既読がつかない。共通の友人からは、彼はもう前を向いてるみたい、と聞かされる。ここまで来ると、追うのはもう無理だと誰でもわかる。
それでほっとくことになる。ただ、ほっとくといっても中身は人によってまったく違った。連絡が来るのを待ちながら黙っている人と、本当に手放してしまう人がいる。外から見ると同じなのに、三ヶ月後の結果がきれいに分かれる。
送るのをやめた日と、諦めた日は別だった
三軒茶屋の、二階建ての古い喫茶店。窓が開いていて、下の道の音が入ってくる。あゆみさん、二十八歳、会社員。彼女は最初から少し早口だった。
別れてすぐ、連絡が完全に切れました。既読もつかない。共通の友達に聞いたら、彼はもう前に進んでるみたいだよ、って。
それでも最初の二週間は送ってたんです。おはようとか、この前のあれどうなった、とか。返ってこない。三通くらい送って、既読もつかないまま溜まってるのを見て、あ、無理だな、と。
それで送るのをやめました。ただ、諦めたわけじゃなかったです。全然。
待っている状態と、手放した状態の見た目は同じ
彼女はここが大事だと思う、と続けた。
最初の一ヶ月は、送ってないだけで、頭の中はずっと彼のことでした。通知が鳴るたびに見るし、いつ来るかな、って一日中考えてる。あれ、ほっとくじゃないです。待ってるだけ。
外から見たら同じですよ。連絡してないので。でも中身は正反対で、待ってる状態って、めちゃくちゃ消耗するんです。連絡してる時期より疲れてました。
変わったのは二ヶ月目からだという。仕事が忙しくなり、通知を見る回数が減った。
三ヶ月経った頃に、来たんです。元気、って一言だけ。
すぐ返さなかったです。返せなかったんじゃなくて、返さないほうがいい気がして。三日置いてから、普通の近況を返しました。そこから会話は続かなかった。
ほっといて何がよかったかというと、復縁とかじゃなくて、あの三ヶ月で自分の中の執着が減ったことです。返信が来ても、思ったより何も感じなかった。それが答えでした。
脈なしに見えたのは、相手も限界だったからだった
けいこさん、三十一歳、看護師。彼女の場合は、半年後に答え合わせがあった。
別れた直後、完全に無視されました。何を送っても反応がない。ああ、嫌われたんだな、と思って、こっちも一切やめた。
半年経った頃、街で偶然会ったんです。向こうから声をかけてきて、少し話しました。
そのとき言われたんですよ。あの時期は、関わること自体がしんどくて、わざと距離を置いてた、って。
冷たさの中身は、無関心とは限らない
私はてっきり、もう興味がないんだと思ってた。実際は逆で、向こうもかなり参ってたらしいんです。私と話すと引き戻される感じがして、それが怖くて全部シャットアウトしてた、と。
あのとき追ってたらどうなってたか。たぶんもっと悪くなってました。しんどくて逃げてる人を追いかけたら、逃げる速度が上がるだけなので。
復縁はしなかった。ただ、お互いに納得した形で終われたという。
追わなかったから、こういう話ができたんだと思います。追ってたら、最後は嫌われて終わってた。
戻ってくることと、変わることは別だった
まゆさんが話してくれたのは二十五歳、大学生だった頃のこと。
別れてから、彼の態度が急に冷たくなって、既読無視が続きました。私は、好きなら追ってくるはず、と思ってたんですけど、友達に、一回完全にやめてみなよ、と言われて、連絡を切りました。
一ヶ月、二ヶ月と経って、彼のことを考える時間が減ってきた。その頃に、会いたい、って連絡が来たんです。
会ってみたら、ほっとかれて初めて、失った感覚がわかった、って言われました。半信半疑でしたけど、しばらく様子を見ることにして、短期間だけ復縁しました。
三週間で、元の位置に戻った
彼女はここで苦笑した。
三週間くらいで、全部戻りました。連絡が減って、返事が遅くなって、会う約束が流れる。別れる前とまったく同じ。
わかったのは、彼が戻ってきたのは、私がいなくなったのが嫌だっただけで、私と一緒にいたかったわけじゃないってことです。失うのが嫌なのと、欲しいのは、違うんですよね。
ほっとくのは有効でした。実際に戻ってきたので。ただ、戻ってきた人が変わってるとは限らない。そこを勘違いしてました。
最終的に自分から完全に終わらせたという。二回目の別れのほうが楽でした、と彼女は言った。一回目でだいぶ体力を使ってたので。
ほっとかれた側は、何を感じているのか
たくみさん、三十三歳、営業職。彼は無視していた側だ。
振られたのは俺のほうです。それで、向こうからの連絡を全部無視してました。
嫌いになったからじゃないんですよ。会うと気持ちが揺れるから。返信を打とうとすると、書いては消してを繰り返すことになる。それが嫌で、最初から見ないことにしてた。
三ヶ月くらいして、彼女からの連絡が完全に止まったんです。
止まった瞬間に、こちらが動く
そしたら、急に気になり始めて。おかしいですよね、俺が無視してたのに。
来なくなって初めて、来てたことのありがたみがわかるというか。自分から、元気、って送ってしまいました。返事はそっけなかったです。それ以上は追いませんでした。
もう戻る気はなかったので。ただ、ほっとかれたことで自分が動いたのは事実です。
彼は最後にこう付け加えた。
これ、ほっとけば戻ってくるって話にはしないでほしいんですよ。俺は動いたけど、戻る気はなかったので。動くことと戻ることは違います。
ほっとき続けたら、本当に終わった
りなさん、二十九歳、フリーランス。彼女の場合は、消えた側の話だ。
別れた後、彼はすぐ新しい人ができて、SNSにも普通に上げてました。脈なしどころか、私はもう過去の人だな、と。
ブロックしました。見ないようにするというより、見られる状態にしておくのが自分に無理だったので。
一年後、共通の友達から、彼が君のこと気にしてたよ、と聞いた。
何も起きなかったです。感情が。へえ、で終わりました。
終わらせるためのほっとくもある
ほっとくって、復縁の技術みたいに語られるじゃないですか。私のは違いました。本当に終わらせるためにやった。
徹底したら、本当に離れました。一年かかったけど。それがいちばんよかったと思ってます。
冷却期間を、自分の時間として使った
さやかさん、二十七歳、事務職。彼女は復縁した数少ない例だ。
別れた直後から、三ヶ月は絶対に連絡しないと決めました。冷却期間という言葉を知ってたので。
その三ヶ月、彼からは一回も来ませんでした。期待してなかったと言えば嘘になりますけど、来ないものとして過ごしてました。
何をしていたのか聞くと、答えは具体的だった。
ジムに週三で通って、資格の勉強を始めて、あと、友達に会う回数を増やしました。予定を埋めたんです。空いてる時間があると考えちゃうので。
四ヶ月目に、自分から送った
三ヶ月きっちり経ってから、自分で送りました。待ってても来ないので。
短い文で、普通の内容です。そしたら普通に返ってきた。そこから少しずつ会話が戻って、半年後に復縁しました。
最初から追ってたら、たぶん駄目でした。彼、追われると逃げる人なので。三ヶ月置いたことで、お互いに余裕ができたんだと思います。
彼女はここで一つ付け加えた。
ただ、三ヶ月我慢すれば戻る、みたいな話じゃないですよ。私はあの三ヶ月で、彼がいなくても平気な生活を先に作ったんです。それができてから連絡したから、うまくいった。作らずに三ヶ月数えてるだけだったら、たぶん同じことになってました。
六人のうち、復縁したのは一人。短期間だけ戻ってまた別れたのが一人。残り四人は、それぞれの形で終わっている。
はっきりしていたのは、ほっとく期間の中身の差だ。あゆみさんの最初の一ヶ月は、連絡していないだけの待機だった。さやかさんの三ヶ月は、予定で埋まっていた。同じ三ヶ月でも、出てくるものが違う。
たくみさんの言葉が、いちばん身も蓋もなかった。ほっとかれたら気になります、と彼は言った。ただし、気になったからといって戻る気になるかは別の話です、と。
あゆみさんは今、別の人と付き合っている。あの三ヶ月がなかったら、たぶん次に行けてなかったです、と言っていた。ただ、彼からの元気、という一通は消していないらしい。読み返すこともないという。消す理由も特にないので、置いてあるだけです、と彼女は言った。窓の外を、配達のバイクが二台続けて通っていった。