食べるのが遅い人には、どんな性格があるのだろう。自分が食べるのが遅くて、早く食べなさい、と急かされる肩身の狭さを感じている人。マイペース、慎重、おっとり。そんなイメージが、浮かぶかもしれません。今回、実際に、食べるのが遅い、という人たちに、話を聞きました。すると、食べ方と性格の関係は、思っているより、あやふやで、そして、遅さそのものに、ちょっとした、見落とされた価値が、あることが、見えてきました。
最初に会ったシュンスケさんは、二十八歳の営業マンです。取材のために入ったカフェで、彼は、サンドイッチを、実に、ゆっくりと、食べていました。
「部署のランチでも、飲み会でも、いつも、僕が最後まで食べてるんですよ。急いで食べると、味が、わからなくなるし、会話も、楽しみたいので」
穏やかに、そう話す彼を見て、なるほど、性格が出るな、と、最初は、思いました。でも、話を聞くうちに、その考えは、少し、揺らいでいきます。
食べ方から性格を読むのは、占いに近い
遅い理由は、人によってまるで違う
食べるのが遅い人は、こういう性格。マイペースで、慎重で、思いやりがある。そういう話は、よく聞きますし、心地いいものです。でも、正直に言うと、食べ方から性格を読むのは、血液型占いに、少し、似ています。
食べるのが遅い理由は、実は、人によって、まるで、違うんです。一口ずつ、じっくり味わいたい人。単純に、食が細くて、量が進まない人。噛む回数が、人より、多い人。食事より、会話を、優先している人。もともと、少食な人。理由が、これだけ、多様なのに、食べるのが遅い、イコール、こういう性格、と、一つに、まとめるのは、少し、無理があります。
だから、こういう性格、と決めつけなくていい
だから、食べるのが遅い自分は、きっと、こういう性格なんだ、と、決めつけて、悩む必要も、逆に、喜ぶ必要も、ないんです。食べるスピードは、その人の、体質や、好みや、その場の状況といった、無数の事情の、結果でしかない。
ただ、一つだけ、確かに言えることが、あります。それは、性格そのものより、遅いことを、責められながらも、自分のペースを、守ってきた、という、その姿勢のほうに、その人らしさが、にじむ、ということです。周りに、急かされても、自分のリズムを、手放さない。そこには、たしかに、その人の、芯のようなものが、表れているのかもしれません。
でも、なぜ遅いと否定的に見られるのか
速さを美徳とする社会の、縮図
ここで、少し、立ち止まって、考えたいことが、あります。そもそも、なぜ、食べるのが遅い、ということが、これほど、性格と結びつけて、語られ、しかも、しばしば、否定的に、扱われるのでしょう。
早く食べなさい。テキパキしなさい。マイペースすぎるんじゃないの。そこには、現代社会が、速さを、美徳とし、遅さを、欠点と、みなす、価値観が、あります。食事のスピードは、その、縮図なんです。早食いは、仕事ができそう、効率的、行動力がある、と、好意的に、見られる。遅いのは、とろい、要領が悪い、と、見られがち。
ある主婦の方は、給食で最後まで残る息子さんを、もっと早く食べなさい、と、叱っていたそうです。ある父親は、お弁当を食べきれない娘さんを、心配していました。食べるのが遅い子どもは、しばしば、心配され、直すべきもの、として、扱われる。でも、それは、本当に、直すべき、欠点なのでしょうか。
遅い人が、実は仕事で有能だった
焦る同僚の中で、冷静に的確な提案
体験談を、読んでいくと、面白いことに、気づきます。食べるのが遅い人が、実は、仕事では、丁寧で、ミスが少なくて、集中力が高い、という声が、とても、多いんです。
シュンスケさんも、その一人でした。あるプロジェクトで、締め切りが迫ったとき、チームで、昼食を取った。周りが、早く終わらせて戻ろう、と、焦る中で、彼だけは、ペースを、変えなかったそうです。
「焦ると、ミスが増えるよ、って、言ったんです。ちゃんと休憩したほうが、効率いいよ、って。実際、その日の午後、僕、けっこう的確な提案が、できたんですよ」
急がないことが、彼の、冷静さや、集中力を、支えていた。遅いことは、仕事の質を、下げるどころか、むしろ、上げていたんです。
集中して味わうと、アイデアが浮かぶ
似た話を、ユウタさんからも、聞きました。二十五歳。職場で、ランチのとき、いつも最後まで、席に残る、という男性です。上司に、もっとテキパキやれ、と、注意されたことも、あるそうです。
「でも、僕の出す資料、丁寧で、ミスが少ないって、クライアントからの評価は、高いんです」ユウタさんは、静かに言いました。「食べるのが遅いのは、集中して、味わってるからなんですよ。そうすると、なんか、アイデアが、浮かんでくる。早食いだと、味も、わからないし、頭も、回らない気がして」
つまり、遅さは、劣っているのではなく、別の種類の能力、深く味わう力や、丁寧さや、じっくり考える力の、表れなのかもしれません。速さと、遅さは、優劣では、なく、ただ、異なる、処理のスタイルなんです。手早く、たくさんこなすのが得意な人が、いるように、ゆっくり、深く掘り下げるのが得意な人も、いる。どちらが、上でも、下でも、ないんです。
遅さの価値を、取り戻す
悩んでいた自分を、肯定できた
食べるのが遅いことを、ずっと、気にしていたのが、ミサキさんでした。二十七歳の大学院生です。
「一人暮らしで、自炊してるんですけど、自分の食べるのが遅いのが、悩みで。急がないと、効率悪いのかな、って、思ってたんです」
でも、あるとき、彼女は、気づきます。
「私、研究では、細かいデータ分析が、得意なんです。論文も、丁寧に書くほうで。それって、食べ方と、同じなんですよね。じっくり、丁寧に、っていう。ホームパーティーでも、私、みんなの話を、ゆっくり聞く役回りになって、美咲ちゃんといると落ち着く、って言われて。あ、食べるのが遅いのは、人生を、じっくり楽しむ性格の、表れなのかも、って、前向きに、思えるようになりました」
食べるのが遅い人の性格を、肯定するということは、実は、速さばかりを、褒める社会に対して、遅さの、価値を、静かに、取り戻すこと、なのだと思います。
責めないことと、折り合うことの、両方
ただ、正直に言えば、遅さは価値だ、と、言うだけでは、現実の、しんどさは、消えません。社会は、これからも、速さを、求め続けます。食べるのが遅い人が、限られたランチの時間や、みんなが待っている場面で、周りのペースに、合わせられずに、ストレスを、感じることは、なくならない。
だから、大事なのは、たぶん、二つのことです。一つは、自分の遅さを、欠点として、責めるのを、やめること。遅いのは、劣っているからではなく、あなたの、味わう力の、表れです。もう一つは、それでも、時と場合によっては、少しだけ、ペースを、上げる、という、折り合いも、持っておくこと。遅さを、卑下する必要は、ないけれど、遅さに、こだわりすぎて、周りとの関係を、こじらせるのも、もったいないからです。
自分のペースを、大切にしながら、でも、頑なには、ならずに。そして、もし、あなたの周りに、食べるのが遅い人が、いるなら、とろいな、と思う前に、この人は、深く味わっているんだな、と、思ってみてください。速い人も、遅い人も、お互いの、リズムを、少しずつ、尊重し合えたら、食卓は、きっと、もっと、豊かになります。食べるのが遅いことを、責めたり、責められたり、しなくて、いい。そのくらいの、ゆるさが、たぶん、いちばん、みんなを、生きやすくするのだと思います。ゆっくり食べる人の隣で、少しだけ、自分も、箸を置いて、味わってみる。そんな時間が、案外、悪くないことに、気づくかもしれません。