そろそろ結婚かな、と思い始めると、つい調べたくなります。交際から結婚までの平均期間。みんな、どのくらい付き合って決めたのか。自分たちは、遅れていないか、早すぎないか。今回、いろんな期間を経て結婚した人たちに、決めたきっかけと、その瞬間のことを聞きました。すると、付き合った長さはばらばらなのに、結婚を決めた瞬間の話には、不思議と共通点がありました。
最初に会ったミサキさんは、交際八ヶ月で結婚を決めた人です。28歳、仮名。カフェで向き合うと、彼女は少し照れたように切り出しました。
「平均より、だいぶ短いですよね。でも私、付き合った期間の長さって、あんまり関係ないと思ってるんです」
その理由を、彼女はゆっくり話してくれました。
まず、平均はどのくらいなのか
一般的には一年から三年、でも幅はとても広い
先に、気になる数字に触れておきます。交際から結婚までの期間は、一般的には一年から三年くらいと言われることが多いです。ただ、これはあくまで目安で、実際の幅は驚くほど広い。
今回話を聞いただけでも、半年で決めた人から、七年かけた人までいました。数ヶ月のスピード婚もあれば、五年以上付き合ってから結婚する人もいる。妊娠をきっかけに早まった人、経済基盤が整うのを待った人、再婚で慎重になった人。事情は本当にさまざまで、平均という一本の線の周りに、めいめいの物語が散らばっている、という感じでした。
平均は、あなたの関係を測る物差しにならない
そして、取材を進めるうちに、はっきりしてきたことがあります。平均という数字は、あなたの関係について、ほとんど何も教えてくれない、ということです。
八ヶ月で深い信頼を築いた人もいれば、惰性で五年続けただけの人もいる。期間の長さと、関係の成熟度は、相関しないんです。大事なのは、付き合った長さではなく、その時間の中で、何を確かめられたか。相手が苦しいときどう振る舞うか、お金の感覚、家族のこと、喧嘩したときの収め方。それらを確かめたのなら、半年でも十分だし、確かめていないなら、何年付き合っても足りない。
平均と比べて、うちは長すぎる、短すぎる、と焦るのは、本当に見るべきことから目を逸らして、数字という分かりやすいものに、すがっているだけなのかもしれません。
結婚を決めたのは、期間ではなく一つの瞬間だった
入院した彼を看病した夜
ミサキさんに、結婚を決めた瞬間を覚えていますか、と聞くと、彼女は即答しました。
「はっきり覚えてます。付き合って数ヶ月の頃、彼が急に病気で入院したんです。私、毎日お見舞いに通って、看病して。点滴につながれて弱ってる彼を見ながら、この人の、こういう情けない姿も、ずっとそばで支えたいって、自然に思ったんです。あ、私この人と結婚するんだ、って、その夜にすとんと腑に落ちました」
期間ではなく、その一点で決まったんですね。私がそう確認すると、彼女は深くうなずきました。
「八ヶ月っていう長さで決めたんじゃないんです。あの看病の夜っていう、一つの瞬間で決めた。期間は、たまたまそのとき八ヶ月だっただけで」
七年付き合って、決め手は一瞬だった
面白いのは、正反対の期間の人からも、同じ構造の話を聞いたことです。ケンさんは38歳。交際七年目に、ようやく結婚を決めた人です。
「長く付き合ってたのは、お互いキャリアを優先してたからなんです。なんとなく、結婚っていうタイミングを、ずっと先送りにしてて」
その七年が、ある一瞬で動いたといいます。
「共通の友人の結婚式に、二人で出席したんです。新郎新婦が誓いを立ててるのを見ながら、ふと、隣にいる彼女と、自分たちもこのステージに行きたいな、って思って。その瞬間に、なんかスイッチが入ったんですよ。七年も迷ってたのに、決め手は、結婚式のあの数分間でした」
七年という長い期間も、結局、決断は一点で起きていた。ミサキさんの八ヶ月と、ケンさんの七年。長さはまるで違うのに、二人とも、ある一つの瞬間に結婚を決めている。これは、偶然ではない気がしました。
きっかけは、決め手じゃなくて引き金だった
確信が先にあって、外部要因はそれを行動に変える
体験談を集めると、結婚を決めたきっかけには、外からやってくるものが多いことに気づきます。相手の転勤、妊娠、家族の病気、家探し、友人の結婚式。ミサキさんの入院も、ケンさんの結婚式も、外部の出来事でした。
でも、ここに大事な見落としがあります。これらの外部要因は、決め手のように見えて、本当は引き金にすぎないんです。
転勤の話が出たから結婚したのではなく、すでに、この人と一緒にいたい、という確信があったから、転勤を機に動いた。妊娠で結婚したのではなく、この人とならという土台がもうあって、妊娠がそれを行動に変えた。引き金は、もともと装填されていた弾を、発射しただけなんです。ミサキさんが言いました。
「入院は、きっかけではあったけど、あれがなくても、たぶん私たちは結婚してたと思います。すでに、この人だなって気持ちはあって。入院が、それを早めにはっきりさせてくれた、っていう感じで」
確信が先にあって、きっかけはそれを表に出すだけ。順番が、逆ではないんです。
きっかけを待っていた人が、気づいたこと
待つのをやめて、自分から確かめにいった
この構造を、いちばん痛感したのが、エミさんでした。30歳。交際二年三ヶ月で、自分から結婚を提案した人です。
「相手が、ちょっと優柔不断なところがあって。なかなか結婚の話を切り出してくれなくて。私、ずっと、何か結婚を決めるきっかけが向こうから来るのを、待ってたんです。記念日とか、何かのタイミングとかで、彼が動いてくれるんじゃないかって」
でも、待っても、きっかけは来なかった。
「あるとき気づいたんです。私、きっかけを待ってるつもりだったけど、きっかけって、待ってても来ないんだって。それで、自分から、このままだと先が見えないから、ちゃんと将来を考えたい、って率直に伝えたんです。怖かったですけど。そしたら彼も、真剣に応えてくれて」
エミさんの話は、フレームを裏側から照らしています。きっかけがないから結婚に踏み切れない、と思っている人は、実は引き金を待っているのではなく、まだ確信が固まっていないことが多い。あるいは、確信はあるのに、それを行動に変える勇気が出ないだけ。どちらにしても、外から都合のいいきっかけが降ってくるのを待つより、自分の中の確信を確かめて、自分から動くほうが、ずっと早いんです。
確信は完成しない。それでも、人は踏み出す
三人の話を並べて、見えてきたことがあります。平均期間も、結婚のきっかけも、外に答えを探しているように見えて、本当は、自分の中にしか答えがないんです。この人と、という確信が、固まっているかどうか。それは、時間が経てば自動的に育つものでも、ドラマチックな出来事が運んでくるものでもなく、相手との時間の中で、自分が何を確かめ、何に納得してきたかの、静かな積み重ねです。
決断の瞬間は、外から降ってくるように感じます。看病の夜、結婚式の数分。でも本当は、その瞬間までに、自分の中で、準備が静かに完了していた。きっかけは、その完了を、本人に気づかせる合図にすぎないんです。
だから、もし今、結婚を決められずにいるなら、平均やきっかけを探すのをやめて、自分が相手の何を、まだ確かめられていないのかを見たほうがいい。
ただ、最後に、ひとつだけ。確かめても確かめても、確信が百パーセントになる日は、たぶん来ません。どれだけ相手を知っても、この先何十年も一緒にいられるかなんて、誰にも保証できない。最後は、不確実さを抱えたまま、えいやと踏み出すしかない部分が、必ず残ります。決断とは、確信が完成することではなく、完成しないものを抱えたまま、それでも選ぶことなんだと思います。ミサキさんも、ケンさんも、エミさんも、最後はみんな、わからなさごと、相手の手を取っていました。平均期間が教えてくれないのは、たぶん、その一歩の重さなのだと思います。