付き合っている彼女が、仕事を失った。最初は、支えるのが当然だと思っていた。好きなんだから、これくらい。でも、一ヶ月、二ヶ月と無職の期間が延びていくうちに、家の中の空気が、少しずつ変わっていく。
今回、無職になった彼女を支えた男性たちに、話を聞きました。彼らが口をそろえたのは、いちばんきつかったのは、お金の問題ではなかった、ということでした。
最初に会ったアキラさんは、三十二歳の会社員です。交際二年目の彼女と同棲を始めた矢先に、彼女が勤めていた会社の部署が縮小され、退職することになりました。
「最初は、少し休んでから次を探せばいいよ、って、本気で思ってたんです。まさか、あんなにしんどくなるとは、想像もしてなくて」
そう言って、彼は当時を振り返り始めました。
支えるのは当然、と思っていたのに
家の中の空気が、少しずつ変わっていった
アキラさんの手取りは、月に三十五万円ほど。家賃が十二万で、食費や光熱費を合わせると、毎月二十万以上が出ていきます。それが、すべて彼一人の肩に、のしかかることになりました。
「彼女は、家事をすごく頑張ってくれてたんです。それは、ありがたかった。でも、収入がない分、お金のことは全部、僕になって。最初は平気でも、だんだん、じわじわ効いてくるんですよ」
変化は、会話に表れ始めたといいます。
「今日、求人見た、って聞くと、彼女が、疲れてるから明日、って答えるようになって。そういうやりとりが増えるうちに、だんだん会話そのものが、減っていって。週末に外食に行こうとしても、彼女が、私が出せないから、って遠慮するんです。その姿を見ると、申し訳ない気持ちと、なんでだよっていうイライラが、同時にわいてくる。その自分に、また自己嫌悪して」
いちばんきつかったのは、お金じゃなかった
金銭的な負担は、確かに大きかった。でも、アキラさんがいちばんこたえたのは、そこではなかったといいます。
「お金が減るのは、まあ、覚悟すればいいんです。数字の問題だから。でも、それより、彼女との間に、目に見えない気まずさが、たまっていくのが、いちばんつらくて。彼女が卑屈になって、僕がイライラを隠して、お互い本音を言えなくなって。好きだったはずの人と、家の中で、なんとなく目を合わせなくなる。あの空気が、お金より、ずっとしんどかったです」
彼女が無職になって試されるのは、財布ではなく、二人の関係そのものでした。支える側が抱えるのは、支出という数字ではなく、いつまで続くのかわからない不安と、優しくありたいのに苛立ってしまう、自分自身への嫌悪だったんです。
無職の期間は、相手の本性を映し出す
半年経って、彼女の価値観が見えてきた
無職の期間が長引くと、お金以上に、別のものが見えてくる、と語ったのが、サトシさんでした。三十五歳のITエンジニア。四年付き合った彼女と、結婚を前提に同棲していた人です。
「婚約指輪を渡した、その直後だったんです。彼女が、リストラで無職になったのは」
彼は最初、全力で支えたといいます。毎日食事を作り、面接の準備を手伝い、精神的なフォローも欠かさなかった。でも、半年以上、就職が決まらないうちに、見えてきたものがありました。
「無職の期間って、その人が、追い込まれたときにどうなるか、が、むき出しになるんですよ。彼女は、だんだん、結婚したら家事と子育てに専念したい、って言い始めて。でも僕は、共働きが理想だと思ってた。追い込まれたことで、お互いの、将来に対する根っこの考え方の違いが、はっきり表に出てきたんです」
追い込まれたときにこそ、根っこが出る
結局、二人は別れを選びました。サトシさんが、その経験から学んだことを、こう話してくれました。
「順調なときって、価値観の違いって、隠れてるんですよ。二人とも余裕があるから、多少ずれてても、なあなあでやっていける。でも、無職みたいな、余裕のない状況になると、その、隠れてたずれが、一気に噴き出す。だから、無職の期間は、残酷だけど、相手の本当の価値観を見るには、いちばんわかりやすい時期でもあるんです」
これは、支える側だけの話ではありません。無職の側も、追い込まれることで、自信を失い、本来の姿とは違う、余裕のない自分が出てしまう。サトシさんは、彼女を一方的に責めてはいませんでした。
「彼女も、自信をなくしやすい時期に、僕からのプレッシャーを感じてたんだと思います。あの状況が、お互いの、いちばん弱い部分を、引きずり出したんですよね」
無職の期間は、関係を壊す試練であると同時に、順調なときには見えなかった、相手と自分の本性を、映し出す鏡でもありました。
支える、と、甘やかす、は違う
好きだから養う、でも相手も動かないと
ここまでは、支える側の男性の話でしたが、逆のパターンもあります。ナオコさんは、夫が転職に失敗して無職になった時期を、振り返ってくれました。二十九歳の女性です。
「夫が、営業がうまくいかなくて辞めて、三ヶ月無職になったんです。私は自分のパート収入で支えながら、焦らず探して、って励ましてました。最初は」
でも、その支えは、途中から、すり減っていったといいます。
「夫の無職が長引くと、家事の負担も私に増えて。しかも夫、だんだんゲームに没頭するようになって、求人活動が、形だけになっていったんです。それを見てたら、ある日、私の中で、ぷつっと切れて。好きだから養うのはいい、でも、相手も努力してくれないと、こっちの気持ちが、もたないんですよ」
前を向いて動く人なら、支えられる
複数の体験を並べて、はっきり見えてきた分かれ目があります。無職そのものが問題なのではなく、無職の期間に、その人が前を向いて動いているかどうか、でした。
別のケースでは、彼氏が自分探しと称して一年近く無職を続け、相手の収入に頼りきって、家事すら疎かになり、結局別れた、という話がありました。一方で、無職の彼氏と二人で節約生活を送りながら、将来の夢を語り合い、彼が半年後に就職して、今は結婚準備中、という前向きなカップルもいました。苦しい時期を一緒に乗り越えたからこそ、今がある、と。
違いは、無職という状態ではなく、その中で、這い上がろうとする姿勢を見せているかどうか。ナオコさんの夫も、最終的に派遣で働き始めて、関係は回復したそうです。支える側が本当に見ているのは、収入の有無ではなく、相手が、自分の状況から、抜け出そうとしているかどうか、なんです。
いつまで支えるのか、という問いに
無職の彼女を支える側が、いちばん抱えやすいのは、いつまで続くのか、という、終わりの見えない不安です。そして、それを口に出せば相手を追い詰めるから、飲み込むしかない。その飲み込んだものが、じわじわ、二人の間にたまっていく。
だから、多くの人が言っていたのが、早い段階で、ちゃんと話すこと、でした。どのくらいの期間を見込んでいるのか。その間、どうサポートするのか。お互いに、何を努力するのか。それを、気まずさを避けて先送りにするほど、目に見えない不満が、静かに積もっていく。
ただ、正直に言えば、話し合えば必ずうまくいく、というものでもありません。サトシさんのように、話し合った結果、根っこの価値観が違うとわかって、別れる、という結末もある。無職の期間は、二人が本当に合っているのかを、容赦なく突きつけてくる時期でもあるからです。
アキラさんの彼女は、三ヶ月目に、時給九百円のパートを始めたそうです。月十万ほど。それで生活が劇的に楽になったわけではありませんが、アキラさんの気持ちは、変わったといいます。
「金額の問題じゃないんです。彼女が、動き出してくれた。その事実だけで、僕の中のイライラが、すっと消えたんですよ。ああ、僕が本当にほしかったのは、彼女が稼ぐことじゃなくて、二人でこの状況をなんとかしよう、っていう、同じ方向を向く感覚だったんだなって」
彼女が無職になったとき、試されるのは、あなたの経済力でも、彼女の稼ぐ力でもないのかもしれません。試されるのは、余裕のない状況の中で、二人が、同じ方向を向き続けられるか。お金は、いつか状況が変われば、また戻ってきます。でも、無職の時期にすり減らしてしまった、お互いへの信頼や優しさは、簡単には戻らない。だからこそ、いちばん大事なのは、お金の計算より、その気まずい空気を、放置しないことなのだと思います。