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実家暮らしで精神的に幼くなった男が失ったもの「大人になってほしい」と言われた夜の本当の意味

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朝起きると弁当が出来ていた。夜帰ると夕食がテーブルに並んでいた。洗濯物は畳まれていた。

便利だった。居心地が良かった。なぜ出ていく必要があるのか、分からなかった。

33歳になった時、彼女に言われた。もっと大人になってほしいって。その言葉の意味が、すぐには分からなかった。

実家を出たことがない男性と、実家暮らしの夫を持った女性に話を聞いた。彼らが失ったものの正体は、想像とは少し違った。

目次

デートの帰り道に言えなかった一言―「親がいるから」という呪縛

新宿の居酒屋。平日の夜、浩太はビールを傾けながら、去年の別れを静かに語った。34歳、地元企業の会社員。大学卒業から12年、一度も実家を出たことがない。

「彼女が、うち来ない?って誘ってくれたんです。何回も」

浩太は毎回断った。親がいるから、という理由で。

「嘘じゃないんですよ。本当に親がいるから。でも友達に言ったら、それ理由になる?って顔されて」

彼女は3ヶ月後に言った。もっと大人になってほしいって。

「意味が最初、分からなかったんです。俺、仕事してるし、給料もそこそこあるし。何が幼いのかって」

浩太は考え続けた。その答えが出たのは、別れてから半年後だった。

「自分で選択する経験が、圧倒的に少なかったんです。何を食べるか、どの服を着るか、週末どこに行くか。全部、誰かが決めてくれてるか、流れで決まってる。自分で決めた感覚がない」

浩太は今も実家にいる。一人暮らしを考えた時期はある。でも踏み切れない。

「なんで踏み切れないか分かりますか。怖いんですよ。自分で全部決めなきゃいけないのが。些細なことでも迷って、親に聞いてしまう。その癖が、恋愛にも出てたんです」

選択の筋肉が萎えていく日常

選択は、筋肉と同じだ。使わなければ弱くなる。実家では、多くの選択が自動的に処理される。何を食べるか、家をどう管理するか。その筋肉を使わない日々が続くと、いざという時に動かない。

浩太の友人、拓也は28歳。彼も実家暮らしで、同じ問題を抱えている。

「職場の上司に少し注意されただけで、その日の夜に親に電話するんです。慰めてもらいたくて」

拓也は一人暮らしを試みたことがある。でも1週間で戻った。

「寂しかったんです。それだけ。でもその寂しさを一人で乗り越える経験がないから、また実家に帰るしか選択肢がなかった」

拓也は恋愛でも重いと言われることが多い。

「依存してるんですよね、たぶん。親への依存が、恋人への依存に形を変えて出てくる。でも気づいてても、止められない」

結婚してから分かった夫の実態―ゴミ出し一つで始まる夫婦喧嘩

吉祥寺の定食屋。昼休み、麻衣は夫との新婚生活を苦い顔で語った。29歳、会社員。夫の隼人は33歳で、結婚するまで実家暮らしだった。

「付き合ってる時は、全然気づかなかったんです。デートの時はちゃんとしてるから」

結婚して同居が始まった初週、変化が表れた。

「一緒に掃除しようって声をかけたら、俺昔からやってないからって言うんです。正直に言うのはいいんですけど、その後がひどくて」

隼人は掃除機をかけた後、俺もやったよねって確認してきた。手伝ってくれてありがとうと言われる側の感覚が、まだ抜けていなかった。

「家事って、感謝してもらうものじゃなくて、生活の一部じゃないですか。でも夫にとっては、やってあげてる行為なんですよ」

ゴミ出しでも同じだった。親がやってくれてたのに、という言葉が何度か出た。

「怒りより、呆れたんです。33年間、ゴミが誰かに出されると思ってたんだって。自分には関係ないことだって思ってたんだって」

麻衣は続けた。

「日常の小さなことが自分事にならないんですよ。食器が汚れてても、放置しておけば誰かがやってくれるって、体が覚えてる」

感謝の形が歪む12年間

実家でのサービスは、無償で提供される。子供は感謝しない。感謝の必要性を感じない。その感覚のまま大人になると、他人にされたことへの感謝の形が幼いままになる。

麻衣の同僚、沙織は34歳。彼女も実家暮らしの夫を持ち、離婚を考えている。

「夫、少し手伝うだけで俺も頑張ってるよねってアピールしてくるんです。褒めてほしいんですよ、子供みたいに」

沙織は疲れた。夫と一緒に大人になれない感覚がある。

「親の過干渉も重なって。週末に義母から電話が来て、息子をよろしくって言われる。息子ですか、私の夫ですよって」

夫婦の会話が、義両親の話題で埋もれていく。

「出ていかなかった12年間が、今の夫を作ったんです。それを私が引き受けることになるとは、結婚前には想像もしてなかった」

一度出て戻ってきた女性の後悔―顔つきが変わったと言われた日

品川のカフェ。休日の午後、彩花は鏡と自分の変化を語った。26歳、会社員。就職後に親の体調を理由に実家に戻り、2年が経つ。

「一人暮らしの時の自分と、今の自分、全然違うんです」

友人から言われた。顔つきまで幼くなったよって。

「最初は何が変わったのか分からなかったんです。でも鏡見たら、確かに表情が緩んでる。緊張感がない」

一人暮らしの時は、何でも自分で決めていた。困っても、一晩寝れば何とかなると思っていた。

「実家に戻ったら、なんかボケてきたんです。意識が。困ったら親に聞けばいいし、面倒なことは後回しにできるし。緊張感がなくなって、表情も緩んで、考える量が減って」

彩花は婚活も始めているが、自立してる?と聞かれると言葉に詰まる。

「してると思いたいんですけど、自信が持てなくて。してないと答えるのも違うし、してると答えたら嘘になる気がして」

安心という名の成長の止まり方

実家は安心できる場所だ。でも安心と成長は、ある意味で反比例する。不安があるから人は動く。不便があるから工夫する。実家の快適さは、その動力を奪っていく。

彩花の友人、真由は27歳。彼女は実家を出た。

「出た最初の1ヶ月、本当にしんどかったんです。全部自分でやらなきゃいけなくて、疲れて帰ってきても家事が待ってて」

でも3ヶ月で変わった。

「判断が早くなったんですよ。細かいことで悩まなくなって。自分で決めて、自分で責任取る感覚が、少しずつついてきて」

真由は実家に戻ろうとは思わない。

「戻ったら、また幼くなりそうで怖いんです。あの感覚、一度手放したくない」

40歳手前で気づいた取り返しのつかなさ―介護という名の言い訳

東京郊外の喫茶店。夕方、健一は窓の外を見ながら話した。39歳、会社員。親の介護を理由に実家暮らしを続けている。

「数年前、付き合ってた女性に言われたんです。もっと自分の人生を生きてって」

健一は当時、その言葉の意味を受け止めきれなかった。

「俺、親の介護してるんだからって、むしろ頑張ってるって思ってたんです。でも彼女が言いたかったのは、そういうことじゃなくて」

彼女が見ていたのは、介護という役割ではなく、健一自身だった。

「休日、親の機嫌を伺いながら過ごして、趣味で現実逃避して、将来について考えない。それが問題だったんですよ。介護は理由じゃなくて、言い訳だったんです」

健一は今、親の高齢化が進んで、抜け出すタイミングを失いつつある。

「出るに出られないんです。本当に介護が必要になってきてるから。でも心のどこかで、それが都合よかったのかもしれない」

健一は珍しく正直に言った。

「まだ親に守られていたいって、幼い自分がいるんですよ。39歳なのに。それが一番恥ずかしくて、でも消えない」

抜け出すタイミングは一度だけしか来ない

実家を出るタイミングは、気づかないうちに過ぎていく。20代前半、就職、転勤、結婚。それぞれのタイミングで決断しなければ、次の機会まで遠くなる。

健一の同僚、誠は42歳。彼は30代で一人暮らしを始めた。

「遅かったんです、出るのが。でも出て初めて分かったことがあって」

誠は静かに言った。

「自分がどれだけ親に依存してたか、出てから気づくんですよ。中にいる時は、分からない。空気みたいなものだから」

誠は今、結婚している。妻との関係は対等だ。

「もし実家にいたままだったら、結婚できてたかどうか。妻を対等に扱えてたかどうか。自信がないです」

一人暮らし経験者が持つもの、持たないもの

新宿のバー。金曜の夜、数人の男性が実家暮らしと一人暮らしの違いを話し合っていた。

「一人暮らし経験者って、何かが違うんですよ」

そう言ったのは、35歳の男性だ。

「具体的に何が違うかって言われると難しいんですけど、自分のことを自分でやってきた感覚が、表情や言葉に出るんですよ。頼られた時の対応とか、困った時の判断とか」

隣に座る男性が続けた。

「俺、実家出たのが29歳だったんです。遅かった。で、出てから気づいたんですけど、自分の機嫌を自分でとる能力が全然なかったんです」

実家にいると、不機嫌になれば誰かが気にかけてくれる。飯を作ってくれる。慰めてくれる。一人になった時、その全部が自分の仕事になる。

「最初の半年、本当に精神的にきつかった。でもそれが、大人になる過程だったんだなって今は思う」

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