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真面目な男性がハマる女性の条件を聞いたら、誰ひとり女の話をしなかった

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真面目な男性にハマってもらうには、どんな女性になればいいのか。手作りのお弁当か、聞き上手か、それとも芯の強さか。条件をきれいにリスト化するつもりで、実際にそういう女性にどっぷりハマった男性三人に会いに行きました。ところが、取材は最初から予定どおりに進みませんでした。彼らに、彼女のどこにハマったんですかと聞くと、三人が三人とも、なぜか自分自身の話を始めたんです。女性の条件は、ついに一つも出てきませんでした。

最初に会ったのは、平日の夜、会社近くの定食屋でした。タクミさん、30代前半の会社員。仕事一筋でやってきた人らしく、約束の十五分前に来て、隅の席で背筋を伸ばして待っていました。名前はすべて仮名です。生姜焼き定食を頼んだあと、彼は少し緊張した面持ちで言いました。

「こういう取材、何を話せばいいのか。僕、恋愛が得意なほうじゃないので」

その不器用さが、すでに答えの入り口だったと、あとで気づくことになります。

目次

ハマった理由を聞いたら、なぜか自分の話になった

完璧じゃなくていいと思えた日

タクミさんがハマったのは、職場の後輩の女性でした。彼女のどこに惹かれたのかを聞くと、彼はしばらく考えて、こう切り出しました。

「彼女が、っていうより、彼女といるときの自分が、なんか変だったんです。いい意味で」

どういうことでしょう。

「僕、ミスがすごく怖い人間なんですよ。完璧にやらなきゃって、いつも肩に力が入ってて。でもある日、仕事で大きい失敗をして落ち込んでたとき、彼女が、一緒に確認しましょうって残業に付き合ってくれて。その帰り道で彼女、自分の昔のドジな失敗を、笑いながら話してくれたんです。けっこうな大失敗を、明るく」

それで何が変わったのか。

「ああ、完璧じゃなくてもいいんだって、初めて思えたんです。三十年ちょっと生きてきて、初めて。彼女の前だと、できない自分を見せても大丈夫な気がした。あれが決定的でしたね」

私はここで、メモを取る手が止まりました。彼女が優しいとか家庭的とか、そういう話を一つも聞いていない。彼が話しているのは、ずっと彼自身のことでした。

堅物の私が、初めて弱音を吐けた相手

二人目は、休日の昼に、図書館の近くの喫茶店で会いました。ケンゴさん、20代後半の公務員。休みの日も資格の勉強をしている、絵に描いたような堅物だといいます。周りから堅いとよく言われるそうです。

「僕がハマった人は、合コンで会ったんですけど」彼はコーヒーをじっと見ながら話しました。「最初は、家庭的で手作りのお弁当を持ってきてくれる人だな、くらいの印象で。でも、それで好きになったわけじゃないんです」

では、何が。

「その人の前だと、弱音が吐けたんですよ。僕、人に悩みを言うのがすごく苦手で。弱みを見せたら負けだと思ってたタイプで。なのにその人とは、仕事のしんどさとか、本当はこうなりたいのにできないとか、自然に話せてた。気づいたら、堅物の鎧を脱いでる自分がいて」

彼は照れたように、耳のあたりを掻きました。

「彼女が僕の話をただ聞くだけじゃなくて、ここはこうしたらって自分の意見も言ってくれるのも大きかったです。媚びてこない。だから、ちゃんと一人の人間として向き合ってくれてる感じがして。この人の前でなら、本当の自分でいられるって思いました」

ここまで二人。私が立てた、ハマる女性の条件リストの欄は、まだ一行も埋まっていませんでした。

真面目な男がハマるのは、女のスペックじゃない

問いの主語が、ずっと逆だった

二人の話を並べたとき、自分の取材の前提が間違っていたことに気づきました。

真面目な男性がハマる女性、という問いは、女性が何を持っているかを聞いているように見えて、本当は別のことを聞いていたんです。彼らがハマったのは、優しい女性でも家庭的な女性でもなかった。その人の前で、完璧をやめられた、弱音を吐けた、鎧を脱げた、という自分自身の変化のほうでした。

真面目な男性ほど、肩に重い鎧を着ています。失敗が怖い、弱みを見せられない、いつも気を張っている。その鎧は重いのに、安全に降ろせる場所がほとんどない。だから、ここでなら降ろしても大丈夫だと感じられる相手に出会うと、その稀少さに強くハマる。

条件は、女性のスペック表にあるんじゃないんです。その女性といるときに、彼が自分の何を許せるか。問いの主語は、ずっと女ではなく、男の側にありました。

「言われてみれば、そうですね」あとでこの話をケンゴさんにすると、彼は驚いた顔をしました。「彼女がどうこうより、彼女といる自分が好きだったんだ。考えたこともなかった」

攻略しようとした瞬間に、条件から外れる

ここで、もうひとつ厄介な事実に行き当たります。仮にこの空気を作為的に再現しようとしても、それはたぶんうまくいかない。

真面目な男性は、誠実さを何より大事にする人たちです。だからこそ、誠実さを演じる作為に、人一倍敏感なんですよ。ハマらせようと聞き上手を演じる。戦略でお弁当を作る。芯が強いふりをする。その計算を、彼らはどこかで嗅ぎ分けてしまう。

「あ、それわかります」タクミさんがこの話に大きくうなずいていました。「過去に、明らかにこっちに合わせてくれてる感じの人がいて。悪い人じゃなかったんですけど、なんかこう、用意された優しさっていうか。見透かしてるわけじゃないんですけど、そわそわして、心を開けなかったんです」

すぐにバレなくても、付き合ってから少しずつほころびが出る、と彼は続けました。

「真面目な男って、たぶん長く続く信頼がほしいんですよ。一瞬のテクニックでドキドキさせられても、あれが演技だったってあとでわかると、一気に冷めると思います。だから逆に、攻略しようとされるほど、遠ざかる気がする」

攻略法を探していた私の取材は、ここで完全に行き止まりになりました。攻略しようとした瞬間に、条件から外れる。これでは打つ手がないように思えました。

それでも、できることはある

鏡みたいに、誠実を返す人

最後に会ったのは、仕事帰りの夜、駅前のカフェで。シュンスケさん、40代のエンジニア。長年仕事優先で恋愛を後回しにしてきて、今の相手とは同棲を考えているといいます。

打つ手がない、という話を彼にぶつけてみました。すると彼は、そうでもないですよ、と静かに言いました。

「演技はだめ。でも、できることはあると思います。要は、足し算じゃなくて、自分がどうあるかなんですよ」

彼がハマった相手は、カフェの常連で知り合った女性でした。

「彼女、約束を必ず守る人なんです。雨の日に僕が傘を忘れてたとき、自分のを貸してくれて、後で返してくれればいいですよって。で、自分の予定もちゃんと大事にする。僕に全部合わせるんじゃなくて、ここは譲れないって線がある。その上で、人を思いやる。誠実さを、鏡みたいにそのまま返してくれる感じでした」

それはテクニックではない、と彼は念を押しました。

「彼女は僕にハマらせようなんて、たぶん一ミリも思ってなかったです。ただ、自分に正直に生きてただけ。約束を守るのも、自分の意見を持つのも、人に優しくするのも、彼女が普段からそういう人ってだけなんですよ。皮肉な話ですけど、ハマらせようとしてない人にこそ、僕は安心して鎧を脱げた」

女性側にできることがあるとすれば、それは何かを演じることではなく、自分を誠実に生きること。彼の弱さを笑わずに受けること。媚びずに、自分の線を持っていること。どれもスペックではなく、在り方の話でした。

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