優しい言葉をかけられると、心が溶けた。
この人は仕事で失敗続きでも、私が支えればきっと変わる。そう信じて、お金を貸した。家事を代わりにやった。最初はありがとうの言葉で満たされた。
でも連絡が遅くなり、他の女性の影が見え始めても、忙しいだけと自分に言い聞かせた。浮気が発覚して別れた後も、私がもっと頑張ればという後悔だけが残った。
ダメ男に引っかかり続けた女性たちに話を聞いた。彼女たちが抱えていたのは、相手の問題ではなく、自分との関係の問題だった。
「私が支えれば変わる」と信じ続けた日々
吉祥寺のカフェ。平日の夜、奈々は何度も繰り返したパターンを語った。31歳、会社員。
「優しい言葉に弱いんです。職場で出会った人にすぐ夢中になって。彼が仕事で失敗続きでも、私が支えれば変わるって信じて」
奈々は給料日前にお金を貸した。家事を代わりにやった。
「最初はありがとうって言ってくれて、それで満たされてたんです。でも徐々に連絡が遅くなって、他の女性の影が見えても、忙しいだけって自分に言い聞かせて」
浮気が発覚して別れた。
「別れた後も、私がもっと頑張ればって後悔ばかりで。なんで相手を責めるんじゃなくて、自分を責めてたのか、しばらく分からなかった」
奈々は自分のパターンに気づくのに時間がかかった。
「幼い頃から家族の面倒を見て育って、誰かの役に立つことに喜びを感じるタイプで。それが恋愛で、相手を支えなきゃっていう過剰な使命感になってたんですよね」
奈々は続けた。
「私が支えれば変わるって、相手のためを思ってるようで、実は自分のためだったんです。役に立つことで、自分の価値を確認したかった。それに気づいた時、ようやく抜け出せた」
支えることで自分の価値を確認する構造
誰かを支えることに喜びを感じるのは、本来は良いことだ。でもそれが、自分の価値を確認する唯一の手段になると、危うい。相手が変わらなくても、支え続けることをやめられなくなる。自分の存在意義が、その関係に依存してしまう。
奈々の友人、彩花は29歳。彼女も同じ構造に陥った。
「父親が不在で育ったから、男性を守ってあげたいっていう気持ちが過剰だったんです。ギャンブル好きの彼に貯金を使われても、私がそばにいなきゃって離れられなくて」
彩花は嘘だと分かっていても見過ごした。
「我慢強さが、逆に相手を甘やかしてた。私が我慢するほど、相手はダメになっていく。その悪循環に気づくのに、何年もかかりました」
ルックスで選んで、収入を頼られた日々
渋谷のカフェ。休日の午後、麻衣は面食いだった自分を振り返った。33歳、会社員。
「ルックスがいい男性に弱かったんです。かっこいい人と付き合える自分に満足してて」
でもその彼は無職期間が長く、麻衣の収入に頼るようになった。
「私、控えめで押しに弱いんですよ。文句を言われるとすぐ折れて。友達が別れた方がいいって言っても、聞かなかった」
麻衣には相談できる女友達が少なかった。
「周りの意見を参考にせず、自分だけの判断で突き進んでて。客観的な視点がなかったんです。結局、借金まで作らされて、精神的に疲弊して別れた」
麻衣は今、学んだことがある。
「もうルックスだけで選ばないって。あと、友達の意見をちゃんと聞くようになった。一人で判断すると、見えなくなるものがあるんですよね」
孤立が判断を狂わせる
周囲の声を聞かずに一人で判断すると、客観的な視点が失われる。相手のダメな部分が見えにくくなり、友人の忠告も届かなくなる。孤立した状態は、不健全な関係から抜け出しにくくする。
麻衣の同僚、真由は30歳。彼女は女友達が少ないことが危険信号だったと気づいた。
「恋愛が始まると、友達と疎遠になってたんです。彼氏中心の生活になって。で、彼氏のことを客観的に見てくれる人が周りにいなくなって」
真由は別れた後、友人関係を立て直した。
「友達がいると、それおかしいよって言ってくれるんですよ。一人だと、その声が聞こえなくて。孤立すると、ダメ男のおかしさに気づけなくなる」
感情のジェットコースターにハマった理由
新宿のバー。金曜の夜、由美は複数のダメ男経験を語った。32歳、会社員。
「共通してたのは、感情のジェットコースターにハマることで。優しい時と冷たい時の温度差に翻弄されて」
由美はその温度差に振り回されながら、自分を納得させた。
「冷たくされた後に優しくされると、本当は私のことが好きなんだって思い込むんです。計算されたやり方だったのに、その不安定さが逆に興奮を生んでた」
由美は今、そのパターンを自覚している。
「安定した優しさより、不安定な刺激に惹かれてたんですよ。それが恋愛だと勘違いしてた。穏やかな人を、つまらないと感じてた」
由美は自分の世界を広げる努力をした。
「恋愛以外に趣味や友人関係を大切にしたら、依存が減ったんです。恋愛だけが人生の全てじゃなくなった時、ダメ男に振り回されなくなった」
不安定さを刺激と勘違いする心理
優しい時と冷たい時の温度差は、不安と安堵を交互に生む。その感情の振れ幅を、恋愛の高揚感だと勘違いすることがある。でもそれは、健全な愛情ではなく、感情の操作に巻き込まれている状態かもしれない。
由美の後輩、沙耶は27歳。彼女も感情のジェットコースターに弱かった。
「安定してる人と付き合うと、なんか物足りなくて。ドキドキしないって。でもそのドキドキって、不安だったんですよね」
沙耶は気づいた。
「不安をドキドキと勘違いしてた。本当に大切にしてくれる人の安心感を、退屈だと思ってた。価値観がずれてたんです、私の方が」
「私が悪い」と内側に向け続けた優等生タイプ
吉祥寺の定食屋。夕方、恵理は我慢強さが裏目に出た経験を語った。34歳、会社員。
「相手のミスをカバーし続けて、疲弊しても私が悪いって内側に向けるんです」
恵理は優等生タイプだった。完璧にこなそうとして、自分を責めた。
「悪い男性から、手がかからず都合がいいってターゲットにされやすかったんですよ。文句を言わないし、全部自分で抱えるから」
恵理は自我を出すのが遅れた。境界線を引けなかった。
「嫌だって言えなかったんです。相手の要求に応じてしまう。嫌われたくない一心で。でもそれが、相手をますますわがままにさせて」
恵理は今、NOを言う練習をしている。
「自分の基準を大切にするようになって。最初は罪悪感あったけど、断れるようになったら、寄ってくる男の質が変わったんです」
我慢強さがターゲットにされる構造
我慢強くて優しい人は、不健全な相手にとって都合がいい。文句を言わず、要求に応じ、自分を責める。その性質が、相手をますますわがままにさせる。境界線を引けないことが、消耗を招く。
恵理の友人、麻里は33歳。彼女も自己犠牲を美徳だと思い込んでいた。
「尽くすことで愛を証明しようとしてたんです。でもそれが逆効果で。相手に、この子は離れないって認識されて、ますます甘えられて」
麻里は気づいた。
「尽くすことが愛じゃなかったんです。自分を大切にしながら相手も大切にするのが、本当の関係で。一方的に与えるのは、愛じゃなくて依存だった」
パターンを自覚した女性たちが手に入れたもの
恵比寿のカフェ。休日の午後、何人かの女性が変化について語り合っていた。
「過去の失敗から、早い段階で自分のダメな部分も見せるようになったんです」
そう言ったのは、31歳の女性だ。
「完璧を装ってたんですよ、前は。いい女でいなきゃって。でも自然体で接するようにしたら、本当の相性が分かるようになって。ダメ男は、完璧を演じる女に寄ってくるんですよね、コントロールしやすいから」
隣の女性も頷いた。
「私はNOを言う練習をしたんです。自分の基準を大切にするようにしたら、相手の要求に流されなくなって」
別の女性が続けた。
「恋愛以外に充実した生活を送ることで、依存体質が改善されて。寂しさを恋愛だけで埋めようとしなくなったら、ダメ男に引っかからなくなった」
彼女たちに共通していたのは、自分との関係を立て直したことだった。
「ダメ男に引っかかるのって、根底に優しさと純粋さがあるんですよ。それ自体は悪くない。ただ、それが自分を傷つける方向に向かわないように、自覚することが大事で」
ダメ男に引っかかる女性の特徴は、運の悪さじゃない。自己肯定感の低さ、母性の過剰、依存しやすさ、断れない優しさ。これらは欠点ではなく、自分を大切にできていないサインだ。
奈々は最後にこう言った。
「私が悪いんじゃなかったし、相手だけが悪いんでもなかった。ただ、自分を大切にする方法を知らなかっただけで。それに気づいてから、引っかからなくなった。自分を大切にできる人のところには、自分を大切にしてくれる人が来るんだなって、今は思います」
彼女はコーヒーを飲み干し、席を立った。外は穏やかな夕暮れだった。自分との関係を立て直すことが、すべての始まりだった。