付き合っているわけでもないのに、彼が当たり前のように家に来る。落ち着く、と言って長居する。これって好意なのかな、それとも、ただ都合よく使われているだけなのかな。今回、まさにそういう男性を家に迎えてきた女性たちに、話を聞きました。すると、彼らが家に来る、その本当の理由が、女性の期待とは少しずれたところにあることが見えてきました。
最初に話してくれたのは、大学時代を振り返る彩さんです。二十一歳の頃、サークル仲間の翔さんが、付き合っていないのに、頻繁に家に来るようになったといいます。
「最初は、勉強の相談とかゲームの話で来てたんです。友達として気軽に来てるだけかな、って。でも、夜遅くまで残ったり、一緒に夕食を作ったりするうちに、あれ、これって特別な気持ちがあるのかな、って戸惑い始めて」
「落ち着く」という言葉の本当の意味
家の方がリラックスできる、と彼は言った
彩さんが翔さんに、もっと普通にカフェとかで会おう、と提案したとき、返ってきた言葉が印象的でした。
「家の方がリラックスできるよ、って言うんです。彩の家が落ち着く、って。私、そのときは、私と一緒にいるのが好きなのかな、って受け取ったんですけど」
でも、後から振り返ると、その言葉は別の意味だったのかもしれない、と彼女は言います。
「翔が好きだったのは、たぶん、私っていうより、私の部屋の、あのくつろげる感じ、だったんですよね。カフェじゃだめで、家がいい、っていうのは、私に会いたいっていうより、あの安心できる空間にいたかった、っていうことだったのかな、って」
結局、彩さんは距離を置き、連絡を減らしました。後で翔さんは、好意はあったけど告白する勇気がなかった、と明かしたそうです。でも、彩さんの実感は、少し違いました。曖昧な関係に疲れた、と。
家がくれる安心を、あなたと取り違えていないか
ここに、付き合っていない女性の家に行く男性の心理の、いちばん大事な部分があります。彼らの多くが口にする、落ち着く、居心地がいい、という言葉。それは、あなたという人間への好意のように聞こえます。でも、実は、あなたの家がくれる安心そのものに向けられていることがあるんです。
温かい部屋。手料理。誰にも気を使わなくていいくつろぎ。愚痴を聞いてくれる相手。これらは、家という空間と、そこにいるあなたが、セットで提供している。そして、男性は、そのセットの安心を味わっている。問題は、彼が、その安心をあなたへの恋愛感情だと思っていない、ということです。彼にとっては、居心地のいい場所と、気の置けない相手があるだけ。でも、あなたは、家に来てくれるという行為を、好意のサインだと受け取ってしまう。このずれが、混乱を生むんです。
家という空間が、実際の距離を錯覚させる
便利に使われてる気がする、という違和感
職場の同期を家に迎えていた美咲さんの話は、このずれを、もっとはっきり示しています。二十八歳のOLです。同期の亮介さんが、近くを通ったから、と突然訪ねてきては、テレビを見たり、愚痴をこぼしたりしていたといいます。
「便利に使われてる気がしてたんです。でも、亮介の明るい性格に、なんとなく甘えて、断れなくて」
ある日、亮介さんがまた長居したとき、美咲さんは思い切って、付き合ってるわけじゃないのに、と疑問をぶつけました。
「そしたら、亮介、ただの友達だと思ってた、って言ったんです。私が、ちょっと期待してたのが恥ずかしくなって。それ以来、家には簡単に上げないようにしました」
亮介さんに、悪気はなかったのでしょう。ただ、彼は、家に行くという行為を、友達として当たり前のことと思っていた。でも、美咲さんは、家に上げるという行為に、もっと特別な意味を感じていた。同じ行為を、二人がまったく違う重さで受け取っていたんです。
家に上げると、関係が進んで見えてしまう
なぜ、こんなずれが起きるのか。それは、家というプライベートな空間が、実際の二人の距離以上に、関係を進んで見せてしまうからです。
考えてみてください。人を家に上げる、というのは、普通、かなり心を許した相手にだけすることです。だから、家に来る、上げる、という行為が成立すると、私たちは無意識に、この二人は親密なんだ、と感じてしまう。特に女性側は、自分の生活空間に彼を入れている、という事実から、関係が深いものだと錯覚しやすい。手料理を作り、一緒にくつろぐ。その生活感のある親密さは、恋人同士のそれと、よく似ています。
でも、それは錯覚のことがあるんです。家で過ごす親密さと、二人の関係が恋愛として進んでいるかどうかは、別。空間の近さが、心の近さを保証するわけではないんです。マッチングアプリで知り合った拓也さんを家に迎えていた沙耶さんも、家で映画を見て、料理をして、脈ありかも、と期待したけれど、どう思ってるの、と聞くと、気楽に過ごしたいだけ、と返されて傷ついた、と話していました。家の親密さと、彼の気持ちは、比例していなかったんです。
彼が求めているのは、恋愛じゃなくて居場所
安心できる異性、という便利なポジション
もう少し、彼らの心理の奥を見てみます。付き合っていないのに家に来る男性の多くが求めているのは、実は、恋愛ではなく、心のよりどころ、居場所です。
幼馴染の俊介さんを家に迎えている智子さんは、三十五歳。俊介さんは、智子の家が第二の実家みたい、と言って、気軽に訪れ、一緒に夕食を食べる、といいます。
「家族みたいで心地いいんです。でも、恋愛に発展しないのが寂しくて。俊介は、たぶん、私を安心できる異性として頼ってるだけ、なんですよね」
これは、男性にとって、とても都合のいいポジションです。恋人ではないから、責任も束縛もない。でも、恋人のような安心と世話は受けられる。彼らは、そのいいとこ取りの居場所を、無意識に求めている。悪意があるわけではないけれど、結果として、女性は、恋人未満の便利な存在に置かれてしまう。四十代で、学生時代の友人・美咲さんの家に通う浩司さんも、気兼ねなく話せる相手として頼っているだけで、恋愛感情はないようでした。美咲さんは、年齢を重ねても異性として見られない寂しさを感じていました。
元彼が、また来るのも同じ心理
別れた後も家に来る、というのも、根っこは同じです。元彼の健太さんが別れた後も時々家に来ていた恵美さんは、三十二歳。未練があるのかな、と期待したけれど、健太さんは、新しい彼女の話も平気でしていたそうです。
「もう来ないで、って言ったら、ただ話したかっただけ、って。あの人は、私に未練があったんじゃなくて、私の家が安心できる居場所、だったんですよね」
彼女は、都合のいい関係を続けたい心理だと気づいて、完全に連絡を絶ちました。元恋人という気心の知れた相手と、その家の安心。彼が手放したくなかったのは、恵美さんその人ではなく、その居心地のよさ、だったのかもしれません。
曖昧なままにするか、線を引くか
彼らが家に来るのは、あなたが嫌いだからではありません。むしろ、あなたとあなたの家が心地いいから来る。でも、その心地よさを、彼が恋愛感情だと思っているかは、まったく別の話です。だから、家に来てくれるという行為だけを、好意のサインと読むのは危ういんです。
ただ、正直に言えば、この曖昧な関係をどうするかは、簡単ではありません。線を引けば、彩さんや美咲さんのように、関係がぎくしゃくしたり、終わったりする。でも、曖昧なままにすれば、智子さんのように、片思いの苦しさを抱え続けることになる。どちらを選んでも、痛みはあります。
大事なのは、たぶん、まず、彼が家に来る理由を、恋愛だと決めつけずに、一度確かめてみることです。沙耶さんや美咲さんがしたように。どう思ってるの、と聞く。その答えで、彼があなたを恋愛対象として見ているのか、それとも、便利な居場所として頼っているだけなのかが、わかります。聞くのは、怖い。でも、聞かずに期待し続けるほうが、長い目で見れば、あなたをすり減らします。
そして、もし彼が、気楽でいたいだけ、ただの友達、と答えたなら、そのときは、あなたが選ぶ番です。友人としてその関係を楽しめるなら、続ければいい。でも、あなたの中に恋愛の期待があって、それが叶わないことで苦しいなら、家のドアを少しずつ閉じてもいいんです。あなたの生活空間は、あなたが心を許した相手に開くための場所です。都合のいい居場所として消費されるためのものではありません。あなたの家の安心を味わうだけで、あなたの気持ちには応えてくれない人のために、あなたの大切な空間と時間を差し出し続ける必要は、ないのだと思います。