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金遣いが荒いのは育ちのせいか。責めても直らない理由と、その奥にあるもの

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恋人や配偶者の金遣いの荒さに、頭を抱えている。そして、それはたぶん育ちのせいだ、と感じている。育ちが違う相手とこの先やっていけるのか、そもそも直るものなのか、という不安を抱えているのだと思います。あるいは、自分自身の金遣いが、育ちのせいかもしれないと、薄々気づき始めた人もいるでしょう。今回、金遣いが荒いと言われてきた人と、そのパートナーに話を聞きました。荒さの正体は、だらしなさでも、性格でもありませんでした。

最初に会ったタカシさんは、四十代の男性です。子どもが生まれてから、自分の金銭感覚に初めて疑問を持った、という人でした。

「正直に言うと、自分が金遣いが荒いっていう自覚が、長いことなかったんです。それが普通だと思ってたので」

そう言って、彼は少し苦笑いしました。

目次

金遣いの荒さは、性格でも道徳でもなかった

好きなものを買え、と言われて育った

タカシさんの父親は、個人で事業を成功させた人でした。

「父が、お前は好きなものを買え、っていう人で。子どもの頃から、欲しいものは、だいたい手に入る環境だったんです。社会人になってからも、ボーナスが出たら、すぐ高級時計とか車を検討する。それが当たり前で、何も疑問に思ってなかった」

結婚して子どもが生まれたとき、妻の一言で、初めて立ち止まったといいます。

「妻に、このままじゃ貯金が貯まらない、って本気で言われて。え、そうなの、って。自分では浪費してるつもりが、まったくなかったんです。これくらい普通でしょ、って感覚だったので」

それは、幼い頃に書き込まれたお金のOS

タカシさんの話を聞いていて、思ったことがあります。金遣いの荒さを、人はつい、だらしない、自制心がない、という道徳の問題として責めがちです。でも、育ちという視点が教えてくれるのは、それが道徳ではなく、もっと根の深いものだということです。

人は誰でも、幼い頃に、お金とは何か、という前提を、無意識に書き込まれます。お金は使えば入ってくるもの、自分の頑張りへのご褒美、豊かさの証。あるいは反対に、お金は不足するもの、必死に守るもの、不安の種。これらは、本人が考えて選んだ価値観ではなく、育った環境で、勝手にインストールされた、お金のOSのようなものなんです。

タカシさんのOSは、お金は使ってこそ、というものでした。貧しい家庭で育った人のOSは、お金は守るもの、かもしれない。どちらが正しいという話ではなく、ただ、違うOSで動いている。そして、自分のOSは、本人にとっては空気のように当たり前で、なかなか自覚できない。タカシさんが、これくらい普通でしょ、と思っていたのは、そういうことでした。

だから、責めても直らない

夫を責めても、何も変わらなかった

このOSという視点は、金遣いの荒い側だけでなく、それに悩むパートナーの側にも、大きな意味を持ちます。マキさんは、その立場の人でした。三十五歳。夫が資産家の家庭で育った人です。

「夫は、足りなくなったら親が何とかしてくれる、っていう感覚が、抜けないんです。週末のゴルフや飲み会に、当たり前に数万円使う。私が家計簿を見せて、今月は抑えようって言っても、親に頼めばいいじゃないか、って」

最初は、ひたすら責めていたといいます。

「あなたは金銭感覚がおかしい、だらしない、って。何度も言いました。でも、まったく変わらないんです。むしろ、責められた、ってムッとするだけで。だんだん、この人とは将来やっていけないんじゃないかって、怖くなってきて」

責める対象から、解読する対象へ

マキさんの試みが空回りした理由は、はっきりしています。彼女は、夫のOSを、道徳的に責めていたんです。でも、相手は怠けているのでも、彼女を軽んじているのでもなく、ただ、違うOSで動いているだけ。だから、いくら責めても、効かない。

「あるとき、考え方を変えたんです」マキさんは言いました。「この人は、悪気があるんじゃなくて、そういう育ち方をしただけなんだって。責めるんじゃなくて、なんでこの人はこう考えるんだろう、って、理解しようとするようにして。そうしたら、義実家がすごく太っ腹で、本当にお金に困った経験がないんだってことが、見えてきて」

相手のOSを、間違いとして責める対象から、どんな育ちで書き込まれたのかを解読する対象に変える。それだけで、関係の空気が変わったといいます。責めるのをやめて、二人でファイナンシャルプランナーに相談し、自由に使えるお小遣いの額を、具体的に決めるルールを作ったそうです。相手を変えるのではなく、二人の共通のルールを作る方向に、舵を切ったんです。

荒さの奥には、お金で埋めようとした穴があった

見栄の買い物で、親に認められたかった

ただ、OSの違いを理解しても、それだけでは足りないことがあります。金遣いの荒さには、もう一つ、深い層があるからです。タカシさんが、自分の買い物を振り返って、こんなことを言いました。

「自分がなんであんなに高いものを買ってたのか、よく考えてみたんです。そしたら、ただお金を使いたいんじゃなかった。親に、認められたかったんですよ」

どういうことでしょう。

「実家にいた頃、いいものを買うと、父が、お前が頑張ってるからな、って認めてくれたんです。それが嬉しくて。社会人になってからの見栄の買い物も、根っこは同じで。高級時計を買うことで、自分はちゃんとやれてる、認められる存在だって、確認したかったんだと思います。お金で、承認を買ってたんですよね」

買うと気分が上がる回路

似た構造を、別の人からも聞きました。ユカさん、三十代の女性です。彼女の母親は、ブランド品や旅行が大好きな人でした。

「母を見て育って、自分は絶対に倹約家になるって決めてたんです。なのに、社会人になったら、ストレスが溜まると、つい高い服やコスメを買っちゃう自分がいて。びっくりしました」

母とは違うはずだったのに。

「行動パターンが、似ちゃってたんです。母の、買うと気分が上がる、っていう回路が、私の中にも、無意識に刷り込まれてて。買い物が、ストレス解消の手段になってたんですよ。お金を使う行為が、嫌な気分を埋める道具になってた」

金遣いの荒さの根っこには、しばしば、お金そのものではなく、お金を通じて埋めようとしている感情の穴があります。承認されたい。気分を上げたい。寂しさを紛らわせたい。買う瞬間に、その穴が一瞬埋まる。だから、やめられない。

育ちは変えられない。でも、上書きはできる

感情の穴を見ないと、節約ルールはずれる

ここまで来ると、なぜ節約のルールだけでは金遣いが直らないのか、見えてきます。穴は感情の側に開いているのに、財布の側に蓋をしようとしても、蓋はすぐにずれてしまうからです。

本当に金遣いを変えたいなら、自分が、あるいは相手が、お金で何の感情の穴を埋めようとしているのかを、見る必要があります。タカシさんのように、買い物で承認を買っているなら、必要なのは予算の管理だけではなく、お金以外の方法で認められる経験です。ユカさんのように、買い物でストレスを逃しているなら、別のストレス解消法を見つけることが先になる。

タカシさんは、子どもが生まれて、この子に同じ価値観を植え付けたくない、と思ったのがきっかけで、衝動買いを一旦三日待つルールを始めたそうです。ユカさんは、本当に欲しいものか、を三回自問する癖をつけた。どちらも、ただ我慢するのではなく、買う前に、自分の感情を一度見つめる、という工夫でした。

OSは消えない。一生、付き合っていく

金遣いの荒さは、育ちで書き込まれたOSと、お金で埋めようとする感情の穴の、二重構造でできています。だから、育ちのせいにして諦めるのも、道徳的に責めるのも、どちらも的を外している。育ちは、確かに変えられません。でも、自覚すれば、新しい習慣で、少しずつ上書きしていくことはできます。

ただ、正直に言えば、OSが完全に消えることは、たぶんありません。何十年も刷り込まれたものは、根っこに残り続ける。ユカさんが、母とは違うと思っていたのに似てしまったように、また感情の穴が開けば、古いOSが、ひょっと顔を出す。だから、これは直すというより、一生かけて付き合っていく課題なんだと思います。自分のお金のOSと、感情の癖を知り続けて、その都度、穴を別の方法で埋める練習を、続けていくこと。

そして、育ちの違うパートナーとは、相手のOSを、間違いではなく、違う言語として理解し合うこと。マキさんが、夫を責めるのをやめて、二人のルールを作ったように。育ちが違う二人が一緒にいるというのは、どちらかが正しいOSに統一することではなくて、二つの違う言語を抱えたまま、お互いに翻訳し合い続けることなのだと思います。

タカシさんが、最後にこう言っていました。

「自分の金遣いの荒さは、たぶん一生、ゼロにはならないです。気を抜けば、また高いものに手が伸びる。でも、なんで自分がそれを欲しがるのか、わかるようになっただけで、ずいぶん違うんですよ。買う前に、あ、今、認められたいんだな、って気づける。それだけで、財布のひもが、少し締まるんです」

金遣いの荒さは、財布の問題に見えて、本当は、育ちと、心の問題でした。だからこそ、責めるのでも諦めるのでもなく、その奥を静かに覗いてみることが、いちばんの近道なのだと思います。

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