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好きな人を忘れる方法は、記憶を消すことじゃなかった。忘れられた人たちが実際にやっていたこと

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好きな人を、忘れたい。でも、皮肉なことに、そのあいだも、あなたはその人のことを、しっかり考えています。忘れたいのに、頭から離れない。この矛盾の中で、多くの人が、間違った努力に、力を注いでしまいます。今回、実際に好きな人を忘れられた人たちに、何をしたのかを聞きました。すると、彼らがやっていたのは、記憶を消すことではなく、まったく別のことでした。

最初に会ったミサキさんは、二十八歳の会社員です。職場で気になっていた先輩のことを、一年近く思い続けていた、という人でした。

「毎日、その人のSNSを開いてました。何か更新されてないか、確かめずにいられなくて。何気ない投稿に、勝手に一喜一憂して。忘れたいのに、自分から、その人の情報を取りに行ってたんです」

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忘れようとするほど、思い出してしまう

消そうとすると、脳はそこに張りつく

忘れられずに苦しんだ人の多くが、まず「忘れよう」と努力します。記憶から、その人を消そうとする。でも、それが逆効果になるんです。それを痛感したのが、ハルカさんでした。三十二歳、離婚を経験した人です。

「離婚したあと、元夫のことが、どうしても忘れられなくて。忘れよう、忘れようって、必死になったんです。でも、忘れようとすればするほど、逆に、思い出が鮮明になっていって」

これは、気のせいではありません。人の脳は、これを考えるな、と命じられると、かえってそのことに、注意が張りついてしまう。忘れようとするたびに、忘れたい相手のことを、わざわざ意識して、思い出している。だから、消そうとする努力は、たいてい、裏目に出るんです。

「必死になるのを、やめられなかったんですよ」ハルカさんは言いました。「忘れなきゃ前に進めない、って思い込んでたから。でも、その、忘れなきゃっていう焦りが、いちばん自分を苦しめてました」

目指すのは、記憶の消去じゃなく、痛みの分離

ハルカさんが楽になり始めたのは、ゴールそのものを、変えたときでした。

「カウンセリングで、忘れようとするのを、やめましょうって言われたんです。え、って思いました。でも、続きがあって。記憶は消えなくていい、思い出してもいい、ただ、その思い出に張りついてる重さだけ、手放していきましょう、って」

ここに、大事な発想の転換があります。忘れることに成功した人たちが、口をそろえて言うのは、記憶が消えたのではなく、記憶から重さが抜けた、ということでした。相手のことは、覚えている。でも、思い出しても、もう胸が締めつけられない。

目指すべきなのは、記憶の消去ではなく、痛みの分離だったんです。忘れようとするのをやめて、覚えていていい、ただ重さだけ手放そう、と思えたとき、逆説的に、その記憶は、軽くなり始める。消そうとする戦いを降りたときに、初めて、前に進めるんです。

忘れた人たちが、実際にやっていたこと

注意が相手に向かう入り口を、塞ぐ

では、消そうとする以外に、何ができるのか。ミサキさんがやったのは、シンプルなことでした。

「友達に相談したら、全部ブロックして、思い出の写真も消してみなって言われて。最初は、そんなの無理って思いました。でも、勇気を出して、連絡先を消して、写真フォルダも整理して」

最初の一週間は、寂しさが募ったといいます。でも、変化は、思ったより早く訪れました。

「三週間くらいで、あれ、今日はあの人のこと考えなかったな、って日が、増えてきたんです。SNSを見られなくなったら、そもそも、その人の情報が、入ってこなくなる。情報が入らないと、脳が、勝手に別のことに向き始めるんですよ」

これは、注意の入り口を、塞ぐという行為です。相手の情報が入ってくる経路を断つと、注意はその人に向かいようがなくなる。連絡を断つのも、SNSを見ないのも、思い出の品を片付けるのも、全部、この、注意の入り口を塞ぐことなんです。

美化に偏った注意を、客観に戻す

別の角度から忘れた人もいます。タクヤさん、三十歳の営業職。付き合っていた彼女を、引きずっていた人です。

「良い思い出ばっかり、頭をよぎるんですよ。楽しかったこと、優しかったこと。だから、忘れられない」

彼が試したのは、意外な方法でした。

「紙に、彼女の嫌だった点を、手書きで書き殴れって言われて。最初は、そんなに悪いところなかったはず、って抵抗したんです。でも、書き始めたら、出るわ出るわで。四ページも埋まって、自分でびっくりしました。光の速さで書けて」

それで、何が変わったのか。

「気づいたんです。自分は、彼女の良いところだけを、勝手に拡大して覚えてたんだって。記憶が、都合よく美化されてた。嫌な点を書き出したら、そのバランスが、現実に戻ったんです。あの人は完璧だった、っていう思い込みが、ただの記憶の偏りだったってわかって、すっと気持ちが軽くなりました」

これも、注意のあり方を変える作業です。美化された部分だけに向いていた注意を、客観的な全体像に、引き戻す。相手を美化しているうちは、忘れられません。

結局、忘れるとは、注意の流れを付け替えること

体験談に出てくる方法は、一見、バラバラです。連絡を断つ、思い出の品を捨てる、嫌だった点を書き出す、時間を決めて一日十分だけ思い出す、新しい趣味を始める。でも、これらは全部、たった一つの、同じことをやっているんです。

相手に向いていた注意の量を、少しずつ、別のものに、付け替えている。

忘れるとは、意志の力で記憶を消すことではなく、注意の流れを、じわじわ別の方向に、流し替えていく作業なんです。連絡を断つのは、注意が相手に向かう入り口を、塞ぐこと。新しい趣味を始めるのは、行き場を失った注意の、受け皿を作ること。嫌な点を書き出すのは、美化に偏った注意の質を、客観に戻すこと。時間を決めて思い出すのは、コントロール不能だった注意を、管理下に置くこと。

意志では、記憶は消せません。消そうとしても、無駄です。でも、注意をどこに向けるかは、行動で変えられる。だから、忘れる方法とは、心の中で忘れようと念じることではなく、注意の流れを変える、具体的な行動を、積み重ねることなんです。ミサキさんが、こう言っていました。

「忘れようと念じてた時期は、一ミリも進まなかったんです。でも、SNSをブロックして、新しい習い事を始めて、っていう、行動を変えたら、勝手に薄れていった。頭で考えるより、手を動かすほうが、ずっと効きました」

それでも、消えない記憶とどう生きるか

大好きだった理由すら、ぼんやりしていく

注意を付け替えていくと、時間とともに、記憶そのものも、輪郭がやわらいでいきます。ある人は、こんなふうに、その瞬間を表現していました。学生時代の初恋を、長く引きずっていた人です。

「相手の誕生日に、おめでとうって送りたい衝動が、消えたとき、ああ、忘れられたんだなって思いました。昔は、日付が変わる瞬間に送るために、夜更かししてたのに。いつの間にか、その日付すら、意識しなくなってて」

そして、こう続けたそうです。大好きだった理由すら、だんだんぼんやりして、ただ、好きだったこと、それだけが、静かな思い出として残る、と。

忘れることは、通り抜けていく過程

好きな人を忘れる方法を、いくつ試しても、記憶は、完全には消えません。そして、消える必要も、ないんです。ゴールは、相手を記憶から抹消することではなく、思い出しても痛くない場所に、その記憶を、そっと移すこと。

忘れようとする努力は、記憶を消す戦いです。でも、それは、勝てない戦いなんです。本当にできるのは、注意を少しずつ、別の方向に流して、痛みのエネルギーを、抜いていくこと。そうすると、ある日、記憶は残ったまま、重さだけが、消えている。

ただ、正直に言えば、それがいつ来るかは、選べません。どれだけ行動を積み重ねても、痛みが抜けるタイミングは、自分ではコントロールできない。ふとした瞬間に、また鮮明に、痛むこともある。だから、忘れることは、いつまでに達成する目標ではなく、通り過ぎていく過程なんだと思います。

焦らなくて、いいんです。連絡を断って、注意を別に向けて、自分の時間を、少しずつ埋めていく。そうやって、ただ、その過程を通り抜けていく。忘れようと力むのをやめて、通り抜けるのを待つ。今、苦しくてこれを読んでいるあなたにも、記憶が痛まなくなる日は、必ず来ます。ただ、その日を、無理にたぐり寄せようとしなくて、いいんです。あなたが大切に思ったその気持ちは、いつか、あなたを傷つけない、優しい記憶に変わっていくのだと思います。

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