本人たちが幸せならいい。それはわかっている。わかっているのに、腕を組んで歩く二人を見た瞬間に、何かがざらつく。親子ほどの年の差を気持ち悪い違和感を持つ側の内側で何が起きている。
見た目の構図に反応する人
三十四歳のアカリさんは、知人夫婦を見て強い違和感を覚えた。
「夫が五十代後半で、妻が二十代半ばの夫婦でした」
どこで会いました。
「知人の集まりです。二人で歩いてるところを見て」
そのとき何を感じました。
「どう見ても親子にしか見えなかったんです。それだけなら、まだ何とも思わなかったと思うんですけど」
何かあった。
「妻の方が、夫の腕にぶら下がるようにしてたんですよ。あの姿を見た瞬間に、これは夫婦というより父親と娘だなって」
そこで気持ち悪さが来た。
「来ました。自分でも嫌になるくらいはっきりと」
本人たちは幸せそうでしたか。
「幸せそうでした。だから余計に困ったんですよ」
彼女は少し言い直した。
「本人たちの問題なので、私が口を出すことじゃないのはわかってます。ただ、外から見えるあの構図が、どうしても受け入れられなくて」
見た目の違和感は、この話の入口として最も多い。ただし、七人のうち見た目だけを理由に挙げた人は彼女だけだった。残りの六人は、別のものに反応していた。
選ぶ側の動機が透けたとき
三十歳のケンタさんが挙げたのは、動機の方だ。
「友人の兄が、自分より三十歳近く年下の女性と結婚したんです」
そのときの反応は。
「正直、気持ち悪いと思いました」
理由は。
「兄はそれまで同年代の女性と上手くいかなかったんですよ。それを近くで見てて」
その流れで。
「最終的にかなり若い子を選んだ形で。扱いやすいからじゃないかっていう印象が拭えなくて」
言葉にすると。
「若い女性を選ぶことで、優位に立ちたいんじゃないかって。そう感じてしまったんです」
実際に会いましたか。
「会いました。普通の夫婦でしたよ。奥さんもしっかりした人で」
それで印象は変わった。
「変わらなかったです。最初の印象が強すぎて、ずっと違和感が残ってます」
三十九歳のユウトさんの話は、もっと具体的な材料を含んでいた。
「職場の先輩が、親子ほど年の離れた女性と付き合い始めたときに、周りで気持ち悪いって声が上がって」
なぜだと思いますか。
「先輩、それまで若い子が好きだって公言してたんです。何度も」
つまり。
「経験の差とか、人生のフェーズの違いとか、そういうものを全部飛ばして、若さだけで選んでるように見えたんですよ」
結婚後は。
「妻を子供扱いする発言が多くて。あそこで、ああ、やっぱりそういう関係なんだって思いました」
具体的にはどんな発言ですか。
「うちのは何もわからないから、とか。まだ子供だから任せられない、とか。本人がいる前で言うんです」
彼はそこで、はっきりした言い方をした。
「年齢差そのものより、選ぶ側の動機が透けて見えたときに、気持ち悪さが来るんだと思います。年齢は結果であって、原因じゃない」
時間が経ってから変わったもの
二十八歳のサキさんは、友人の結婚を最初は祝福していた。
「二十歳以上年上の男性と結婚したんです。素直におめでとうって言いました」
いつ変わりました。
「しばらくしてからです。ちょっと気持ち悪いかもって思うようになって」
きっかけは。
「友人の言葉が変わったんですよ」
どう変わりました。
「結婚した当初は、大人で頼りになるって言ってたんです。それが数年後には、私が成長するにつれて彼の考え方が古く感じるようになったって」
同じ相手について。
「同じ相手についてです。相手は何も変わってないのに、友人の側の見え方が変わった」
彼女はその現象を、こう説明した。
「最初に魅力だった部分が、後から重荷とか違和感に変わるんですよね。頼りになるって、裏を返せば、こっちが決めなくていいってことなので」
自立してくると。
「邪魔になるんですよ。それが親子ほどの年齢差があると、特に起きやすいのかなって」
三十二歳のナナミさんは、看護師として複数の例を見てきたと言う。
「大きな年齢差がある夫婦を、何組か見てきました」
パターンはありますか。
「若い側が精神的に成熟していく一方で、年上の側が昔の関係性に固執してるケースがありました」
昔の関係性というのは。
「出会った頃の力関係ですね。教える側と教わる側、守る側と守られる側」
それが続かない。
「続かないです。人は成長するので。最初は守ってもらえると感じてた側が、後から、あれは子供扱いだったんだって気づいて幻滅する」
その場面を見て。
「年齢差が生む歪みだなと思いました。最初から歪んでたわけじゃなくて、時間が経つと出てくる」
彼女は続けて、この取材でいちばん踏み込んだことを言った。
「一番気持ち悪いと感じるのは、実は関係そのものじゃないんです」
では何ですか。
「周りが、本人の自由だからって押し通そうとする空気ですね。自由なのは確かなんですよ。ただ、それで思考を止めると、長く続いたときに何が起きるかを誰も考えなくなる」
当事者の子供として育った人
四十七歳のミホさんの証言は、この記事で唯一、内側からのものだ。
「私の両親が、親子ほど年の離れた夫婦でした」
差は。
「父が母より二十五歳近く上です」
子供の頃はどうでしたか。
「周りに、お父さんとお母さん親子みたいって言われるのが恥ずかしかったです。授業参観とか、運動会とか」
何と答えていましたか。
「何も言えなかったです。事実なので」
その後、何が起きましたか。
「父が高齢になって、介護が必要になりました」
そのとき。
「母はまだ働き盛りだったんです。それで、一人で支えることになって」
見ていて。
「こういう未来もあるのかって、実感しました。あのとき初めて、年齢差の意味がわかった気がします」
彼女はその点を強調した。
「年齢差が大きすぎると、人生のフェーズが大きくずれるんですよ。母が定年前に介護を始めることになるとか、そういう形で出てくる」
子供の立場からすると。
「かなり負担です。私も途中から手伝ってましたし。親の介護って、普通は自分が四十代五十代でやるものでしょ。うちは三十そこそこで始まりました」
両親の関係については。
「仲は良かったです。それは間違いなくて。だから、批判したいわけじゃないんです」
ただ。
「ただ、大変だったのは事実なので。そこを、幸せならいいでしょって言われると、少し困る」
親の立場から
五十歳のヒロシさんは、娘が自分と同年代の男性と交際を始めた。
「正直、ショックでした」
何が一番。
「娘の年齢を考えると、相手は私とほぼ同じか、それ以上なんですよ」
同世代ですね。
「同世代です。だから、あの世代の男が二十代の女性をどう見るかも、なんとなく想像がついてしまって」
具体的な心配は。
「娘を子供扱いするような関係になるんじゃないかっていう不安が強くて」
本人同士は納得している。
「してます。それは聞いてます。ただ、親の立場からすると受け入れがたいものがあって」
将来については。
「健康とか、生活の負担とか。相手が七十のときに娘は四十代なので。そこを考えると、どうしても心配になります」
彼はそこで、少し声を落とした。
「これ、娘には言えないんですよ。言ったら関係が壊れるので。だから一人で抱えてます」
違和感の中身は、一つではなかった
七人の話を並べると、気持ち悪いという同じ言葉の下に、別々のものが入っていた。
見た目の構図に反応した人。選ぶ側の動機を推測して反応した人。時間が経ってから力関係の変化を見た人。当事者の家族として実際の負担を経験した人。親として将来を計算した人。
これらは全部違う話だ。同じ言葉でまとめられているせいで、区別されないまま流通している。
そして、そのうちのいくつかは当事者に確認する手段がない。ケンタさんが感じた優位に立ちたいという動機は、彼の推測でしかない。本人に聞いたわけではないし、聞いても答えは出ないだろう。
ミホさんに最後に聞いた。ご両親の結婚をどう思っていますか。
「難しいですね。私が生まれてるので、否定はできないですし」
そうですね。
「ただ、私が同じ選択をするかというと、しないと思います。あの介護の時期を知ってるので」
お母様には言いましたか。
「言ってないです。言えないですよ。あの人が一番大変だったので」
彼女は少し黙って、それから付け足した。
「母が一回だけ、こぼしたことがあるんです。父が寝たきりになってた頃に。私、この人の看取りまでやるんだね、って」
どう答えましたか。
「何も答えられなかったです。あれ、質問じゃなかったので」
外で救急車のサイレンが遠ざかっていって、しばらく二人とも黙っていた。