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夫婦円満の秘訣、うまくいった夫婦いかなかった夫婦の違い

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夫婦円満の秘訣、と聞いて思い浮かぶ言葉は、だいたい決まっている。

感謝を忘れずに。コミュニケーションを大切に。お互いを尊重して。どれも正しい。でも、そういう言葉を読んで救われた夫婦を、私はあまり知らない。

実際に長く続いている夫婦に話を聞くと、出てくるのは美しい言葉じゃない。喧嘩の話、限界だと思った夜の話、相手を嫌いになりかけた瞬間の話そういう、どこにも書いてないことのほうが、先に出てくる。

この記事は、10年以上の婚姻歴を持つ夫婦3組と、離婚を経験した1人への取材をもとにしている。うまくいっている夫婦だけに聞いても、片面しか見えない。壊れた経験を持つ人の話を混ぜることで、初めて見えてくるものがある、と思った。


目次

夫婦円満の秘訣

駅から商店街を5分ほど歩いた先の、古い喫茶店。木のカウンターに年季が入っていて、コーヒーの匂いが壁に染み込んでいる。窓から見える街路樹が、風で揺れていた。

最初に話を聞いた西川さん(仮名・44歳・編集者)は、夫と結婚して16年になる。一人で来た。向かいに座ると、「夫にはこの取材のこと、話してないんですよ」と最初に言った。

なぜですか、と聞いた。

「夫婦円満の秘訣を聞かれてる、って言うと、うちはそんなに円満じゃないのにって、夫が笑うから」

それから少し間があって、「笑うけど、続いてるんですよ、16年。それが秘訣なのかもしれない」と付け加えた。


「円満に見えた夫婦が、ある日崩れた」秘訣を語る前に知っておくべきこと

西川さんが結婚13年目に経験したことを、まず聞いた。

「外から見ると、うちはたぶん仲のいい夫婦に見えてたと思う。喧嘩もしないし、子育ても分担してるし、週末は一緒に出かけてたし。でも13年目の秋に、突然夫が言ったんですよ。『俺、この生活に疲れた』って」

コーヒーカップを両手で包んだ。

「疲れた、の意味がわからなくて。離婚したいってこと?別の人が好きになったってこと?全部聞いたら、そうじゃない、ただ疲れた、って言うんですよ。そのとき初めて、私は夫の疲れに気づいてなかった、ということがわかって」

「13年間、波風を立てないことを、円満だと思ってた。でも波風を立てないために、夫が言いたいことを飲み込み続けてた。私が気づかないところで、ずっと」

これは、取材を通じて何度も出てきたパターンだった。外から見て円満に見える夫婦の内側で、どちらかが静かに消耗し続けている。その消耗は、ある日突然、限界として表面に出る。

「あの秋があってよかったとは言いたくないけどあそこで夫が言ってくれなかったら、うちはもう終わってたと思う。円満に見えたまま、内側から腐ってた」


夫婦円満は「状態」ではなく「更新作業」だ

この取材を通じて、一番手応えを感じた視点がある。

夫婦円満、という言葉は、状態を指しているように聞こえる。仲が良い状態、揉めていない状態、お互いを尊重できている状態。でも実際に長続きしている夫婦の話を聞くと、円満とはそういう静的な状態ではなく、絶え間ない更新作業の結果として一時的に生まれるものだ、という感覚が伝わってくる。

関係は放っておくと、必ず劣化する。人は変わる。価値観が変わる。体が変わる。仕事が変わる。子どもが生まれ、親が老い、収入が上下する。そのたびに、夫婦の関係も更新されなければ、どこかで齟齬が生まれる。

更新をサボった夫婦は、5年前の相手と今の相手を混同しはじめる。あの人はこういう人だ、という固定した像を相手に貼り付けて、実際の相手を見ることをやめる。そこから先は、すれ違いではなく、空振りが続く。

西川さんの夫が言った「疲れた」は、13年間の更新サボりが一度に押し出された言葉だったのかもしれない。


長く続いた夫婦が実際にやっていたこと——具体的な証言

神奈川在住の桐島さん夫婦(仮名・夫47歳・妻45歳)は、結婚22年になる。取材に二人で来てくれた珍しいケースで、向かいに並んで座った。

二人の話し方には、独特のリズムがあった。どちらかが話すと、もう一方が少し頷いて、自然に引き取る。長い時間をかけて作られた呼吸だと思った。

「うちが続いてる理由、聞かれると困るんですよ」と夫の桐島さんが言った。「特別なことを何もしてないから」

妻の桐島さんが続けた。「でも一個だけあるとすれば夫婦の話し合いを、問題が起きてからやらない、ということかな」

どういうことですか、と聞いた。

「問題が起きてから話し合うと、どうしても責める側と責められる側が生まれる。感情が先に来てるから、話が解決じゃなくて勝ち負けになる。だから問題が起きる前に、定期的に話す。うちは月に一回、お互いの近況と、不満と、感謝を話す時間を作ってて」

夫が補足した。「最初は不自然だったんですよ、決めてやるのが。でも10年続けたら、習慣になった。今はその時間がないほうが落ち着かない」

「何を話すか、というより話す場があること自体が大事だと思う。言いにくいことが言いやすい場所が、決まってあること」

もう一組、都内在住の田中さん夫婦(仮名・夫39歳・妻37歳、結婚11年)には別々に話を聞いた。

夫の田中さんはこう言った。

「俺が続けてることは、ひとつだけある。妻を、13年前に初めて会ったときの目で見ようとすること。毎日一緒にいると、相手が空気みたいになる。それが怖くて意識的に、初めて会った日の感覚を思い出そうとしてる」

「できないときのほうが多い。でも、やろうとしてるかどうかで、見え方が違う気がして」

妻の田中さんは別の話をした。

「私が大事にしてるのは、夫を褒めること、じゃなくて、夫が何かをしてくれたときに、具体的に何がよかったか言うこと。ありがとう、だけじゃなくて、あのときああしてくれて、私はこう思った、って。抽象的な感謝より、具体的な話のほうが、相手に届く気がして」

「それを意識し始めたのは、結婚5年目。それまでは感謝を言わない夫婦じゃなかったけど——言葉が薄くなってたと思う。同じありがとうでも、中身が変わった」


「やってはいけなかった」後悔から逆算する円満の条件

離婚を経験した石田さん(仮名・41歳・フリーランス)の話は、成功例とは違う角度から、円満の条件を教えてくれた。

オンラインで話してくれた石田さんは、8年間の結婚生活を3年前に終えた。画面越しの表情は穏やかだったが、話の途中で何度か、少し目が遠くなった。

「離婚してから、何がいけなかったかを、2年くらいかけて整理した。一番大きかったのは——俺が、妻の変化に気づこうとしなかったことだと思う」

「付き合ってたころの妻と、結婚後の妻と、子どもが生まれた後の妻は、全部違う人に近かった。でも俺の中の妻像は、付き合ってたころのまま更新されてなかった。だから妻が何かを言うたびに、あれ、こんな人だったっけ、という違和感が積み重なって——その違和感を、俺は妻のせいにしてた」

「今わかるのは、妻は変わったんじゃなくて、ちゃんと成長してたんだ、ということ。俺が止まってただけで。でも当時はそれがわからなくて、妻のことを、以前と違う、と感じるたびにどこかで責めてた」

石田さんが別にやってしまったことがあると言った。

「不満を溜めて、一度に爆発させる、というのを繰り返してた。日常の小さな不満を言えなくて、ある日の喧嘩で全部が出る。そのとき出てくる言葉は、今の話じゃなくて3年前の話だったりする。妻からしたら、なんで今それを言う、ってなる。でも俺は3年前からずっと言いたかった。そのずれが、修復できないくらい積み重なった」

「言えない不満は消えない。どこかに溜まってる。その置き場所を、夫婦の間に作れなかったことが、全部の根本だったと思う」


夫婦の「距離感」という、誰も正解を教えてくれない問題

桐島さん夫婦に、22年間で一番難しかったことを聞いた。

二人が少し顔を見合わせた。

夫が先に言った。「距離感、じゃないかな」

妻が頷いた。「それは確かに、ずっと難しい」

「一緒にいすぎると、お互いが息苦しくなる。離れすぎると、気持ちが離れていく。その間のちょうどいい場所が、時期によって変わる。子どもが小さいときと、子どもが独立した後では、全然違う。仕事が忙しいときと、落ち着いてるときでも違う」

「正解がないんですよ。だから毎回、探す。探しながら、ずれてたら修正する。その繰り返しが22年間続いてる」

妻が少し笑った。「今も、ちょうどいい距離、探してますよ。見つかったと思ったら、また変わってる」

田中さんの妻は、距離感について別の言い方をした。

「夫には、夫だけの時間と場所がいると思って、意識的に作るようにしてる。私が関与しない時間。友達と飲みに行くとか、一人で映画を見るとか。最初は寂しかったけど——そういう時間を持って帰ってきた夫のほうが、明らかにいい顔をしてる。干渉しないことが、愛情の形になる、と気づいてから、楽になった」

「私自身も、自分だけの時間を持つようにした。夫婦でいる時間と、個人でいる時間、両方ある生活のほうが、夫婦の時間が豊かになる。全部一緒にいることが円満じゃないんだ、って、結婚8年目に初めて気づいた」


円満が崩れかけた夫婦が、立て直した話

西川さんは、夫が「疲れた」と言った夜から、どう立て直したかを話してくれた。

「その夜は、二人でただ話した。夫が言いたかったことを、遮らずに全部聞いた。途中で泣きそうになったけど、泣かなかった。聞くことに集中した」

「夫が話し終わったとき、私が言ったのは『13年間、言えなかったんだね』ということだけで。謝りたかったし、言い訳もしたかったけど、それより先に、言えなかった13年間を、ちゃんと受け取りたかった」

「そこから少しずつ変わった。週に一回、夫が不満に思ってることを話す時間を作った。最初は夫も出しにくそうにしてたけど、3ヶ月くらいしたら、自然に話すようになった。今はその時間がなくなっても、日常の中で言えるようになってる」

「秘訣って聞かれると、難しい。でも崩れかけたあの秋がなかったら、今の関係はなかった。円満って、一度崩れることで、初めて本物になることがある気がする」

石田さんは、離婚してから気づいたことを最後にこう言った。

「夫婦円満って、お互いが幸せでいることだと思ってた。でも今は、お互いが正直でいること、のほうが近い気がしてる。幸せじゃない瞬間も、しんどい瞬間も、それを隠さないでいられる関係。それが続く夫婦の正体なんじゃないかと、今は思う」

「俺はそれを、結婚してる間に気づけなかった。だから離婚した。でも気づいた今だから、次にもし誰かと一緒になるとしたら、最初からそこを大事にできる気がしてる。それを教えてくれたのが、8年間の結婚だったと思うと、あの時間は無駄じゃなかったのかもしれない」


阿佐ヶ谷の喫茶店を出るとき、西川さんが「夫にこの話、帰ったらしてみようかな」と言った。

するんですか、と聞いたら、少し考えてから「どうだろう」と笑った。

夫婦円満の秘訣は、どこにも売っていない。長く続いている夫婦たちが口を揃えて言うのは、特別なことは何もしていない、という言葉だ。でもその言葉の裏には、何十回もの崩れかけた夜と、その都度探し直した距離と、言えなかったことをやっと言えた瞬間が、全部詰まっている。

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この記事を書いた人

ノンフィクション・リアルドキュメント編集部
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