三十代半ばを指す言葉として使われている。この年齢で結婚を目指すと、実際に何が起きるのか。会える人はいるのか、条件はどこまで下げることになるのか、動いた人と止まった人でその後どう分かれたのか。七人に会って、金額と回数と月数を聞いた。読みやすい話にはならなかった。
土曜の午後、私鉄沿線の駅ビルの上階にあるカフェ。窓の下に線路が見えて、電車が入るたび床がわずかに揺れる。隣の席から子ども連れの声が届く。ナオコさんはその方向を一度だけ見て、視線を戻した。私、この席あんまり得意じゃないんですよ、と笑ってから、じゃあ話しますね、と言った。
この年齢で、何が変わったのか
招待状が続いた年
ナオコさん、35歳。都内の会社で働いている。
去年、結婚式が四回ありました。三十歳のときは八回だったので、減ってはいるんです。ただ、内容が変わった。三十のときはみんな同期でした。去年は、年下の後輩が二回。
親からの連絡も変わったという。
前は、いい人いないの、でした。今は、体は大丈夫なの、になった。心配の種類が変わったんです。あれ、けっこう効きます。
焦っているのか、冷静なのか
彼女の説明が印象に残った。
焦りと冷静さが、同時にあるんですよ。片方だけならまだ楽なんです。焦ってるだけなら突っ走れるし、冷静なだけなら計画を立てられる。両方あると、動きながら自分を疑い続けることになる。
自然な出会いと、婚活の場での見え方の違い
仕事で会った男性は、いい人に見える
サトミさん、34歳。この差に驚いたと話した。
会社の取引先とか、趣味のイベントで知り合った人って、普通にいい人に見えるんです。話してて楽しいし、気が利くなとか、笑い方が感じいいなとか。
婚活アプリになると、見る場所が変わった。
プロフィールを開いた瞬間から採点が始まるんです。年収、身長、勤務先、話し方、将来どうしたいか。素敵だなと思っても、結婚するには微妙、が先に来る。
自分の性格が削られていく
彼女がつらかったのは、相手の評価ではなかった。
ケチをつける側の人間になっていく感じがしたんです。会う前から減点してる自分が、単純に嫌でした。
そういう場だから仕方ないと言われて、と彼女は続けた。
仕方ないのはわかります。探す場なので。でも、半年やって、私って人をこんなふうに見る人間だったっけ、って思うようになった。それが一番のダメージでした。
急いだ人と、退路を断った人
二回目のデートで交際、半年で結婚したい
ミカさん、36歳になる直前だった。
もうすぐ三十六っていう数字に、完全に押されてました。だから決めたんです。いいなと思ったら二回目のデートで付き合う。付き合ったら半年以内に結婚の話をする。
もともとせっかちな性格でもあったという。
年齢とせっかちが合体して、とんでもない速度になってました。
相手の熱量までは早められない
その方法で三人と交際して、三人とも半年以内に終わっている。
こっちだけが急いでるんですよ。相手はそんなつもりじゃない。話が結婚に向かうたびに、相手の顔が固くなるのが見えるんです。それでも止められなかった。
彼女の知人には、もっと極端な例がいた。
結婚を決めて仕事を辞めて、実家も出て、同棲を始めた人がいます。退路を断ったんですね。半年で相手が出ていきました。今は実家に戻ってます。
焦りは自分の行動だけを早めて、相手の覚悟には触れない。ミカさんはそれを三回繰り返して理解したという。
アプリで三十人と会った人の記録
いいねは来る。デートも成立する
ユカさん、35歳。十ヶ月で二十九人と会った。
最初の一ヶ月で、まだいけるのかもって勘違いしそうになりました。いいねが来るし、メッセージも続くし、デートも成立する。年収が高い人も、話が面白い人もいた。
ただ、好きになれる人が現れなかった。
二十九人ですよ。二十九人と会って、二回目に進んだのが八人、三回目が三人、交際に至ったのがゼロです。
会うこと自体が消耗になる
彼女が数えていたのは回数だけではなかった。
一回のデートで、カフェ代とか食事代とか交通費で、平均三千円くらい。十ヶ月で九万近く。あと、時間です。土日が全部埋まってた時期があります。
疲れた理由は金額ではなかったという。
毎回、初対面の説明をするんですよ。仕事のこと、家族のこと、なんで独身なのか。同じ話を二十九回します。二十回目くらいから、自分の話が録音を再生してるみたいに聞こえてきて。
会社と家の往復では出会いがない。アプリはしんどい。やらなければ何も起きない。やっても好きな人に会えるとは限らない。彼女はそこを、努力ではどうにもならない部分がある、と表現した。
相談所で見えた、速い人と止まる人
一覧に、相手の現在地が出る
アヤさん、37歳。結婚相談所で二年活動した。
仮交際が終わった相手が、別の人と真剣交際に入ってるのが見えるんです。システムの一覧で。しかも早い。うちが終わった二週間後とかに。
条件のいい男性は、驚くほど速く成婚していったという。
三十代前半で年収があって、写真が普通の人。半年もかからないです。見てて落ち込みました。市場ってこういうことかって。
動く人は、年齢に関係なく決まっていた
一方で、彼女が観察していたのは別のタイプだった。
気になった相手に自分から申し込んで、脈がなければすぐ次に行く人がいるんです。その人たち、バツイチでもミドサーでも、比較的早く決まっていく。
待っていた人はどうでしたか。
私です。二年待ちました。申し込みを待って、来たら会って、断られたら落ち込む。それを繰り返した。年齢が上がるほど、待つ戦い方は効かなくなります。
子どもの話は、雑談として出てくる
いらないと言っていた相手が、変わった
ケイコさん、36歳。以前の交際相手と、その話で別れている。
付き合った当初は、二人とも子どもはいらないねって言ってたんです。二年くらいはそれで一致してた。
変わったのは、周囲に子どもが生まれ始めてからだった。
彼の同期に赤ちゃんができて、その写真を見てから明らかに態度が変わりました。やっぱり欲しいかも、って言われて。責める気にはならなかったです。人の気持ちは変わるので。
でも別れた。
私が三十四のときでした。その年齢で子どもを望まれると、条件がひとつ増えるんですよ。産めるかどうかっていう。
治療の費用と痛みまで、初対面で話す
婚活の場でその話題がどう扱われているのかを聞いた。
私は先に伝えてます。不妊の傾向があること。治療を強要しないことを条件にしてる。
初対面に近い段階でですか。
しないと後で揉めるので。相手も普通に話してきますよ。治療にいくらかかるとか、注射が痛いとか。雑談の顔で、内容だけが重い。ミドサーの婚活って、そういう会話が普通にあります。
彼女は最後に、生理的に無理な相手とは結婚できない、とも言った。理由は現実的だった。
長く拒否すると関係が壊れるので。そこを我慢して続けた人を、何人か見てます。
結婚しないと決めた人
リサさん、35歳。以前は婚活をしていたが、途中でやめた。
半年やって、気づいたんです。私、結婚したいんじゃなくて、しないといけないと思ってただけだった。
やめてからは資金に切り替えたという。
老後の貯金に振りました。毎月の積立を増やして、保険も見直して。数字が増えていくのは、精神的にすごく安定します。
不安はないのか。
ありますよ。資産を遺す相手がいない、っていうのは、たまに怖くなる。一人で生きる覚悟と、怖い気持ちは同時にあります。どっちかに片づいたりしない。
彼女は、半年やってみるのは意味がある、と言い添えた。やってみた上で降りると、覚悟が固まるからだという。
結婚した側から見た、その後
ナオコさんとは別に、既婚のシズカさん、41歳にも会った。三十代半ばで結婚し、子どもがいる。
手放したものを聞くと、彼女は即答した。
自分の時間、美容、睡眠。この三つです。惣菜を買う日が贅沢に感じます。外食なんて年に何回か。
支援制度も今より薄い時期だったという。
みんな妥協して生きてますよ。私も妥協してます。それが悪いことだとは思ってない。
彼女が胸が苦しくなると言ったのは、別の話だった。
バリキャリを目指してた人が家庭に入って、三十代半ばで人生を見直してる、みたいな話を聞くと、しんどいです。結婚したら終わりじゃなくて、そこから何を手放すか決める作業が始まるので。
検索してここまで来た人が、確かめたいこと
ミドサーは具体的に何歳を指すのか
明確な定義はない。話を聞いた人たちは、三十四から三十六あたりを自認していた。年齢そのものより、周囲の結婚がひと段落して、次の話題が体や親のことに移る時期を指す言葉として使われている。
婚活はどのくらいで結果が出るのか
七人の中で、活動期間は半年から二年。決まった人はゼロではないが、多数派でもない。動いた回数と結果が比例していない点は、全員が指摘した。ユカさんの二十九人と、アヤさんの二年が、そのまま数字として残っている。
何にどのくらい使うのか
ユカさんは十ヶ月で約九万。アヤさんは相談所の入会金と月会費で二年間に三十万を超えた。リサさんは婚活をやめて積立に回している。
条件は下げるべきなのか
下げたと答えた人はいなかった。代わりに、条件の項目そのものを組み替えたと言う人が多い。年収や身長を外して、会話の続き方や、都合の悪い話を先に出すかどうかを見るようになった、という話が複数あった。
動くのと止まるの、どちらがいいのか
判定はできない。ただ、待っていて状況が良くなった人は一人もいなかった。アヤさんの言葉が残っている。選ばれるのを待つより、自分で選んで動ける人の方が強いです、と。
電車が通るたび
ナオコさんは今も婚活を続けている。やめる予定はないという。
正解があるならとっくに教えてほしいです。でも誰も持ってない。
彼女は窓の外を見た。ちょうど電車が入ってきて、床がわずかに揺れた。
さっきの子連れの家族、いいなって思ったんです。同時に、あれは無理だなとも思った。両方本当なんですよ。どっちかに決められない。
決めなくてもいいんじゃないですか、と私が言うと、彼女は少し笑った。
そう言ってくれる人、あんまりいないです。だいたい、どっちかにしなさいって言われる。
電車が出ていって、床の揺れが止まった。彼女はカップの底に残ったコーヒーを飲み干して、時計を見た。この後、五時から見合いが一件入っているそうだ。