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男が嘘をつく時、LINEは監視装置に変わる。つかれた女と、ついた男に聞いた

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彼から来た一通のLINEを、本当は信じきれていない。既読がついた時刻を、つい確認してしまう。返信が遅いだけで、頭の中で良くない物語が組み上がっていく。こんなことをする自分は、束縛のきつい嫌な女なんだろうか。男が嘘をつく時、ラインに何が表れるのか。それを調べる手が止まらない夜を過ごしている人に向けて、嘘をつかれた女性と、自分が嘘をついていた男性、その両方に話を聞きました。同じ嘘でも、内側と外側ではまったく違う景色が見えました。

最初に会ったユカさんとは、平日の昼、静かなカフェで待ち合わせました。30代の会社員、仮名です。注文を済ませると、彼女はスマホをテーブルに伏せて置いて、こう切り出しました。

「私がおかしくなったのは、たった一通のLINEからなんです。今日も残業、っていう、それだけの」

そのときの画面を、彼女は今でもはっきり覚えていると言いました。

目次

「今日も残業」を、私は信じて頑張ってねと返した

SNSに写り込んだ彼を、見つけてしまった

付き合って二年目のある夜、彼から残業の連絡が来たといいます。

「いつものことだったんで、頑張ってね、ってスタンプ付きで返しました。何の疑いもなく。彼は仕事熱心な人だったし、信じてたので」

異変に気づいたのは、その夜遅くでした。

「なんとなくSNSを見てたら、友達のストーリーに、彼がはっきり写り込んでたんです。お店の中で、楽しそうに。残業してるはずの時間に。心臓がどくんって鳴ったのを、今でも覚えてます」

翌日、確認すると、彼は最初、同僚と軽く飲んだだけだと言ったそうです。

「でも問い詰めていくうちに、実は元カノの誕生日会だったって白状して。しかもそれを、残業って嘘でごまかしてた。頭が真っ白になりました」

嘘の中身より、信じた自分が惨めだった

ユカさんが何より苦しかったのは、意外なことだったといいます。

「元カノの誕生日会に行ったこと自体も、もちろん嫌でしたよ。でも、それ以上にきつかったのは、別のことなんです」

彼女は少し言葉を探してから続けました。

「あの夜、何も知らずに頑張ってねって打った、自分の指なんです。彼が嘘をついてる時間に、私はせっせと彼を応援してた。その、信じきってた間抜けな自分を思い出すと、恥ずかしくて消えたくなる。嘘をつかれた悔しさより、信じてた自分が惨めで仕方なかった」

嘘の被害は、二重になっています。事実を欺かれたという表の傷と、相手を信じていた自分の純真が踏みにじられたという裏の傷。そして多くの場合、後から長く痛むのは裏のほうです。彼女が眠れなくなったのは、彼の行動そのものより、信じていた自分への裏切りでした。

「あの一通から、私の中で何かが壊れたんです。具体的に言うと、LINEの見え方が、根っこから変わってしまった」

LINEが、つながる道具から監視装置に変わった

既読の時刻と、オンライン表示を数える夜

その日を境に、彼女のLINEの使い方は一変したといいます。

「それまでLINEって、彼とつながるための、温かい道具だったんです。なのに、あの日から、彼を監視する装置になった。既読がついた時刻を一秒単位で気にして、返信までの間隔を測って、オンライン表示が点くたびに、誰とやりとりしてるんだろうって疑う」

返信がスタンプだけで済まされると、不自然さを探す。通知をオフにしていると知れば、何か隠していると感じる。

「夜中にベッドで、彼のトーク画面とにらめっこして、過去のやりとりをずっと遡ってる自分がいました。あの日のあの返信、今思えば変だったな、とか。完全に探偵ですよね。彼を信じたいのに、信じられなくて、証拠を探してる」

LINEが可視化してくれる細かいデータ。既読の時刻、オンラインの有無、返信の速さ。それらが、信頼の代わりに、容疑を裏づける材料に変わっていく。一度その目で見始めると、相手のすべての挙動が、何かの証拠に見えてくる。

疑い始めたら、安心はもう戻ってこない

ここに、嘘の本当の破壊力があると私は思います。彼女が探していた安心は、監視では絶対に手に入らないからです。

監視でわかるのは、せいぜい今この瞬間に怪しい証拠がない、ということだけ。でも証拠がないことは、潔白の証明にはなりません。だから監視を続けるかぎり、ほら大丈夫だった、という安心には永遠にたどり着けない。次の瞬間にはまた疑える。安心というものは、証拠の積み重ねの先ではなく、もう調べないと決める信頼の上にしか成り立たないんです。

「それ、本当にそうなんです」ユカさんが深くうなずきました。「彼がそのあと何ヶ月か誠実にしてても、私の疑いは消えなかった。だって、ばれてないだけかもしれない、って思っちゃうから。一度落ちた疑いの沼からは、相手がどんなに潔白でも、自力じゃ抜けられないんですよ」

たった一つの嘘が壊したのは、その夜の予定の真偽ではなく、もう調べなくていいという信頼の土台そのものでした。

嘘をついた側は、何を守っていたのか

残業と嘘をついて、ゲームをしていた男

ここで視点を変えて、嘘をつく側の話を聞きたくなりました。別の休日に会ったタカシさんは、まさに彼女に残業と嘘をついていた経験のある男性です。20代後半、仮名。

「僕も、今日も残業、ってLINEを送ってました」彼は気まずそうに笑いました。「でも実際は、接待でも何でもなくて、家でオンラインゲームしてただけなんです」

なぜそんな嘘を。

「正直に、今日はゲームしたいから一人にして、って言えばよかったんですよ。でも、それを言うと、彼女より趣味を優先してるって思われそうで。彼女に夢中じゃないと思われたくなかった。だから、残業っていう、誰も責められない嘘に逃げたんです」

彼女にばれたあと、どうなったのか。

「全部白状したら、彼女、別に怒らなかったんです。趣味の時間くらい正直に言ってよ、って。それで逆に、こんな簡単なことだったのかって。嘘をつき続けるほうが、よっぽど神経すり減るんですよ。次はどう取り繕おうって、ずっと考えてないといけない。嘘って、つく側もしんどいんです」

守るための嘘と、利用するための嘘は違う

タカシさんの話で見えてきたのは、男の嘘には二つの層があるということでした。

表の層は、隠した事実そのもの。残業と言って、本当はゲームをしていた。でも、その下にもう一つ層がある。その嘘で、彼が何を守ろうとしたか。タカシさんの場合、守ろうとしたのは、彼女によく思われたいという、いじらしいような、情けないような自分の体裁でした。心配させたくない、弱さを見せたくない、軽く見られたくない。多くの男の嘘は、攻撃ではなく、こうした防御から生まれます。

だから、嘘を見るときは、何を隠したかより、何を守ろうとしたかを読むといい。一人になりたい時間を守るための嘘と、浮気や借金を隠して相手を欺き利用するための嘘とでは、まったく性質が違う。前者は、本音を話せる関係になれば消えていく嘘です。後者は、相手の信頼そのものを食い物にする嘘で、こちらは話し合いでは戻りにくい。

ただし、ひとつ釘を刺しておきたいことがあります。守るための嘘だから許せる、と単純には言えません。どんなに動機が防御でも、嘘が積み重なれば、守られているのは彼の安心ばかりで、こちらは欺かれ続けている、という事実は変わらない。動機がいじらしくても、信頼は同じように削れていく。差出人の心理を理解することと、嘘を見逃すことは、別の話です。

それでも、もう一度信じられるか

完全には戻れない。でも

ユカさんの彼は、問い詰めたあと、心配かけたくなかった、元カノの会に行くと言ったら嫌な思いをさせると思った、と本音を漏らしたそうです。彼の嘘も、たぶん防御の側の嘘でした。

「だから、別れるほどじゃないのかな、とは思ったんです。浮気されたわけじゃないし。でも、一度監視装置になったLINEを、また温かい道具に戻せるかっていうと、それがすごく難しくて」

今、二人はどうしているのか。

「彼とは、まだ続いてます。彼も予定を細かく共有してくれるようになったし、誠実にしてくれてる。でも私のほうが、まだ完全には既読の時刻を見るのをやめられない。見ないって決めればいいのに、決めきれないんです」

最後に、もう一度彼を信じられそうですか、と聞きました。彼女はしばらく黙ってから、こう言いました。

「信じるって、結局、もう調べないって賭けに出ることなんですよね。証拠が揃ったから信じる、じゃなくて、証拠を探すのをやめるって決めること。彼が潔白だと証明されたら信じる、なんて日は来ない。どこかで私が、目をつぶって飛ぶしかない。でも、その飛び方を、私はまだ思い出せずにいます」

伏せて置かれた彼女のスマホが、一度だけ短く震えました。彼女はそれをちらっと見て、すぐ目を逸らしました。見たい、でも見たくない。その引き裂かれた一瞬の表情が、嘘をつかれた人が立たされる場所を、何より雄弁に語っていました。

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