どちらも好きだった。
優しい先輩と、派手な同級生。予定を上手く調整しているつもりだった。両方を大切にしているつもりだった。
でも誕生日が重なった週に、両方からプレゼントをもらった瞬間、罪悪感が一気に押し寄せた。
二股をかけた女性と、かけられた側の男性、両方に話を聞いた。そこにあったのは、誰も幸せになれない構造だった。
SNSのタグ付けでバレた日―信頼を失って初めて分かったこと
吉祥寺のカフェ。休日の午後、彩花は大学時代の過ちを語った。27歳、会社員。
「優しい先輩と派手な同級生、二人と同時に関係を持ってたんです。最初はどちらも好きっていう気持ちで、予定を上手く調整してたつもりで」
でも限界は突然来た。
「誕生日が重なった週に、両方からプレゼントをもらって。その時、罪悪感が一気に募ったんです。二人とも、私のために選んでくれたものを持って」
発覚はあっけなかった。
「SNSのタグ付けでバレて、大喧嘩になって。信頼を失って、どちらとも別れる羽目になりました」
彩花は当時を振り返る。
「どちらも好きって、本気で思ってたんです。でも今思えば、どちらのことも本気で見てなかった。一人に向き合う覚悟から逃げて、二人の良いところだけを受け取ってた」
彩花は続けた。
「一人の人にちゃんと向き合えばよかったって、心から後悔してます。二股って、二倍愛されてるようで、実は誰からも本当には愛されてない状態なんですよ。だって、本当の私を誰にも見せてないから」
「どちらも好き」の正体
どちらも好きという気持ちは、本物に感じられる。でもその実態は、一人と深く向き合う覚悟からの逃避であることが多い。二人の良いところだけを受け取り、本当の自分は誰にも見せない。その状態は、二倍の愛ではなく、半分の関係を二つ持っているだけだ。
彩花の友人、美咲は25歳。彼女も同時進行の代償を払った。
「安定した彼氏と刺激的な人、二人をキープしてて。でも二人から同時に結婚を考えてるって言われて、パニックになったんです」
美咲は慌てて一人を選ぼうとした。
「でもタイミングを逃して、両方から去られて。孤独になりました。欲張った結果、何も残らなかった。以来、誠実さを大切にするようになって」
「今日も楽しかったね」のメッセージを見た夜
渋谷のカフェ。平日の夜、健太はかけられた側の痛みを語った。30歳、会社員。
「真剣に付き合ってた彼女が、実は会社の同僚と二股をかけてたんです」
兆候はあった。休日の予定が急に変わることが増えた。夜遅くに電話が繋がらない日が続いた。
「ある日、彼女のスマホに届いた、今日も楽しかったねってメッセージを見て発覚して。問い詰めたら、刺激が欲しかっただけって言い訳されて」
健太はショックで立ち直れなかった。
「真剣だったんですよ、俺は。結婚も考えてた。それが、刺激の一言で片付けられて。俺との時間は何だったんだって」
健太は学んだことがある。
「疑うことを知らなかった自分を責めた時期もありました。でも信じることは悪くなかったはずで。悪いのは、信頼を利用した側なんだって、時間をかけて整理しました」
かけられた側に残る傷
二股をかけられた側には、深い傷が残る。相手への怒りだけでなく、見抜けなかった自分への不信、人を信じることへの恐怖。その傷は、次の恋愛にも影を落とす。信じることが怖くなり、新しい関係を築く力を奪っていく。
健太の友人、隆は34歳。彼は数年間気づかなかった。
「結婚を前提に考えてて、子供の話まで出てたんです。でも相手の女性には、別の関係があった」
発覚後、隆は証拠を集めてきっぱり別れた。
「友人たちに支えられて回復しました。でも以来、相手の行動をよく観察するようになって。疑い深くなった自分が、ちょっと悲しいんですけどね」
二人から「結婚」と言われてパニックになった末路
新宿のバー。金曜の夜、奈々は職場での二股の代償を語った。32歳、元会社員。
「職場で二人の男性と関係を持って、どちらも特別扱いしてたんです。残業のフリをしてデートを重ねて」
破綻は共通の飲み会で訪れた。
「スケジュールの矛盾が露呈して。社内で噂が広がって、居場所がなくなって退職しました。家族にも迷惑をかけて」
奈々は欲張った自分が悪いと痛感している。
「二股してる間、ずっと不安だったんです。いつバレるか、いつ終わるか。楽しいはずの時間も、心の余裕がなくて。スリルだと思ってたものは、ただの恐怖だった」
奈々は続けた。
「二股って、二人に愛される贅沢に見えるかもしれない。でも実際は、二つの嘘を管理し続ける重労働で。スマホの通知に怯えて、予定の整合性に神経を使って。あんなに疲れる日々はなかった」
二股を続ける側の消耗
二股をかけている側も、実は消耗している。バレる恐怖、予定の管理、嘘の整合性。常に緊張状態が続き、心の余裕を失っていく。刺激や安心を求めて始めた二股が、最も自分を追い詰める構造になる。
奈々の知人、麻衣は29歳。彼女は体に不調が出た。
「マッチングアプリで知り合った二人と並行して会ってたんですけど、どちらも真剣度が高くなって、精神的に疲弊して。生理的な不調まで出るようになって」
麻衣はすべてを清算した。
「カウンセリングを受けて、二股は一時的な逃避に過ぎないって気づいたんです。一人と深く向き合うのが怖くて、二人に分散させてた。今は一人の関係を大切にしてます」
「寂しがり屋で一人が怖い」―二股の裏にあった心理
吉祥寺の定食屋。夕方、拓也は別れた後に知った彼女の素顔を語った。26歳、会社員。
「彼女が二股してたって知って別れたんですけど、後で彼女の友人から聞いたんです。いつも寂しがり屋で、一人が怖いタイプだったって」
拓也はその言葉で、見方が変わった。
「愛情を一人の人に注げない人は、自分自身を満たせていないのかもしれないって感じて。彼女は二人いないと安心できなかった。一人に振られても、もう一人がいるっていう保険で」
拓也は相手を責めるより、自分の選択を見直した。
「彼女の寂しさに気づけなかった自分もいて。でも気づいてたとしても、二股が正当化されるわけじゃない。寂しさの埋め方を間違えると、周りも自分も傷つけるんだなって」
寂しさが生む保険としての二股
二股の背景には、一人になることへの恐怖がある場合がある。一人に捨てられても、もう一人がいる。その保険が安心を生む。でもその安心は、二人の信頼を担保にした偽物だ。寂しさは、二股では埋まらない。むしろ、誰とも本当には繋がれない孤独を深めていく。
拓也の友人、恵理は28歳。彼女は加害と被害の両方を経験した。
「過去に二股をかけてた自分が、後に別の男性から二股をかけられる立場になったんです。両方の痛みを知りました」
恵理はかけられた時、初めて分かった。
「自分がかけてた頃、相手の男性がどれだけ傷ついたか。あの不安、あの疑い、あの裏切られた感覚。全部、私が誰かに与えてたものだった」
恵理は今、最初から正直に過去を話している。
「今の彼には、過去を全部話しました。隠して始まる関係は、また同じことの繰り返しになるから。正直に話して、それでも受け入れてくれた彼との信頼を、大切にしてます」
両方の痛みを知った人たちのその後
恵比寿のカフェ。休日の午後、何人かが二股について語り合っていた。
「二股って、夜の電話の声でバレたり、旅行の予定が重複して発覚したり、共通の知り合い経由で暴露されたり。いろんなパターンがあるけど、必ずバレるんですよね」
そう言ったのは、31歳の女性だ。
「かけてる側も、いつか終わるって不安を抱えながら続けてる。結局、心の余裕を失っていく」
隣の男性も頷いた。
「一時的な刺激や安心を求める気持ちから始まるけど、誰も得をしないんですよ。かけられた側は深く傷つくし、かけてる側も消耗するし」
別の女性が続けた。
「誠実に一人の人を大切にする方が、長い目で見て自分自身も満たされるんです。一人と深く向き合う怖さから逃げてる限り、本当の安心は手に入らない」
彼らに共通していたのは、二股が誰も幸せにしない構造だという理解だった。
「もし今そんな状況にいるなら、自分の本当の気持ちと向き合ってほしい。何から逃げてるのか、何が怖いのか。そこに答えがあるはずだから」
二股をかけている女性の心の中には、寂しさ、不安、覚悟からの逃避がある。でもその選択は、誰も幸せにしない。
彩花は最後にこう言った。
「どちらも好きって思ってた頃の私は、誰のことも本当には好きじゃなかったんだと思います。本当に好きなら、一人を選ぶ怖さも引き受けるはずだから。二股は二倍の愛じゃなくて、半分の覚悟が二つあるだけ。それじゃ誰のことも、自分のことさえも、幸せにできなかった」
彼女はコーヒーを飲み干し、席を立った。外は穏やかな夕暮れだった。今は一人の人と、正直に向き合っている。怖さごと引き受けた関係の方が、ずっと深く、ずっと温かい。