1日目は待てた。2日目は心配になった。3日目の夜中、スマホを握りしめたまま眠れなかった。
事故かもしれない。遭難かもしれない。それとも、私のことを考えていないだけかもしれない。
4日目に届いたメッセージは、たった一言だった。元気だよって。
安堵した。でも同時に気づいた。この3日間、私が失ったものは不安だけじゃなかったって。
電波が悪いエリアを事前に教えてくれなかった夜―安堵の涙より先に来た怒り
仙台のカフェ。休日の午後、あかりは1年前の夜を思い出すように、ゆっくりと話し始めた。25歳、デザイナー。彼氏の慎也は28歳、アウトドアが趣味で海外の山岳地帯を1週間ソロ旅行する計画を立てていた。
「出発前の夜、毎日LINEするねって言ってくれたんです」
あかりはその言葉を信じた。でも翌日から24時間以上、連絡が途絶えた。
「最初は忙しいのかなって自分に言い聞かせてたんです。電波が悪い場所もあるよねって。でも夜になると、頭が勝手に最悪の方向に動いて」
事故かもしれない。遭難かもしれない。誰かに助けを求めることもできない場所で、一人でいるかもしれない。
「睡眠薬飲んでも、夜中に目が覚めるんです。スマホ見て、また来てない、また来てないって」
3日目にようやく届いた。電波悪くてごめん。元気だよ。
「涙が出たんです。安堵で。でもすぐに怒りが来て。なんで事前に危険ゾーンがあるって教えてくれなかったのって」
あかりは帰国後の慎也に、3日間の話をした。
「慎也、ごめんって言ってくれたんですけど、正直ピンと来てなかったんです。俺は元気だったんだから問題ないでしょって顔で」
あかりは初めて気づいた。慎也にとって旅行中の連絡は、オプションだった。
「私にとっては義務だと思ってたんです。でも慎也にとっては、できる時にすればいいくらいの感覚で。そのすれ違いが、あの3日間の正体でした」
事前に伝えれば防げた不安という単純な事実
電波が悪い。充電が切れる。時差がある。こうした理由は、事前に伝えれば不安の大半を防げる。でも多くの男性は、それを思いつかない。自分が元気でいる限り、相手が心配しているとは想像しない。
あかりの友人、奈々は30歳。彼女も同じ経験をした。
「彼氏が3泊4日の出張に行って、2日間連絡なかったんです。普段はマメな人なのに」
奈々は職場でも集中できなかった。
「地図アプリ開いて、彼の滞在先を調べて。地震ないか、台風ないかチェックして。仕事どころじゃなかった」
3日目の夜、耐えられなくなって電話した。
「充電器忘れてて電池切れだったって。気づいたら夜遅くて連絡しにくかったって。理由はそれだけ」
奈々は帰宅後、本音をぶつけた。
「連絡ゼロはさすがにきついって言ったんです。彼も反省してくれて、次からはホテルのWi-Fiで短くでも送るって約束して。それだけで全然違うんですよ」
奈々は続けた。
「怒りたかったわけじゃないんです。ただ、生きてるって教えてほしかっただけで」
SNSで彼の友人を覗いてしまった夜―信頼が揺らぐ瞬間の醜さ
渋谷のバー。金曜の夜、さくらはビールを飲みながら、自分でも恥ずかしいと言いながら話した。31歳、営業職。彼氏の拓也は33歳、友人たちと国内の温泉旅行に行っていた。
「連絡するよって言ってたのに、到着後から一切来なくて」
さくらは最初、飲みすぎて忘れてるんだろうと笑っていた。でも夜中を過ぎると、笑えなくなった。
「SNSで、彼の友人のアカウントを覗いたんです。ストーリーに楽しそうな写真ないか確認して」
さくらは自分でも分かっていた。みっともないって。でも止められなかった。
「楽しんでる写真が出てきた瞬間、安心と怒りが同時に来て。生きてたんだって安心して、私のことは全然考えてないんだって怒って」
旅行最終日に連絡が来た。電池切れでWi-Fiも弱かったと。
「帰宅後、大喧嘩になりました。旅行中くらい私のことを考えてほしいって泣いて。彼、反省してくれて、それ以来朝晩の定時連絡を入れるルールになったんですけど」
さくらは少し声を落とした。
「でも私、SNSを覗いた自分のことが嫌で。信頼してる人の友人アカウントまで確認するって、どういう状態だよって。不安が積もると、そこまでするんだって自分が怖かった」
不安が生む行動の自己嫌悪
連絡がない時間が長くなるほど、人は奇妙な行動を取り始める。地図アプリで居場所を調べる、SNSで周辺情報を漁る、友人のアカウントをこっそり確認する。どれも本人は惨めだと分かっている。でも止められない。
さくらの同僚、彩花は27歳。彼女も彼氏の旅行中、同じことをした。
「彼氏の友達のインスタ、全部確認したんです。楽しそうな写真に彼が写ってないか」
写っていた。笑顔で飲んでいた。
「怒りよりも、哀しかったんです。私は眠れない夜を過ごしてるのに、向こうはこんなに楽しそうで。なんで一言でも送ってくれないのかって」
彩花は帰宅後、SNSを覗いたことを彼氏に言えなかった。
「言ったら、信頼してないって思われそうで。でも言えなかったことも、ずっと引っかかってる」
7年目の彼女が限界を超えた夜―年に数回の海外出張が積み重ねたもの
吉祥寺のカフェ。平日の午後、恵理は静かに7年間を振り返った。33歳、会社員。彼氏の誠は35歳、年に数回の海外出張がある仕事をしている。
「最初の頃は、仕事だから仕方ないって思えてたんです。1週間くらい連絡なくても、頑張ってるんだなって」
でも3年目から、限界が見え始めた。
「夜中に涙が出るようになって。食欲も落ちて。体重が3キロ減って、友達に顔色悪いって言われて」
ある出張の前、恵理は珍しく事前に伝えた。毎日短くてもいいから連絡してって。
「返事が了解の一言だけで。期待しなきゃよかったって思いながら、それでもスマホ見てました」
連絡は来なかった。1週間、ゼロだった。
「帰国後に、忙しくて余裕がなかった、ごめんって抱きしめてくれたんです。その瞬間、ようやく泣けて」
恵理は7年分の本音を吐き出した。
「連絡がないことよりも、私が不安だって想像できないことが悲しいって言ったんです。そしたら誠、本当にそこまで考えてなかったって。悪気ゼロで、ただ忙しかっただけって」
恵理は今、出張前にスケジュールを共有する約束を取り付けた。時差を考慮したメッセージも送ってもらうようにした。
「7年目にやっとルールができたんです。もっと早く言えばよかった。でも言いにくくて、我慢してたら体に出てきてしまって」
言えない不満が体に出てくるまで
我慢は美徳に見える。でも積み重なった不満は、必ずどこかに出口を求める。食欲、睡眠、体重、気力。体は正直だ。
恵理の友人、麻衣は35歳。彼女は7年同棲した末に別れた。連絡の問題だけが原因ではなかったが、積み重なりの一つだった。
「旅行中の連絡ゼロって、愛情の問題じゃないって分かってるんです。ただ忘れてただけ、忙しかっただけ。でもそれが積み重なると、愛情まで疑うようになる」
麻衣は静かに言った。
「愛情を疑い始めた関係って、元に戻れないんですよ。証明できないから。彼氏がいくら愛してると言っても、信じる力が消えてる」
スマホが故障していただけだった―信頼を失うには3日で十分だった
池袋のカフェ。休日の夕方、あおいは別れた後のことを語った。36歳、フリーランス。元彼氏の雄大は38歳、友人グループで2泊のスキー旅行に行っていた。
「3日間、連絡ゼロだったんです」
帰宅後、雄大は楽しかったで終わらせようとした。
「こっちの3日間を何も聞いてこないんですよ。心配してたとか、連絡できなくてごめんとか、一切なくて」
あおいは聞いた。なんで連絡してくれなかったのって。
「スマホが故障してたって言うんです。でも事前に何も言ってなくて。故障してたなら、誰かのスマホ借りるとか、できたんじゃないかって」
雄大は少し苛立った顔をした。スキー楽しんで何が悪いのって。
「その瞬間、終わったなって思いました」
あおいは長い沈黙の後、別れを選んだ。
「スマホが故障してたのは本当だと思うんです。浮気を疑ってたわけでもない。ただ、3日間私のことを考えなかった事実と、帰ってきてからも何とも思ってない態度が、重なりすぎて」
あおいは続けた。
「連絡がないことが積み重なると、愛情まで疑うようになるって、やっと分かったんです。疑いたくなかった。でも疑わずにいられなかった」
故障という理由の真実よりも大事なこと
理由が正当かどうかは、実は問題の核心じゃない。理由が何であれ、相手が不安だったという事実は変わらない。帰ってきてから、その3日間を一緒に振り返れるかどうかが、関係の質を決める。
あおいの友人、真由は33歳。彼女は同じ状況を乗り越えた側だ。
「彼氏が旅行から帰ってきた時、まず謝ってくれたんです。連絡できなくてごめん、不安だったよねって」
真由はその一言で、ほとんどの怒りが溶けた。
「謝ってくれたかどうかじゃなくて、不安だったよねって、私の気持ちを最初に言ってくれたことが大事だったんです。分かってくれてたんだって思えたから」
緊急時にだけ素早く動く男性と、日常の連絡を忘れる男性
横浜のバー。夜、ひかりは彼氏の矛盾を少し笑いながら語った。28歳、事務職。彼氏の健人は31歳、普段から連絡があまり多くないタイプだ。
「旅行中も連絡ないんです。でもある夜、私が体調崩して連絡したら、飲み会中なのにすぐ電話してくれて」
ひかりは複雑な気持ちになった。
「普段連絡くれないのに、緊急時は素早い。どういうこと?って。普通、逆じゃないかって」
でも考え直した。
「普段の連絡って、義務的にしてるだけかもしれないじゃないですか。でも緊急時の反応って、本能的なもので。あの電話で、本当に必要な時に頼れる人だって分かって」
ひかりは不安を自分でコントロールするようにした。
「連絡がないことを、愛情がないことと同じにしないようにして。連絡不精なだけで、私のことを考えてないわけじゃないって。毎回それを思い出す練習をしてます」
ひかりは少し複雑な表情で言った。
でも正直、寂しいんですよ。分かってても、寂しい。それだけは消えない。