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夫が帰ってこない夜の時間が止まる感覚―待ち続けた女性たちの本当の孤独

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子供を寝かしつけた。夕飯を温め直した。スマホを見た。また来ていない。

時計の針が11時を回った。12時になった。それでも来ない。

心配と怒りの間で、ただ待つ。この時間がどれだけ重いか、帰ってこない側には分からない。

夫が帰ってこない夜を繰り返してきた女性たちに話を聞いた。彼女たちが失ったのは、待った時間だけじゃなかった。

目次

「タクシーで帰る」の一言が来るまでの5時間―孤独のじわじわした浸食

吉祥寺の定食屋。夕方、由美は子供を保育園に迎えに行く前の30分で話してくれた。36歳、会社員。夫の慎也は38歳、営業職で飲み会が多い。

「飲み会で遅くなるって言ってたんです。でも予定の時間を過ぎても、連絡が途絶えて」

由美はスマホを握りしめた。事故かもしれない。倒れてるかもしれない。

「子供を寝かしつけて、一人でリビングで待ってた。夕飯、二回温め直して。その時間がね、孤独がじわじわ来るんですよ」

深夜に一言だけ来た。タクシーで帰るって。

「ホッとした。でも胸のモヤモヤは消えなくて。安心と同時に、怒りと、寂しさと、全部来て。なんで一言もなかったのかって」

慎也が帰ってきた時、由美は何も言えなかった。疲れて帰ってきた顔を見て、怒る気力もなくなっていた。

「言えないんですよ、何度も繰り返してると。言っても変わらないし、疲れて帰ってきた人を責めるのも違うし」

由美は静かに言った。

「でも翌朝、何もなかったように『行ってきます』ってキスしてくる慎也を見て、この人と私、違う時間を生きてるんだなって感じて。それが一番寂しかった」

待つ側だけが知る時間の重さ

待つ側にしか分からない時間がある。リビングの静けさ、何度も温め直した夕飯、スマホを見る回数。その時間の重さを、帰らない側は知らない。知らないまま、翌朝何事もなかったように出発する。

由美の同僚、奈々は38歳。彼女は夫に一度だけ言った。

「あの夜の5時間、私に返してくれって。そしたら夫、5時間って大げさだろって笑って」

奈々は笑えなかった。

「大げさじゃないんですよ。その5時間、私は心配して、怒って、寂しくて、全部一人でやってたんです。それを大げさって言われた瞬間、この人に分かってもらえることは一生ないんだって思った」

コンビニに行って2時間、「知り合いに会った」―毎回そう言われると

新宿のカフェ。平日の昼休み、恵理は繰り返されるパターンを語った。42歳、パート勤務。夫の隆は44歳。

「タバコ買いに行くって出て行って、1時間経っても音沙汰なくて。心配で電話したら、道で知り合いに会って話が長引いたって」

次の週も同じだった。その次の週も。

「毎回、そんな理由なんです。苛立つより先に不安が勝って。でも不安の後に怒りが来て」

恵理の子供は8歳だ。帰りが遅い日、何度かお父さんどこって聞かれた。

「笑顔でごまかすのがつらくて。コンビニだよって言うんですけど、子供もだんだん、ああまたかって顔になってきて」

恵理は夫に何度か話した。連絡ほしいって。

「わかったって言うんです。で、次の週また同じことが起きる。わかったって言葉が空っぽになっていくのが、一番きつかった」

恵理は今も毎週同じことを繰り返している。

「怒るのも、諦めてるんですよね。怒るエネルギーもなくなってきて。ただ待つだけになってきてる。それが一番危ないと、友達に言われた」

繰り返されることで麻痺する感覚

最初は不安で泣いた。次は怒った。また次は冷静に話し合った。でも同じことが繰り返されると、感情が麻痺していく。麻痺した状態で待ち続けることが、当たり前になっていく。

恵理の友人、由香は40歳。彼女は麻痺した後に何が来るかを知っている。

「ある日突然、もうどうでもいいって思う日が来るんですよ。帰ってきても来なくても、どっちでも同じって。それが一番怖かった。夫への感情がゼロになった瞬間」

由香は今、離婚している。

「麻痺が始まった時点で、関係は終わってたんだと思います」

子供の熱の夜、病院の待合室で一人だった―「大変だったな」の一言

品川のカフェ。夜、美咲は疲れた顔で話してくれた。29歳、保育士。夫の翔太は32歳、激務で毎日深夜帰宅。

「保育園のお迎えから夕飯、風呂、寝かしつけ、全部一人なんです。夫が帰ってくる頃には、私も子供も寝てて」

先月、子供が高熱を出した夜があった。

「深夜に気づいて、救急に連れて行ったんです。待合室で一人で子供を抱いて、他の家族連れを見て、泣きそうになりながら我慢して」

翌朝、夫に話した。

「大変だったなって一言だけで。支えてほしかったんです。ただの報告みたいな返し方をされた瞬間、夫婦の距離がどんどん開く気がした」

美咲は最近、夫に連絡することが減った。

「報告してもそれだけで終わるから、言うのが虚しくなってきて。でも言わないと夫は知らないから、ますます距離が開いて」

美咲は窓の外を見た。

「帰ってこない夫を待つのが日常になって、いつからか待つことすらしなくなったんです。先に寝るようにして。でも朝、隣で寝てる夫を見ると、一緒にいるのに遠い人だなって毎日思う」

同じ家にいても孤独という矛盾

物理的にはいつか帰ってくる。でも感情的には、もう帰ってきていない。同じ布団で眠っても、隣に誰もいない感覚。その矛盾が、一番深い孤独だ。

美咲の友人、沙織は31歳。彼女は夫が深夜帰宅を3年続けた後、気づいた。

「夫が帰ってくるかどうか、気にしなくなってたんです。どこかで諦めてた。一人でやる方が楽になってた」

沙織は夫に言った。もう一緒に何かする気がなくなってるって。

「夫、ショックを受けてました。俺はちゃんと帰ってるって言ったけど、帰ってくる体だけじゃなくて、気持ちも帰ってきてほしかったんです」

「またホテル行きたい」というメッセージを見た夜

横浜のバー。平日の夜、智子は絞り出すように話した。43歳、看護師。

「夫のスマホが鳴って。リビングに置いたままだったから、画面が見えちゃって」

またホテル行きたいと書いてあった。

「心臓が止まるかと思いました。すぐ夫に確認したら、誤送信だって言い張って。でも誤送信で、そんなメッセージ来ないじゃないですか」

その日から、夫の帰宅が減り始めた。

「週に3回、帰ってこない夜が出てきて。子供を抱えて、一人で夕飯作って、一人で寝て。離婚を切り出すまで、毎晩涙をこらえながら待った」

智子は離婚した。夫は子供に会いに来るが、元の家には入れない。

「待ってた夜の数、数えてみたんです。仮に週3回で半年なら70回以上。その全部、私一人でやってた。それを知ってほしかっただけなんですよ、最後まで」

積み重なる夜が変えていくもの

帰ってこない夜が積み重なると、日常が静かに変わっていく。夕飯の量が変わる。子供への説明が変わる。待つことへの感情が変わる。そして、ある夜を境に、何かが決定的に変わる。

智子の同僚、明美は51歳。夫が帰らない夜が始まったのは、定年を前にした夫が急に出張を増やした時からだった。

「最初は信じてたんです。でも子供の入院中も、会社休めないって1日おきに顔見せるだけで」

明美は病室で子供の手を握りながら、夫の不在を実感し続けた。

「家族の絆が削れていく感覚があったんです。物理的じゃなくて、精神的に。夫がいない空白が、大きくなっていって」

最終的に明美が限界と言うと、夫は黙って荷物をまとめた。

「出て行く準備、早かったんですよ。準備してたのかなって、今でも思う」

「帰りたくない」と初めて本音を言えた日

池袋のカフェ。休日の午後、沙耶は逆の立場から話した。39歳、元主婦。長年のモラハラに耐え、実家に帰ったまま戻らなかった。

「実家に帰省するって告げて出たんです。1週間だけって言ったけど、2週間、1ヶ月と伸ばして」

夫からは帰ってこいという電話が殺到した。

「でも私、実家で新しい仕事を見つけて。帰りたくないって、初めて本音を言えた瞬間、胸のつかえが下りて」

沙耶は待つ側からやめた。

「待ってる側でずっといたんです、長い間。でも待つのをやめた瞬間、自分の時間が戻ってきた感じがして」

子供には父親は遠くで働いていると説明した。

「子供、最初は混乱してたんですけど、穏やかな毎日を過ごすうちに落ち着いてきて。夫がいない家の方が、静かで平和だって気づいてしまったんです」

待つことをやめる選択

待ち続けることが愛情だと思っていた。でも待ち続けることが、自分を削っていることに気づく日が来る。沙耶にとって、待つのをやめた日が、本当の意味で生き始めた日だった。

沙耶の友人、真由は36歳。彼女もある夜、帰って来ない夫を待つのをやめた。

「出かけたんです、一人で。映画見て、ご飯食べて。帰ってきた夫より先に帰ってたんですけど、何かが変わった感じがして」

真由は続けた。

待つことが義務だと思ってたんですよ。妻だから待たなきゃって。でもその義務を手放した夜、初めて自分の時間が戻ってきた気がした。

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