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元彼から連絡が来る前兆を、六人が振り返る。当たったのは、いちばん期待していなかった日だった

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半年止まっていたアカウントから、急にいいねがつく。夢に出てくる。共通の友達が、そういえば彼が君のこと聞いてたよ、と言ってくる。そういう小さいことが起きたあと、本当に連絡が来ることがある。

目次

半年止まっていた通知が、動き出した

池袋の、地下に降りていく喫茶店。空調の音が大きくて、話し声が埋もれる。あゆみさん、二十八歳、会社員。彼女はスマホを裏返してテーブルに置いてから話し始めた。

別れて半年、完全に無風でした。向こうのアカウント、投稿もないしリアクションもない。私も見ないようにしてたけど、たまに見てました。正直、週三くらいは見てた。

急に、いいねがついたんです。私が上げたどうでもいい飯の写真に。それが始まりでした。次の日はストーリーの閲覧者に名前があった。その次の週も。

通知の数を、勝手に数えていた

その時期のことを聞くと、彼女は苦笑いした。

数えてました。今週三回見られた、先週は一回だったな、みたいな。自分でも気持ち悪いと思うんですけど、頭が勝手にカウントしてる。

同じ頃、共通の友達から連絡が来た。彼が、あゆみ元気なのって聞いてきたよ、と。

もうその時点で、来るなと思いました。思ったけど、期待してるのを認めたくなくて、へえ、って返した。

メッセージが届いたのは二週間後の夜中です。久しぶり、元気にしてる、って。深夜一時でした。私、その通知を三十分見てました。返さなかったんじゃなくて、返せなかった。指が動かないんですよ。

翌朝、元気です、とだけ返した。会話は続かなかったという。

たぶん向こうも、特に用があったわけじゃないんですよ。夜中にふと寂しくなって、いちばん近くにあるボタンを押しただけ。私の半年と、あの人の三十秒が、あそこで一回だけ当たった。それだけの話でした。

夢を見始めた一週間後に来た

けいこさん、三十二歳、看護師。夜勤明けで会ったからか、話すペースがゆっくりだった。

三ヶ月経った頃です。急に夢に出てくるようになった。それも、寄りを戻す夢とか、揉める夢とかじゃなくて、ただ二人で歩いてるだけの夢。会話の内容も覚えてない。電話してる夢もありました。

日中はほとんど考えてなかったんですよ。仕事も忙しかったし。それなのに朝起きると、なんで今なんだろう、って引っかかる。週に二、三回、それが続きました。

忘れようとしていたぶんが、夜に出ていた

彼女は、これは自分なりの解釈ですけど、と前置きした。

日中の私は、彼のことを考えないようにするのがうまくなってたんだと思います。思い出しそうになったら別のことをする、を三ヶ月やって、技術として身についてた。

でも、寝てる間はそれができない。抑えてたぶんが、まとめて夜に出てきた。だから夢を見るようになったのは、忘れかけてる証拠じゃなくて、まだ全然処理できてない証拠だったんじゃないかと思ってます。

同じ時期に、二人でよく行っていたカフェの近くを通ることが増えた。無意識にそのルートを選んでいたのだろう、と彼女は言う。一度、店の前で立ち止まったこともあった。

友達には、夢見始めたから連絡来るかもよ、って冗談で言ってました。そしたら一週間後に本当に来た。最近どうしてる、って。あれはさすがに驚きましたね。

内容は近況の確認程度で、そこから何かが動くことはなかった。

夢を見たから連絡が来たとは思ってないです。順番としては、私が別れをまだ消化できてなかった時期に、向こうもたまたま同じくらいの時期に思い出した、というだけだと思う。ただ、当たったときの気持ち悪さは、けっこうなものでした。

もういい、と本当に思えた頃に動いた

まゆさんが話してくれたのは二十五歳、大学生だった頃のことだ。現在は二十九歳。

別れてから半年、毎日考えてました。連絡したい衝動を抑えるのが日課みたいな感じで。下書きは何十回も書いた。送らなかっただけで。

変わったのは、サークルにのめり込んでからです。準備とか運営で毎日忙しくて、バイトも増やして、気づいたら彼のことを思い出す回数が激減してた。

本当に手放したかどうかは、自分でわかるらしい

彼女は、ここが大事だと思うんですけど、と身を乗り出した。

手放したふりの時期って、あったんですよ。もう大丈夫、忘れた、って自分に言い聞かせてる時期。でもあれは、忘れたことにしてるだけで、心の隅で連絡を待ってる。

本当にもういいと思えたときは、感触が全然違いました。彼のことを考えても何も起きないんです。悲しくもないし、腹も立たない。ただの過去の人になってる。

連絡が来たのは、その時期でした。元気、というだけの短いメッセージ。

忘れた頃に来るって本当なんだな、と思いました。でも、これって因果関係ないですよね。向こうは私が忘れたかどうか知らないんだから。ただ、こっちの受け取り方が全然違う。追いかけてた時期に来てたら、私は絶対に舞い上がって、また同じことを繰り返してたと思います。もういいと思えてから来たから、普通に返して、普通に終われた。

タイミングが良かったんじゃなくて、私の側の準備ができてただけです。

記念日の夜に、感傷だけが届いた

りなさん、三十四歳、事務職。彼女の場合は、日付だった。

付き合った日と誕生日が近いんですよ。その時期になると、なぜか彼のことが浮かぶ。去年は何もなかったんです。二年目の今年は、なんとなく、もし連絡が来たらどうしよう、って考えてる自分がいた。

その日の夜に来ました。あの頃はありがとう、みたいな、ちょっと感傷的な文面で。

思い出に浸っている人と、生きている人がいる

返信はしました。ありがとう、元気でね、くらいのことを。そこで終わりです。

あとから思ったのは、あの人が連絡してきたのは、私に用があったからじゃないってこと。日付を見て、当時のことを思い出して、その気分を誰かに渡したかっただけ。渡す先がたまたま私だっただけです。

思い出に浸ってる人の連絡って、内容でわかります。今の私のことを何も聞いてこないので。近況を聞かないんですよ。過去の話しかしない。あれは、私に会いたいんじゃなくて、あの頃の自分に会いたいんだと思います。

友人経由の情報と、本人の連絡はほぼ同時だった

さとみさん、二十九歳、フリーランス。

別れてから一年近く、何もなかったです。それが急に、友達から、彼が君のこと気にしてるみたいだよ、って。近況を聞かれたらしくて。

複雑でしたね。嬉しいのか嫌なのかもわからない。ただ、直接聞けよ、とは思いました。

数日後に本人から来た。最近どうしてる、元気にしてるかなと思って、という文面だった。

外堀から埋めてくるのは、断られるのが怖いから

なんで友達に先に聞いたんだろう、って考えたんです。たぶん、いきなり送って無視されるのが怖かったんだと思う。

彼氏がいるかどうか、私がまだ怒ってるかどうか、そういうのを事前に知りたかった。安全確認ですよね。それがわかってから送ってきてる。

だから、共通の友達に近況を聞かれ始めたら、けっこう確率は高いと思います。あれは本人が準備してる段階なので。ただ、そこまで慎重な人が送ってくる連絡って、たいてい中身がないですよ。慎重に送るぶん、何も踏み込めない文面になるので。

振った側は、何を考えていたのか

ゆうきさん、三十一歳、会社員。彼は別れを切り出した側だ。

最初の二ヶ月は、正直ほっとしてました。自由になったな、と。それが、三ヶ月目くらいから、あれ、と思い始めて。

決定的な出来事はないんです。金曜の夜に予定がなかったとか、体調崩したときに誰もいなかったとか、その程度。ただ、そういうのが積み重なると、本当にあれでよかったのかな、と考えるようになる。

送るまでに、二ヶ月かかっている

彼女のSNS、こっそり見てました。見てるのがバレる形式のやつは、指が震えながら見てた。共通の友達に、あの子どうしてる、って聞いたこともあります。何気ない感じを装って。

連絡を送るまで二ヶ月くらいかかりました。文面は何十回も書き直してます。長いと重いし、短すぎると素っ気ないし。最終的に送ったのが、元気、の二文字ですよ。二ヶ月かけて二文字です。

彼はここで笑った。

後から聞いたら、彼女もその少し前から俺の夢を見てたらしくて。お互いに同じ時期に意識してたのかもしれない。

ただ、あれを前兆と呼んでいいのかはわからないです。俺の側に何ヶ月分かの助走があって、それが向こうに漏れてただけかもしれない。SNSの見方とか、友達への聞き方とか、どっかに出てたんだと思います。

前兆が当たった人と、当たらなかった人の差

六人に話を聞いて、はっきりしていたのは、前兆と呼ばれるものが送り手側の準備期間の副産物だということだ。いいねが復活するのも、共通の友人に近況を聞くのも、その人が連絡を送るまでの助走にあたる。だから当たることがある。夢や虫の知らせのほうは、受け取る側の未処理の感情が形を変えたもので、当たったかどうかは後から数える人の記憶に左右される。

もう一つ、六人が口を揃えたことがある。連絡が来た後の話だ。復縁につながった人は、この中に一人もいない。

まゆさんの言い方がいちばん残った。連絡が来るかどうかは向こうの問題で、来たときにどう受け取るかがこっちの問題です。そこを混ぜると、待つ時間が全部無駄になる、と。

あゆみさんは今も、あの夜の通知を消していないという。返さなかった三十分の記憶ごと、そこに置いてある感じです、と彼女は言った。次に同じことが起きたら返すのか聞くと、しばらく考えてから、わかんないです、と答えた。喫茶店の空調の音が、その沈黙をうまく埋めていた。

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