないのか。

喜べないです。冷たい人間だと思うこともあります。

理由ははっきりしている、と彼女は言った。

喜んだ瞬間に、相手が前のめりになるんですよ。何回も経験しました。ありがとう、って笑った次の週に、いきなり距離を詰められる。

反応を抑えるのは性格ではないのか。

性格じゃないです。自衛です。冷たいって言われますけど、あれをやめると生活が回らなくなるので。

好意という名前の不快

あかりさん、二十九歳、看護職。

既婚の年上から狙われることが続きました。何人も。

どんな形で。

少し話しただけで勘違いされます。それで断ると、暴言に変わる人もいました。

容姿を値踏みする視線と、他の女性を下げて自分を上げる話し方が、特にきつかったという。

あの子より君のほうがいい、みたいなことを言うんです。褒めてるつもりなんですよ。

一時は男性全体が嫌になった、と彼女は言った。

好意っていう名前の不快が積み重なると、恋愛そのものが危険物に見えてきます。

苦手なのは、扱われ方のほう

凪沙さん、二十七歳、保育補助。

子どもは好きなんですけど、男性の多い職場は避けました。

彼女は自分の状態を細かく分けて説明した。

苦手なのは、すべての男性じゃないんです。私を、獲れるものとして扱う態度が苦手なんですよ。

その二つは、外からは同じに見えないか。

見えると思います。だから男性が苦手な人、で片づけられます。

信頼できる相手には開くという。

一人だけ、開いてる人はいます。ただ、そこまでのハードルが高いです。

もう一人、女性が多い環境で育った彩乃さん、二十五歳の話も聞いた。

低い声とか、大きな身振りに慣れてないんです。悪意がなくても、体が先に固まる。

男性心理が読めず、冗談の温度もわからないという。

見た目の割に話が下手だ、って自分を責めてました。美人に見える自分と、内側の不器用さが噛み合ってないので。

頭が白くなる側

話したいのに、言葉が出ない

翔さん、三十歳、システムエンジニア。

整った顔の人と目が合うと、頭が白くなります。

その瞬間、何が起きているのか。

自分の世界の人間じゃない気がするんです。親近感が湧く前に、気後れが来る。

話したくないわけではないのか。

話したいです。近づきたい。でも勇気が出ないので、目で追うだけになる。

見合う男でいなければ、が先に来る

健一さん、三十四歳、メーカー勤務。

垢抜けた人と長い時間いると、疲れるんです。

何に疲れるのか。

自分も見合う男でいなきゃ、っていうプレッシャーです。服も気にするし、店選びも緊張する。

彼は途中で方針を変えたという。

恋人にするなら、居心地がいい人にしようと決めました。美しさより、気が楽かどうかで選ぶようになった。

周囲から詮索される

亮太さん、三十五歳、不動産。誰もが振り返る相手と付き合っていた時期がある。

周りから言われたんですよ。何か裏があるんじゃないか、って。お金持ちなの、とも聞かれました。

実際は。

普通の会社員です。組み合わせが不自然に見えたらしくて。

その結果どうなったのか。

詮索されるのが面倒になりました。その後は、見た目にこだわらなくなりました。

観客がいる感覚になる

直樹さん、三十二歳、商社。

美人と歩くと、周囲の視線が気になるんです。

見られているのは相手のほうでは。

そうです。自分が見られてるわけじゃないのに、恥ずかしい。デートなのに、観客がいる感じになるんですよ。

その状態で会話はできるのか。

落ち着いて相手を見られないです。そういう自分が嫌でした。

完璧に見える人ほど、読めない

裕介さん、三十一歳、教育関係。

キリッとした雰囲気に、怖さを感じるんです。

何が怖いのか。

何を考えてるかわからないところです。完璧に見える人ほど、内側が読めない。

彼が楽だと感じる相手は。

不満をすぐ口にする人です。距離の測り方がわかるので。

自分の見方を、彼は後から疑ったという。

見た目で、こういう人に違いない、って決めつけてたんですよ。あとから気づきました。相手は何も言ってないのに。

声をかける前に、話を終わらせる

浩二さん、三十七歳、小売。

自分の容姿に自信がないんです。話しかけても相手にされない気がして、最初から諦めます。

何を考えているのか。

すでに彼氏がいるだろう、って思います。確かめてないのに。

彼は自分の癖を、こう表現した。

声をかける前に、物語を終わらせてしまうんですよ。考えてるうちに言い訳が増えて、時間だけが過ぎる。

イメージが先に立つ

達也さん、三十一歳、マスコミ。

一緒にいて、自分がちゃんとしてなきゃと感じる相手は、本命にしづらかったです。

具体的に何を想像するのか。

高級志向だろうな、とか、維持費がかかるんだろうな、とか。見合う男でいなきゃ、とか。

相手はそれを言ったのか。

一言も言ってないです。全部こっちのイメージです。

不安と引け目が、恋愛の前に壁を作る、と彼は言った。

目の基準が書き換わる

誠さん、三十六歳。非常に整った相手と付き合っていた過去がある。

別れたあとに、違和感が出たんです。

どういう違和感ですか。

次の人の、小さい癖が気になるようになりました。肌とか、表情とか。

相手の問題ではないのか。

違います。俺の目の基準が書き換わってただけです。引っかかりの少ない日常に慣れたので。

その感覚をどう扱うかで、その後の恋愛が分かれた、と彼は言った。

両側から出てきた、同じ話

寄ってくる層が偏る、という話は両方から出た。

美人側には、距離の詰め方が粗い人と、最初から諦めている人が来る。真由さんの言う、真ん中がいない状態だ。

男性側には、特別扱いして媚びる人と、萎縮して何も言えない人が集まる。

どちらの側でも、一人の人間として話す、が起きにくい。

接し方を変えない人の話も、繰り返し出てきた。

美人だからと持ち上げすぎず、普通に話して、普通に意見を言って、必要以上に褒めない。香織さんが挙げたのはその一点だった。

特別扱いされない安心って、警戒が強い側にはすごく効くんです。

逆に効かないものも聞いた。

顔色ばかり伺う人は、優しさに見えないんですよ。嫌われないことばかり考えてるんだな、って伝わるので。

どちらの側にも残る、人選の問題

本命にならない理由を、見た目だけで語る人は少なかった。

人選の偏り。自分側の拗れ。自尊心の守り方。挙がったのはそういう言葉だった。

あまりに魅力が高い相手は、価値の鏡じゃなくて格差の鏡になることがあります、と達也さんは言った。

一緒にいて自分の評価が下がる気がすると、好きでも本命にできない。あれは相手のせいじゃなくて、自分をまだ安定して愛せてないだけです。

美人側にも課題は残る、という指摘もあった。

不安にさせる人に惹かれて、安心できる人をドキドキしないって手放す。それを繰り返してました、と千尋さんが言った。

ときめきと不安定を混ぜて数えると、苦手意識が恋愛のたびに更新される。

安心してるから鼓動が静かなだけかもしれない、って気づいたのは、けっこう最近です。

検索してここまで来た人が、確かめたいこと

苦手意識は、どこから来ているのか

十五人の話を並べると、相手が怖いのではなかった。その場での自分の扱いが読めない、という状態に近い。褒め言葉の翻訳に疲れている側と、自分の小ささを先に想像して動けない側が、同じ部屋にいる。

どう接すればいいのか

急がない人だけが、距離を縮められていた。反応を見ながら進み、言葉と行動が一致していて、威圧しない。挨拶と短い会話から始めて、深い関係を最初から目指さない。

褒めてはいけないのか

褒めるなという話ではなかった。必要以上に褒めない、というのが香織さんの言い方だ。顔から入ってこないかどうかが分かれ目になっている。

苦手は治るのか

治っていない、と答えた人が多い。ただし、消えないまま一人だけ例外ができる場合がある。その例外は全員、顔の評価から入ってこなかった相手だった。

男性側は、どうすれば動けるのか

浩二さんの、声をかける前に物語を終わらせる癖が、そのまま答えになっている。確かめていない前提で降りている。裕介さんも同じ順番で誤解していた。

窓を背にした席

帰り際、香織さんに一つだけ聞いた。この取材のあいだ、私は何回あなたの顔について触れましたか、と。

彼女は少し驚いた顔をして、それから答えた。

ゼロです。数えてました。

数えていたんですか。

癖です。初対面の人と話すとき、いつも数えてます。

多いときは何回くらいになるのか。

三十分で八回だったことがあります。その日は途中から、何を話したか覚えてないです。

彼女はコートを羽織って、窓の外を見た。日曜の公園を、家族連れが歩いている。

たぶん一生この癖は抜けないと思います。だから、ゼロだった日のことは覚えてるんですよ。数えるほどの回数がなかった日って、けっこう少ないので。

そう言って、彼女は先に店を出た。振り返らなかった。

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この記事を書いた人

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