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彼女に好きかわからないと言われた。何もしていないのに言われた人が、あの一言をどう分解したか

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殴られたようなものだと思う。喧嘩もしていない。浮気もしていない。むしろ、いい彼氏をやってきたつもりだった。それなのに、会話の途中で急にその一文が出てくる。何かした、と聞けば、何もしてない、と返ってくる。何もしていないのに、なぜ。八人に会って、言った側と言われた側の両方から聞いた。

火曜の夜10時前、二十四時間営業のファミレスの喫煙席から一番遠い角。ドリンクバーの氷が落ちる音が定期的に響く。ケンタさんは呼び出しボタンを一度も押さず、水だけで一時間半話した。言われたのは一年前だという。日付を聞くと、七月の第二週の土曜だとすぐに答えた。

目次

何もしてないのに、と言われた側の頭のなか

テレビがついたまま、その一言が出た

ケンタさん、28歳。付き合って半年、彼女の部屋にいたときだった。

バラエティ番組が流れてて、二人で笑ってたんです。その直後ですよ。急に、私、好きかわからないかも、って。

彼は最初、聞き間違いだと思ったという。

え、って言ったら、もう一回同じことを言われました。頭が真っ白って、あれ本当にあるんですね。視界がちょっと狭くなった。

何かした、と聞いた。返ってきたのは、何もしてない、だった。

何もしていないことが、原因になり得る

彼が三ヶ月かけて理解したのは、そこだったという。

俺、減点されないようにやってたんです。遅刻しない、約束破らない、怒らせない。それを一年近くやってた。

でもそれって、と彼は続けた。

何も起こしてないだけなんですよね。彼女は俺に何かされたわけじゃない。ただ、何もされてなかった。マイナスがゼロなだけで、プラスがどこにもなかった。

問題を起こさない交際は、外から見れば健全に映る。壊れる理由がないから、当人も安心する。ただ、壊れないことと、こちらを向いていることは、別の話だ。

言った側は、何ヶ月も抱えていた

髪を切った日から数え始めた

言った側の話も聞きたくて、ミサさん、26歳に会った。彼女は交際二年目でその言葉を口にしている。

きっかけを聞かれると困るんです。事件がないので。

強いて挙げるなら、と彼女は前置きした。

髪を15センチ切った日があって。美容院に三時間いて、けっこう思い切ったんです。その日に会ったのに、気づかれなかった。それだけなら別にいい。よくある話だし。

ただ、彼女はそこから数え始めた。

仕事で失敗した話をしても、へえ、で終わる。隣に座ってても、彼はずっとスマホを見てる。嫌なことをされた記憶はゼロなんですよ。ゼロだから、怒れない。

寂しいと言えなかった理由

なぜ、寂しいと直接伝えなかったのか。踏み込んで聞いた。

言ったら、面倒な女になるじゃないですか。しかも彼、何も悪いことしてないので。悪くない人に文句を言う自分が嫌だった。

そのまま八ヶ月ためたという。

たまりすぎて、寂しいって言葉が出なくなってました。代わりに出たのが、好きかわからない、です。あれ、実は寂しいの成れの果てなんですよ。

彼の反応は、いい彼氏でいたつもりなのに、だった。

その言葉で、あ、通じてないなと思いました。私が言ってるのは、いい彼氏かどうかの話じゃない。私に興味があるかどうかの話なので。

惰性と、好きの区別がつかなくなる

会う理由が、付き合っているから、に変わった

ユウキさん、31歳。彼の相手は、嫌いじゃない、でも好きかと聞かれると答えられない、と言ったという。

最初は普通に好きで始まったんです。それが三年目くらいから、土曜に会うのが予定になった。会いたいから会うんじゃなくて、土曜だから会う。

彼女が混乱していたのは、安心とときめきの区別だったという。

一緒にいて落ち着くのは本当らしいんです。ただ、それが恋愛なのかがわからない、と。俺からしたら、落ち着くなら十分じゃんって思うんですけど、彼女にはそこが大問題だった。

努力を増やしても、分からないは消えない

彼が選んだのは待つことだった。連絡を増やし、デートの回数も増やした。

月に二回だったのを四回にして、LINEも朝と夜に送るようにして。三ヶ月やりました。

反応はどうでしたか。

努力してるのは伝わってる、って言われました。でも、分からないは消えなかった。

彼はそこで気づいたという。

俺、中身を聞かないまま量だけ増やしてたんです。何が足りないのか確かめずに、とりあえず頑張ってた。あれ、意味なかったですね。マラソンで方向を確かめずに走ってるのと同じで。

別れの予告だったケース

数週間後に、切り出された

ショウさん、34歳。彼は最初からその言葉を終わりの合図だと受け取っていた。

嫌な予感がしたんです。実際、三週間後に、このまま続けるのはお互いに良くないと思う、って言われました。

後になって知ったのは、彼女がずっと前から違和感を抱えていたことだった。

半年くらい前から、らしいです。言葉にするまでに半年かかった。俺はその半年、何も知らずに普通にしてた。

嫌いと言ってほしかった

彼の本音は、そこに集約されている。

はっきり嫌いって言われた方が楽でした。分からない、だと、こっちに希望が残るので。希望が残ると、動けないんですよ。何かすれば変わるかもって思ってしまう。

ただ、と彼は言い添えた。

今は、あれが彼女なりの誠実さだったんだろうとも思います。嫌いじゃないのに嫌いと言うのは、嘘なので。誠実さって、必ずしも優しくないんですよね。

持ち直した例と、その条件

わかるだろ、で済ませていた

タイチさん、30歳。彼の場合は関係が続いている。

彼女が言った理由が、はっきりしてたんです。俺が、わかるだろ、で全部済ませてたから。

好きだと言葉にした回数を聞いた。

一年で二回とかだと思います。誕生日と、あと一回。言わなくても伝わってると思ってた。

彼女は行動と言葉で確かめたいタイプだった。

俺にとっては、毎週会ってる事実が答えなんですよ。彼女にとっては、答えになってなかった。同じ関係を見てるのに、読んでるものが違った。

変わったのは、量ではなく種類

彼が変えたのは、頻度ではなかった。

デートを増やしたわけじゃないんです。増やしたのは、気づいたことを口に出す回数。ネイル変えたね、とか、その靴新しい、とか。最初はわざとらしくて自分でも笑いました。

三ヶ月ほどで、彼女の言葉が変わったという。

分からない、が、まだ好きでいたい、になりました。まだ、が入ってるのが本音だと思います。完全に戻ったわけじゃない。

彼氏という枠に入れた瞬間、薄れた人

リナさん、29歳。彼女が抱えていたのは、もっとねじれた混乱だった。

友達としては、本当に大事なんです。一緒にいて楽しいし、楽だし。他に気になる人がいるわけでもない。

ただ、恋人という位置に入れた瞬間、実感が消えたという。

付き合う前の方が好きだったんですよ。手が届かないうちは、はっきり好きだった。届いた瞬間に、あれ、ってなった。自分でも意味がわからなくて。

彼にとっては残酷な告白だっただろう、と私が言うと、彼女は認めた。

残酷だと思います。でも、好きって嘘をつく方がもっと残酷なので。あの言葉は、嘘をつかないための最後の line でした。

その後、二人は距離を置いて、今は友人に戻っている。

検索してここまで来た人が、確かめたいこと

あれは別れの前触れなのか

八人のうち、その後に別れたのが五人、続いているのが三人。分かれ目になったのは、言った後の相手の態度だった。伝えた後に冷たくなった相手とは全員が別れている。不安そうに伝えて、どうしたいかを一緒に考えようとした相手とは続いている。言葉そのものより、その次の一週間の様子で判断できる。

理由を聞いてもいいのか

聞いた人と聞かなかった人で、その後の消耗が違った。聞かずに量を増やしたユウキさんは三ヶ月を空回りに使っている。聞いたタイチさんは、方向がわかったぶん早かった。ただし、聞いたところで本人も説明できない場合がある。ミサさんは、聞かれても最初は答えられなかったと話した。

どのくらい待つのか

決着まで最短で三週間、最長で八ヶ月。曖昧なまま今まで通りを続けた期間が長い人ほど、結果に関係なく疲弊していた。全員が口を揃えたのはそこだ。答えが出ないことより、答えを出さないまま同じ日常を続けることのほうがきつい。

自分に価値がないということなのか

そうではない、と言った側の二人がはっきり否定した。ミサさんの言葉が的確だった。彼が悪い人だったんじゃなくて、私に向いてなかっただけです、と。ただし、言われた側がそう受け取れるかは別問題で、ケンタさんは半年ほど自分を疑い続けたと話している。

生活はどう変わったか

ケンタさんは体重が5キロ落ち、ショウさんは仕事で三回続けてミスをした。ユウキさんは三ヶ月で交通費が二倍になっている。言われた側は数字で語れる変化を持っていて、言った側は、その期間の記憶が薄いと言う人が多かった。

消していないアルバム

ケンタさんは今も彼女と別れていない。あの日から一年、関係は続いている。

戻ったんですか、と聞いた。彼は少し考えてから答えた。

戻ってはいないです。あの一言は消えないので。今も、隣にいるときに、この人まだ分からないままなのかなって思う瞬間があります。

確かめないんですか。

確かめて、まだ分からないって言われたら終わるので。聞けないです。

彼はスマホを取り出して、写真フォルダを開いた。あの日の前日に撮った二人の写真が残っているという。画面はこちらへ向けなかった。

これ、消そうとしたことが三回あります。全部やめました。消したら、あの頃は幸せだったって事実まで無くなる気がして。

ドリンクバーの製氷機がまた音を立てた。彼はコップの水を飲み干して、氷だけになったそれをしばらく揺らしていた。答えの出ていない関係を、答えが出ないまま続けている人の手つきだった。

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