久しぶり、会おうよ。
スマホに届いたメッセージを見て、すぐに分かった。また別れたんだと。
半年前、既読スルーされ続けた。誕生日も無視された。グループラインで発言が消え、女子会の写真に映らなくなった日から、ずっと待っていた。でも返事はこなかった。
彼氏がいる間、私はいなかった。彼氏がいなくなった途端、私は必要になった。
3回目の今回、返信しなかった。
久しぶりに届いたLINEの違和感―愚痴を聞かされた2時間の正体
下北沢の居酒屋。平日の夜、沙織は4年前の出来事を静かに語った。31歳、デザイナー。大学時代からの友人、あかりの話だ。
「あかり、大学の頃はグループのムードメーカーだったんです。カフェ巡り、映画、女子会、毎週のように一緒にいて」
あかりに彼氏ができた。それから半年、LINEの返事が来なくなった。
「最初は仕方ないかって思ってたんです。恋愛中だから、忙しいんだろうって。でも誕生日もスルーで。グループラインも既読だけで返事なくて」
沙織は何度もメッセージを送った。返ってこなかった。
「で、半年後に突然来たんです。久しぶり、会おうよって」
沙織は嬉しかった。戻ってきたんだって。でも会ってみると、違った。
「彼氏の愚痴、2時間聞かされました。こんなことされた、あんなこと言われた。私は相槌打つだけ。帰り道、ひとりで気づいたんです。穴埋めにされてるって」
沙織の顔に、苦さが滲む。
「数ヶ月後、また新しい彼氏ができて。同じことが繰り返された。LINEが途絶えて、半年後に久しぶりって来て、また愚痴」
沙織は3回目の連絡を、無視した。
「無視したの、初めてだったんです。罪悪感あったけど、もう限界で。返事したら、また同じことになるって分かってたから」
必要な時だけ戻ってくる関係の疲弊
彼氏ができると消えて、別れると戻ってくる。このパターンは、友人の間でよく起きる。でも繰り返されるごとに、戻ってきた時の喜びが薄れていく。
沙織の友人、麻衣は33歳。彼女も同じ経験をした。
「みゆきって子がいたんです。女子グループのムードメーカーで。でも彼氏できた途端、消えた」
麻衣たちは最初、待った。恋愛中だから仕方ない。でも半年以上経っても、みゆきはグループラインで発言しなくなった。
「旅行の計画立てても来ない。誕生日会も、記念日だからって断られて。みんな、みゆきの話題を出さなくなったんです。自然と」
後でみゆきから話を聞いた。彼氏がいると友達の時間なんてどうでもよく感じてしまったと。
「でもその頃には、みんなもう誘うのが面倒になってて。本人は後悔してたけど、溝は埋まらなかった」
麻衣は静かに続けた。
「後悔するくらいなら、最初から大切にすればよかった。でも当事者になると、分からないものなんですよね」
3回繰り返して気づいた法則―友達をATMのように使う女性の思考回路
渋谷のカフェ。休日の午後、奈々は自分がされてきたことを振り返っていた。29歳、会社員。
「さくらっていう子、高校の時から仲良くてね。明るくて誰とでも仲良くなれる子だった」
さくらに彼氏ができた。すぐに変わった。
「修学旅行の班も、彼氏と一緒になるように動いて。約束してた買い物、彼氏が寂しがるからってキャンセルされて」
奈々は親友だと思っていた。
「別れた後、卒業してからも会おうって連絡来たんです。嬉しかったんですよ、最初は。でも会ったら、また全部彼氏の話で」
さくらにまた彼氏ができた。また消えた。また別れた。また連絡が来た。
「3回目の時、やっと分かったんです。さくらにとって私は、彼氏がいない期間を埋めるための存在だって」
奈々は複雑な表情で続けた。
「傷つきましたよ。でもそれ以上に、疲れた。怒るエネルギーも、もうなくて」
奈々は3回目の連絡に、一週間返事を保留した。
「返事しようか、しないでおこうか。考えて考えて。結局、ゆっくり返事したんです。久しぶりって。でも心のどこかで、もういいかなって思ってた」
感情労働の搾取という見えない疲弊
友達の愚痴を聞くことは、感情労働だ。彼氏がいない時だけ呼ばれて、愚痴を聞いて、満足したらまた消える。そのサイクルは、呼ばれる側の感情を消耗させていく。
奈々の同僚、彩花は27歳。彼女は逆の立場、疎遠にしてしまった側だ。
「私、彼氏できると友達のこと、頭から消えてたんです。意識的に切ったわけじゃなくて、自然に」
彩花は別れた後、友達に連絡した。でも反応が薄かった。
「みんな、冷たかったんですよね。冷たいというか、もう友達でいることを諦めてた感じで」
彩花は後悔した。でも後悔しても、戻れなかった。
「友達って、放っておいても大丈夫だと思ってたんです。でも違ったんですよね。放っておいたら、消えていく」
職場で起きた疎遠―群れを離れた女性の末路
新宿のオフィス。昼休み、恵理は入社当時の出来事を語った。34歳、営業職。
「えみって子、入社当初は女子社員とランチ行って、飲み会も来てて。普通に仲良かったんです」
えみに彼氏ができた。昼休みを一人で過ごすようになった。飲み会の誘いを、毎回断るようになった。
「彼氏と予定があるって。毎回。で、周りが陰で言い始めたんです。ノリ悪い、高嶺の花ぶってるって」
恵理はえみと残業で二人きりになった夜、本音を聞いた。
「彼氏がいれば他に必要な人なんていないって、言ったんです。えみ。私の目の前で」
恵理は何も言えなかった。
「それ言われた瞬間、ああ、この子とは友達じゃなかったんだって分かって。彼氏ができる前の仲良さ、全部条件付きだったんだなって」
えみはその後、職場で孤立した。誰も近づかなくなった。
「彼氏と別れた後、えみが急に話しかけてきたんです。前みたいに飲みに行こうって。断りました」
恵理は静かに言った。
「もう遅かったんですよ。彼氏がいれば必要ない人間に、戻れなかった」
職場の人間関係は恋愛の緩衝地帯ではない
職場の友人は、恋愛の補完ではない。でも一部の女性は、それを混同する。彼氏がいれば職場の人間関係は最低限でいいと思っている。でも職場は、毎日顔を合わせる場所だ。疎遠にした後の空気は、消えない。
恵理の後輩、真由は25歳。彼女は今、同じことをしそうになっていた。
「彼氏できたんです。で、ランチ誘われても断るようになって」
恵理が真由に言った。それ、後で後悔するよって。
「真由は、でも彼氏との時間の方が大事だし、って言ったんです。分かるんですよ、その気持ち。でもえみを見てきたから」
真由は今、月に1回はランチを続けている。でも心ここにあらずだという。
「全部平等にはできないんですよ。でも、完全に切り捨てるのとは違う。そのバランス、難しいんですよね」
結婚後に孤独になった女性―人間関係のリセットが招いた代償
吉祥寺のカフェ。休日の昼、由美は5年前を後悔していた。36歳、専業主婦。
「結婚前、友達と旅行や飲み会、よく行ってたんです。でも彼氏できてから、断るようになって」
由美は家族ができると優先順位が変わると思っていた。周りもそう言ってくれた。
「結婚してからも、夫と子供中心で。友達からの連絡、最小限にしてて。で、気づいたら、グループが自然解散してた」
由美の子供が生まれた。孤独になった。
「話せる人がいないんです。夫はいる。でも女友達がいない。子供の悩みも、日常の小さなこともも、話せる人が」
由美は昔の友達に連絡しようとした。でも何年も連絡していなかった。
「送れなかったんです。久しぶりに送っても、どう思われるかって。私、彼氏ができた時に同じことしたから。連絡途絶えて、困った時だけ送ってきた子を、私自身が疎ましいと思ってたから」
由美は窓の外を見た。
「自分がしてきたことが、自分に返ってきたんです。友達を後回しにし続けた結果が、今の孤独でした」
人間関係の残高は、積み重ねでしか増えない
友情には、残高がある。連絡を取り続けることで少しずつ積まれ、疎遠にすることで少しずつ減っていく。彼氏ができた途端に出金を止めると、残高がなくなる。
由美の友人、麻里は34歳。彼女は由美とは逆に、友達を大切にし続けた。
「彼氏できた後も、月1回は女子会出てたんです。面倒くさい時もあったけど、行き続けてよかった」
麻里の友達グループは、今も続いている。
「出産の時、みんなが来てくれて。育児で悩んでる時、深夜でも電話できて。彼氏ができた時も友達を大切にした分、友達が支えてくれてる」
麻里は由美とは、今も疎遠だ。
「由美のこと、嫌いじゃないんです。でも何年も連絡なかったのに、困った時だけって言われても。もうそういう関係でいるのが、しんどくて」
依存タイプの女性が引き起こすループ―どちらが悪いのか
池袋のバー。金曜の夜、拓也は元カノと友達の話を聞いてきた男性として、女性側を外から見ていた。35歳、会社員。
「彼女だったゆかり、友達少ない子だったんです。俺と付き合い始めた途端、友達との連絡が完全に切れて」
最初、拓也は嬉しかった。俺だけ大切にしてくれてると思った。
「でも半年経った頃、しんどくなってきて。俺が全部受け止めなきゃいけない。仕事の愚痴も、日常の些細な話も、全部俺宛で」
ゆかりには、俺以外の話し相手がいなかった。
「別れた時、ゆかりが言ったんです。あなた以外に誰もいないのにって。それ聞いて、申し訳なかったけど、やっぱり無理だなって」
拓也は続けた。
「友達いない女性って、彼氏に全部預けてくるんです。でも人間一人が受け止められる量って、限界あるじゃないですか。で、別れたら、また次の彼氏に全部預ける。友達との関係、その間ずっと止まったまま」
依存の連鎖が生む孤立という皮肉
彼氏に依存するほど、友達を失う。友達を失うほど、彼氏への依存が深まる。そのループから抜け出せないまま、孤独は深まっていく。
拓也の友人、健人は31歳。彼も同じパターンの女性と付き合った。
「別れた後、彼女は元の友達グループに連絡したらしいんです。でも半年以上無視してたから、もう受け入れてもらえなくて」
健人は複雑な気持ちで続けた。
「どっちが悪いのか、正直分からないんですよ。彼氏ができたら友達を後回しにした女性も、そのまま距離を置いた友達側も。どっちの気持ちも、分かる気がして」
健人は少し考えてから言った。
「でも気づいた時に変えられるか、変えられないか。それだけなのかもしれないです」
戻ってこなかった友情と戻ってきた友情の分岐点
恵比寿のカフェ。週末の午後、沙織は3年前と今を比べた。
「あかりとは、結局戻れなかったんです。3回目の連絡、無視して。そのまま」
沙織は少し寂しそうだ。でも後悔していない。
「でも別の子、美咲って友達は戻ってきたんですよ。彼氏ができて半年音沙汰なかったけど、戻ってきた時に、私が疎遠にしてごめんって、ちゃんと言ってくれて」
美咲は謝った後、変わった。彼氏がいても月1回は連絡するようにした。
「謝れるかどうかなんですよ、分岐点は。自分が友達を後回しにしたって、ちゃんと認めて謝れるか」
沙織は美咲とは今も仲がいい。あかりとは、それっきりだ。
「あかりが悪い人とは思ってないんです。ただ、私の中でのあかりの残高が、ゼロになってしまって。それだけなんです」
沙織は今日も、あかりからのLINEを未読のままにしている。麻衣は、みゆきの誘いに短く返事をして、でも深追いしなくなった。奈々は、さくらとの間に心の溝を感じながら、たまに会う。由美は、昔の友達に連絡できないまま、一人で悩んでいる。
彼氏ができると友達と疎遠になる。それ自体は、珍しいことじゃない。誰もが多かれ少なかれ、恋愛で人間関係の優先順位を変える。
でも問題は、そのまま戻れないことだ。謝れないこと。戻った時にはもう手遅れで、友達側の残高がゼロになっていること。
由美は最後にこう言った。
「気づいた時に変えられた人は、友達が残ってる。気づかなかった人は、孤独になってる。私は後者で、それは自分で選んだ結果だったんです」
彼女はコーヒーを飲み干し、窓の外を見た。子供を迎えに行く時間だった。隣に歩く友達はいない。彼氏ができた時に手放したものは、戻ってこなかった。