MENU

三角関係にいた男が、心理の核心を初めて語った

  • URLをコピーしました!

好きな人に、別の男がいる。あるいは、自分に好きな人が二人いる。

どちらのパターンにせよ、三角関係という状況が人間にもたらすものは、映画やドラマが描くような甘い葛藤とはまるで違う。実際にその渦中にいた人間の話を聞けば聞くほど、出てくるのは「惨め」「怖い」「何をしてたんだろう」という言葉ばかりで、ロマンチックな色は一切ない。

この記事は、三角関係を経験した男性4人への取材をもとにしている。選んだ側、選ばれなかった側、略奪した側、された側それぞれの立場から、当時の心理の動きを、できるだけ正確に引き出すことだけを考えた。


目次

取材は、雨の夜の荻窪から始まった

中央線の荻窪駅を出て、北口の細い路地をしばらく歩いた先に、その居酒屋はある。暖簾が色褪せていて、引き戸を開けると焼き鳥の煙が直接顔にきた。

奥の席に、堀内さん(仮名・33歳・広告代理店勤務)はいた。すでに生ビールを半分飲んでいて、こちらが座るなり「今日、話せるかどうかわからないですけど」と言った。笑ってはいたが、目が落ち着いていなかった。

「三角関係って言葉、久しぶりに聞いた。正直、思い出したくない話で」

煙の匂いが染み込んだ壁を少し見てから、続けた。

「でもちゃんと話したことないんですよ、誰にも。友達に話せるような話でもないし、当事者たちとはとっくに縁が切れてるし。だから今日、全部しゃべろうと思ってきました」


三角関係の中にいる男が、本当は何を考えているのか

堀内さんが三角関係に入り込んだのは、28歳のときだった。当時付き合っていた彼女に、別の男の存在が浮かんだ。

「気づいたのは、彼女のLINEの通知音が変わったことでした。着信音じゃなくて、LINEの通知音。それまでは何も気にしてなかったのに、ある夜だけ、その音が違う周波数で聞こえた気がして。根拠ゼロなんですけど、その瞬間からもう、確信みたいなものがあった」

「最初に感じたのは、嫉妬じゃなかった。恐怖でした。自分が、どこかで不要になってるんじゃないかっていう。彼女への感情より、自分の立場への恐怖が先に来た。それが今でも、なんか情けない記憶として残ってる」

三角関係における男性心理として語られがちなのは「嫉妬」や「競争心」だ。でも堀内さんの言葉にあるように、最初に動くのは多くの場合、それよりも原始的な感情「排除されることへの恐怖」だということが、取材を通じて見えてきた。

「彼女に直接聞いたのは、気づいてから3週間後でした。その3週間、何をしてたかというと——普段より優しくしてた。ご飯の好みを聞いて、行きたいと言ってたカフェに連れて行って、誕生日でもないのに花を買って。要するに、捨てられないようにしてたんですよね。必死で」

声が少し平坦になった。

「今振り返ると、みっともないを通り越して、自分が何をやってたのかよくわからない。好きだから、じゃなくて、負けたくないから動いてた。そういう動機で人に優しくするって結構、きついですよ。自分に」


「競争心ではなく、鏡の問題」なぜ男は三角関係の渦中で壊れていくのか

ここで、この取材全体を通じて浮かんできた視点をひとつ提示したい。

三角関係における男性の苦しみは、一般に「ライバルへの嫉妬」や「好きな人を失う恐怖」として語られることが多い。でも実際に話を聞くと、その核心にあるのはもっと内向きな何かで相手との比較というより、自分の内側の問いに近い。

それは「自分は、選ばれるに値する人間なのか」という問いだ。

三角関係という状況は、その問いを突然、残酷な形で浮かび上がらせる。ライバルの存在は、自分の価値を外側から測る「鏡」として機能し始める。ライバルが何かに優れているように見えるたびに、その鏡に映る自分の輪郭がぼやけていく。

これを取材ノートに「競争心ではなく、鏡の問題」と書き留めた。

男が三角関係で傷つくのは、相手を奪われるからではなく自分が誰であるかを確認するための鏡が、突然ノイズだらけになるからだ。そしてその状態で取る行動の多くは、相手への愛情ではなく、鏡を正常に戻そうとする必死の試みだったりする。

堀内さんが言った「負けたくないから優しくしてた」は、その典型だ。


「選べない」男の心理構造

次に話を聞いた竹内さん(仮名・31歳・フリーランス)は、逆のパターンを生きた人間だった。自分に好きな人が二人いて、どちらも選べなかった。

大阪から東京に出てきたついでに取材に応じてくれた。待ち合わせのカフェに少し遅れてきて、「すみません、迷いました」と言った。迷子になりやすい人間だ、という印象が最初から残った。

「同時期に好きな人が二人いたのは、26歳から28歳の2年間です。一人は学生時代からの友達で、一人は仕事で知り合った年上の女性。全然タイプが違う二人で、片方に気持ちが傾くと、もう片方のことが急に気になってそれを延々と繰り返してた」

「二人に対して、どっちにも誠実なつもりだった。どっちにも本気だと思ってた。でも今思うと本気でも誠実でもなかった。ただ、どっちかを失うのが怖くて、選ぶことから逃げ続けてただけで」

「選べない男って、優柔不断って言われるじゃないですか。でも俺の場合、優柔不断というより決断したあとの自分を、想像できなかった。Aを選んだ後の自分が、Bのいない世界でちゃんと生きていけるか、イメージできなかった。Bを選んだときも同じ。どっちを選んでも、選ばなかった側の空白が怖くて、動けなかった」

この「選んだあとの自分」への恐怖は、三角関係における男性心理の中でも語られにくい部分だと感じた。

「2年間で、二人との関係は結局どっちも終わりました。Aの子に『あなた、私のことどう思ってるの』って詰められて、答えられなかった。その3ヶ月後に、Bさんが別の人と付き合い始めた。どちらも自分の煮え切らない態度が原因で、どちらも俺のせいで。それはわかってる」

コーヒーを一口飲んで、窓の外を少しだけ見た。

「今でもたまに、あの2年間のことを考える。あのとき選んでいたら、どうなってたんだろうって。でも同時に、あの頃の俺には選ぶ能力がそもそもなかった気もして。選べなかったんじゃなくて、選ぶ準備ができてなかったその違いが、今は少しわかる気がする」


「選ばれなかった」男が語る、その後に残ったもの

三角関係で傷つくのは、女性だけではない。男が男に負ける、という経験の話を、平田さん(仮名・36歳・会社員)に聞いた。

都内のオフィス街の近くにある、サラリーマンが昼間から飲めるような立ち飲み屋だった。平田さんは仕事帰りで、ネクタイを緩めたまま話し始めた。

「29歳のとき、3年付き合った彼女に別れを告げられました。理由は、職場の同僚を好きになったから、と。その同僚が誰かは知ってた。同い年で、俺よりキャリアが早かった。それだけは、知ってた」

「別れた夜、家に帰って——何もできなかった。泣くわけでも、怒るわけでも、飯を食うわけでも。ただ、壁を見てた。2時間くらい、壁だけ見てた。その間に頭の中でグルグルしてたのは、悲しみじゃなくて、なんで俺じゃなかったのか、でした。何が足りなかったのか。年収か、見た目か、話の面白さか。自分をパーツに分解して、全部比べてた」

「その作業が本当に、きつかった。悲しいより、きつかった。好きな人を失う痛みより、自分の価値を棚卸しする作業のほうが、長く続いた」

平田さんはその後1年近く、新しい出会いを求めなかった。

「恋愛する気力がなかった、というよりまた同じことが起きたら耐えられない、という確信があって。三角関係で負けた経験って、単純な失恋より傷の質が違うんですよ。比べられて、負けた、という経験は、自己評価に直接刺さる。失恋の傷は時間で癒えても、比較されて劣った側に置かれた記憶は、もっとゆっくりしか溶けない」

30歳を過ぎてから、ようやく誰かを好きになれるようになった、と言った。

「今の妻と付き合い始めたとき、正直ビビってたんですよ。また、誰かと比べられるんじゃないか、って。でも妻は、そういう空気を一切出さない人で付き合って半年くらいして、やっと、ああ全員が俺をジャッジするわけじゃないんだな、って気づいた。遅すぎるけど(苦笑)」


略奪した側が語る、誰にも言えなかった話

もう一人、違う立場から話してくれた人間がいる。

島田さん(仮名・34歳・デザイナー)は、相手に彼氏がいると知りながら近づき、最終的に彼女の前の彼氏から「奪った」形になった経験を持つ。

Zoomで話してくれた彼の部屋は、整然としていた。表情は穏やかだったが、話の途中で何度か、少し長い間があった。

「相手に彼氏がいるのは、最初から知ってました。共通の友人から聞いてたので。でも好きになってしまった。それは本当で、計算ではなかった。計算じゃない、とは今でも思ってる。でも彼氏がいると知って近づいたことは、正当化できない」

「付き合い始めてから半年くらいして、ふと気づいたんですよ。俺は彼女の何が好きなのか、って。好きなのは間違いない。でも、本当にこの人そのものが好きなのか、それとも選ばれたという事実が好きなのか、区別がつかなくなってきた」

それは予想外の告白だった。

「略奪、っていう言葉が正確かどうかはともかく、競合する相手がいたうえで選ばれる、という経験は独特の高揚感があるんですよ。恥ずかしいけど、正直に言うと。でもその高揚感が冷めたとき、残ったのは彼女への気持ちだったのか、自分への満足感だったのか、今でも判然としない」

「彼女とは2年付き合って、俺のほうから別れた。理由を彼女に正直には言えなかった。言えるわけがない。でも本音を言うと俺は、この人が好きだったんじゃなくて、選ばれたかっただけだったのかもしれない、と思い始めたから。それを自覚したとき、続けることが誠実じゃない気がした」

少し間があった。

「前の彼氏に、謝りたいと思ったことがある。会える状況じゃないし、会ったところで何になるわけでもないけど。あの人に何をしたか、今は全部わかるから」


三角関係が終わった後に残るもの

取材した4人全員が、三角関係の経験を「終わった話」として語りながら、どこかまだ消化しきれていない部分を持っていた。

堀内さんは、彼女の浮気相手だった男とは結局何も起きず、彼女とも別れた。「彼女が誰を選んだか、最後まで聞かなかった。聞けなかった。でも、どうせ俺じゃなかっただろうな、という感覚が今もあって。確認してないから否定もできない。その曖昧さが、一番しんどいかもしれない」と言った。

竹内さんは今、誰とも付き合っていない。「選べなかった男が、ちゃんと誰かを選べるようになるには、何が必要なんだろうって、今でも考える。答えは出てない。でも、あの2年間がなかったら、その問いを持たなかったと思う。その意味では、あの経験は必要だったのかもしれない」と、どちらとも取れる言い方をした。

平田さんは妻と今も暮らしている。「妻には三角関係で負けた話をしたことがある。笑いながら聞いてくれた。でも笑いながら、ちょっとだけ悲しそうな顔もしてた。あの顔の意味を、聞けていない」

島田さんは、その後に付き合った人には、過去のことを全部話したと言った。「正直に話したら、しばらく黙られて、翌日に『教えてくれてありがとう』って言われた。そこから付き合い始めた。今も続いてる」

三角関係という経験は、人によって何かを教えてくれることもあるし、ただ傷だけが残ることもある。どちらが正しいということではなくただ、それを経た人間の顔は、みんな少しだけ、余分なものを知っている顔をしている、と感じた。

荻窪の居酒屋を出たとき、堀内さんがコートを着ながら言った。

「三角関係って、相手のことを考えてるようで結局、自分のことしか考えてなかった気がする。俺も、竹内さんって人も、たぶん同じで。二人の女性を前にして、俺たちがずっと見てたのは、自分の中の穴だったんじゃないかと思う」

雨はまだ降っていた。

その言葉を、歩きながらしばらく考えた。反論しようとしたが、できなかった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ちょいエロからまじめな恋愛まで、街頭で聞いた本音、匿名で寄せられた告白、実際に会ってインタビューした当事者の生の声だけ。

街頭インタビュー
匿名体験談の募集・取材
当事者への直接インタビュー
読者投稿の検証と公開

取材協力や体験談の投稿は、ブログのお問い合わせフォームからお待ちしています。

目次