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素直に好きって言えば済む話、恋愛をこじらせてきた人たち

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こじらせている、と言われたことがある人は、たぶんその言葉の重さをよく知っている。

言われた瞬間、反論したくなる。こじらせてるんじゃなくて、慎重なだけだ。傷つきたくないだけだ。相手のことをちゃんと考えているだけだ。でもその反論が出てくる速さ自体が、すでに何かを物語っている気がして、余計に黙ってしまう。

恋愛をこじらせる、という表現は日常的に使われているが、いざ「どういう意味ですか」と聞かれると、案外うまく答えられない。風邪をこじらせる、という本来の用法から転じて、問題をより複雑にしてしまう、という意味で使われるようになった言葉。でも恋愛の文脈では、もっと個人的で、もっと根の深いものを指している気がする。

この記事は、自分が恋愛をこじらせていたと自覚している人と、こじらせた人を好きになった経験を持つ人への取材をもとにしている。こじらせとは何か。なぜこじれるのか。そして、こじれたものはほどけるのか。その問いを、当事者の言葉から引き出そうとした。


目次

こじらせてる、って言葉

東急東横線の学芸大学駅を出て、商店街を5分ほど歩いた先にある、薄暗いワインバー。カウンター席が6つと、小さなテーブルが2卓だけの店。店主は無口で、頼んだものを黙って出してくれる。

最初に話を聞いた久保田さん(仮名・31歳・出版社勤務)は、カウンターの端で赤ワインを飲んでいた。こちらが隣に座るなり、「今日、全部しゃべっていいですか」と言った。許可を求めるというより、自分に言い聞かせているような言い方だった。

「こじらせてる、って言葉、苦手だったんですよ、ずっと。自分に使われるのも、他人に使うのも。なんか決めつけてる感じがして」

グラスを傾けてから、続けた。

「でも去年、付き合ってた人に別れ際に言われて、あなたは恋愛をこじらせてる、って。その言葉がずっと頭に残って。腹も立ったし、悔しかったし、でも否定できなかった。それが、一番しんどかった」


こじらせてるとは何か辞書に載っていない、恋愛における本当の意味

久保田さんに、「あなたにとってこじらせるとはどういう意味か」を聞いてみた。

「……素直になれないこと、じゃないと思うんですよ。素直になればいいのはわかってる。でもできない。その、できない理由がある状態のことを、こじらせてると言うんじゃないかと思う」

その「できない理由がある」という表現が、この取材の核心に近い気がした。

こじらせる、という言葉は、もともと病気などを悪化させる・長引かせる、という意味を持つ動詞だ。恋愛の文脈では、感情や関係性を必要以上に複雑にしてしまう状態、またはそういう行動パターンを持つ人に対して使われる。

でも、単に複雑にしているわけではない。本人には、複雑にせざるを得ない理由がある。過去に傷ついた経験、裏切られた記憶、素直になって拒絶された痛み——そういうものが積み重なって、感情を素直に出すことへのブレーキが、通常より強くかかっている状態。それが恋愛におけるこじらせの実態に近い、と取材を重ねながら考えるようになった。

久保田さんはさらにこう言った。

「好きな人の前でだけ、普通じゃなくなる。普段は全然そんなことないのに。好きになった瞬間から、言葉が出なくなったり、逆に余計なことを言いすぎたり、連絡するタイミングを何十分も考えたり。そのエネルギー、全部違う方向に使えたら、どれだけよかったかって、毎回思う」


こじらせは性格じゃない、学習された防衛パターンだ

ここで、この取材全体を通じて浮かんできた視点をひとつ提示したい。

こじらせ、という言葉はしばしば「性格」として扱われる。あの人はこじらせてる性格だ、という使い方をされる。でも取材した全員の話を聞くと、それは性格ではなく、過去の経験から学習された防衛パターンに近い、という確信が強くなった。

人は、感情を素直に出して傷ついた経験を積み重ねると、無意識のうちに「感情を素直に出すことは危険だ」という回路を作り始める。その回路が恋愛の場面で起動すると、好きという気持ちを持ちながらも、それを相手に届ける前に何重もの検閲を通してしまう。

検閲の種類は人によって違う。相手に嫌われたくない、重いと思われたくない、また傷つきたくない、期待して裏切られたくない。どれも、過去のどこかで実際に経験したことの残像だ。

だから、こじらせを「直せ」というのは、「その防衛をやめろ」と言うことに近い。防衛はそう簡単には外れない。外すためには、安全だという実感が必要で、その実感は、一度や二度の良い経験では上書きされない。

久保田さんに元交際相手から「こじらせてる」と言われた話の続きを聞いた。

「その人が言いたかったのは、たぶん、俺が素直じゃない、ということで——俺も頭ではわかってた。でも、なんで素直になれないかを、その人は聞いてくれなかった。こじらせてる、で終わってしまって。その言葉で切り取られた感じがして、余計に心が閉じた」


こじらせ当事者たちの告白——自覚した瞬間の話

次に話を聞いた浅野さん(仮名・27歳・看護師)は、自分がこじらせていると自覚した経験を、具体的に話してくれた。

待ち合わせた渋谷のカフェに、少し早く来ていた。テーブルの端にスマホを置いて、画面を伏せていた。

「自覚したのは、26歳のとき。好きだった人とご飯に行って、帰り道に手を繋いでくれたんですよ。嬉しかった。めちゃくちゃ嬉しかった。なのに——家に帰ってから、どういう意味だったんだろう、ってぐるぐる考え始めて」

「手を繋ぐ、の意味を、2時間かけて分析した。好意があるから?それとも単なるスキンシップ?俺のことを異性として見てる?友達として自然に?夜中の2時まで考えて、結局何もわからなくて、翌朝眠れないまま仕事に行って——その日の昼休みに、同僚に話したら、『なんで確認しないの』って言われて」

「なんで確認しないの。その一言で、自分がいかに遠回りをしてきたか、初めてわかった。確認すればいい。聞けばいい。でも俺は確認することが、一番怖かった。答えが出ることが怖かった。曖昧なままのほうが、傷つかないから」

「その瞬間に、あ、これがこじらせか、って思った。笑えるけど、笑えなかった」


こじらせた恋愛の、具体的な行動パターン全記録

取材から浮かんだ、こじらせた恋愛に共通する行動パターンを、当事者の言葉とともに整理しておく。

「確認しない」という選択

浅野さんのように、相手の気持ちを確かめることができない。聞けば済む話を、聞かない。なぜなら、答えが自分の期待と違った場合のダメージを、先取りして怖がっているから。曖昧な状態に、奇妙な安心感を見出している。

久保田さんはこれを「シュレーディンガーの恋愛をしてた」と表現した。「確認しない限り、可能性は死なない。でも同時に、前に進まない。その箱を開けられない期間が、3年続いたこともある」

「素直の逆をやる」という反射

好きだから連絡したい、でも既読スルーされたら立ち直れないから連絡しない。会いたいと思っているのに、誘うと断られた場合を想定して誘えない。感情と行動が、常に逆方向に動く。

取材した別の当事者、神田さん(仮名・33歳・フリーランス)はこう言った。「好きな人に、冷たくしてしまう癖があった。好きだから、近づきすぎたくない。近づきすぎると、失ったときが怖いから。その距離の取り方が相手には冷たく見えて、何度も誤解を生んだ」

「意味を過剰に読む」という習慣

LINEの返信が1時間遅かった、文末に句点がついていた、スタンプだけで返ってきた——そういう些細な変化に、過剰な意味を読み込む。嫌われたのか、機嫌が悪いのか、自分が何かしたのかと考え続ける。相手の頭の中に、自分の解釈が住み着いている状態。

「タイミングを永遠に探す」という先送り

告白するタイミング、気持ちを伝えるタイミング、もう少し仲良くなってから、もう少し確信が持ててから——と探し続けて、結局タイミングは来ない。完璧な状況を待ちながら、状況は変わっていく。


「こじらせてる人を好きになった」側の本音

今度は、反対側から話を聞いた。

横浜在住の篠崎さん(仮名・30歳・会社員・女性)は、こじらせた男性と2年間付き合った経験を持つ。

待ち合わせた元町のカフェで、最初から率直な話し方をした。

「好きになったのは本当で、嫌いになって別れたわけでもない。でも——疲れた、というのが正直なところで」

「何が疲れたかというと、私が彼の感情の正解を探し続けなきゃいけない感じ。彼が何かをぐるぐる考えてるとき、私が引き出してあげないといけない。機嫌が悪そうなとき、何があったか聞かないといけない。でも聞くと、なんでもない、と言う。でも本当はある。それをまた引き出さないといけない——その繰り返しが、2年間続いた」

「彼が悪いとは思ってない。彼も苦しんでたのはわかってた。でもこじらせてる人と付き合うのは、こっちもエネルギーがいる。それを誰も言わないけど、本当にそうで。愛情はあっても、体力が続かなくなることがある」

「別れるとき、彼が初めて泣いた。そのとき初めて、素直な感情を見せてくれて——皮肉だけど、別れ際に初めて、この人の本当の部分を見た気がした」


こじらせが「ほどけた」経験——何がきっかけだったか

神田さんは、33歳のとき、長年のこじらせが少しだけほどけた経験を話してくれた。

「きっかけは、友達の離婚だった。仲のいい友達が、5年間の結婚生活を終えて。話を聞いたら、ずっと素直に言えなかったことが積み重なって、気づいたら修復できなくなってたって言って」

「そのとき、あ、俺がやってることと同じだ、って思った。言えないまま、伝えないまま、相手が察してくれることを待ちながら、でも察してもらえないと傷つくその構造が、友達の結婚生活と全く同じで」

「それから少し変わった。変わった、というより変わろうと思えた。こじらせることで守ってきたものが、実は自分を守ってなかったと、初めてわかった気がして」

久保田さんは、こじらせがほどけた瞬間がまだ来ていないと言った。

「今も、好きな人の前では普通じゃなくなる。それは変わってない。でもこじらせてることを、恥だと思わなくなった。これは俺の弱さじゃなくて、俺がどこかで傷ついてきた証拠で。それを無理に治そうとしなくていい、と思えるようになったのが、去年から今年にかけての変化かな」

こじらせてる自分を、誰かに受け入れてもらえたとき初めて、ほどけるのかもしれない。そういう人に、まだ出会えてないだけで・・・

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この記事を書いた人

ノンフィクション・リアルドキュメント編集部
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