甘えてくるのに、扱われ方には敏感。頼ってほしいと言うくせに、先回りされると黙る。十歳下の相手を見ていると、この人が求めているのが恋人としての自分なのか、それとも別の何かなのかがわからなくなる瞬間がある。この検索をしている人が確かめたいのは、心理の一覧ではなくて、たぶんそこだと思う。七人に会った。同じ十歳という数字なのに、中身は二種類にきれいに割れていた。
日曜の夕方、繁華街から少し外れた場所にある喫茶店。店内はコーヒーより煙草の残り香のほうが強い。窓際の席で、真里さんは最初、夫のことを後輩と呼んだ。途中から、彼、に変わった。その切り替わりが自然すぎて、私は指摘しなかった。
断り続けたのに、来た人
三十七歳のときに、十二歳下から
真里さん、仮名。当時三十七歳、職場の後輩から告白された。
丁寧に断りました。年齢のことも言ったし、あなたの将来のためにもよくないって、ちゃんと説明したつもりです。
それでも来たという。
何度も来ました。半年に一回くらいのペースで、二年くらい。しつこいというより、諦めが悪いという感じで。
結局、三十九歳で結婚している。
年上が好きだったわけではなかった
後から本人に理由を聞いた話が、彼女には意外だったという。
年上の女性が好きなタイプじゃなかったんです、あの人。むしろ今まで年下としか付き合ったことがなかった。
では何が理由だったのか。
私の仕事の進め方と、断り方の礼儀が好きだった、って言われました。断られたときの言い方が丁寧だったのが逆によかったらしくて。
年齢は後からついてきただけだった、と彼女は言う。
だから私、年上だから選ばれたって感覚がないんです。それはたぶん、うちが続いてる理由のひとつです。
母性を求めている、と自分で分析した人
四十五歳の経営者の女性にも会った。相手は十五歳下で、同じく経営をしている。
同世代の女性には手に負えない弱さと、難ありな部分があるんです、彼。年上のほうが受け止められる。
彼女は相手の恋愛歴も知っている。
前に好きだった人も、同じくらい年上でした。だからたぶん、母性を求めてるんだと思います。本人にもそう言いました。
否定されましたか、と聞いた。
されなかったです。かもしれない、って言われました。
結婚は考えていないという。
今を大切にする、って彼が言うんです。それは、将来の時計がまだ遅いってことなんですよ。二十代なので当然です。私は四十五なので、同じ言葉が全然違う意味になる。
恋人なのか、母なのか
同年代と並んだ姿を見た瞬間
十歳下の恋人がいる女性から聞いた話が、この取材で一番生々しかった。
彼が、同い年くらいの女の子と話してるのを見たんです。仕事の場で。
その光景が崩したものがあった。
理想のカップルに見えたんですよ、一瞬。二人が並んでるほうが自然だった。あれを見た瞬間に、私は何をしてるんだろうって思いました。
母娘化を止めるために、口に出した
彼女はその後、本人と話をしている。
彼は母が欲しくて、私は母になりたかった。そこは認めました。それでも男女の愛もある、って自分の中で整理してから、体のことも本音も全部言いました。
相手の反応はどうでしたか。
彼のほうも、頼りない自分にコンプレックスがあるって言いました。年下である負い目って、黙ってると母娘みたいになっていくんですよ。口に出したら、少し対等に戻りました。
何をされると嬉しいのか
立てる、頼る、甘える
年下男性側の声で、一番多かったのがここだった。
年下でもプライドはあります、と二十代の男性が言った。
何でも先にやられると、男として見られてないなって思います。荷物も、店の予約も、支払いも、全部相手がやると、あ、俺いらないなって。
具体的に何をされると違うのか。
困ったときに相談してくれることですね。あと、教えてもらう側に回ってくれること。俺のほうが詳しい分野で、素直に聞いてくれると、それだけで全然違います。
真里さんもこの点は自覚していた。
十歳上の私が、十歳下に甘えるのって、正直恥ずかしいんですよ。でも、あれが一番、男性として見てますっていう合図になるんです。恥を捨ててやってます。
逆に、うまくいかないやり方
年下男性側から見て、どんな態度がつらいのか。
甘えといじけを全開にされて、お母さんみたい、を連発される場合です、と三十代の男性が答えた。
それのどこが問題なんですか。
自分の未処理の問題を、こっちに預けてくる形になるので。恋人の形にならないんですよ。処理係になる。
その人が挙げた反対の例が、わかりやすかった。
好きになった人がたまたま年上で、同世代に対するのと同じように誘って、かっこつけて、遊びに誘う。そっちのほうが、年齢差を超えた恋愛になりやすいと思います。
年下側にも、限界の線がある
六割と四割
見た目が若ければ十歳上の女性とも付き合える、と答える男性が約六割という調査がある。残りの四割は、思考回路と行動に差が出るから無理だ、という立場だ。
取材した男性のうち二人が、後者に近い意見を持っていた。
年齢より、その人がいいかどうかです、って言えるうちはいいんですけど、と一人が言った。
自分の年齢が上がると、十歳上の実年齢が重くなるんですよ。二十二のときの三十二と、三十五のときの四十五は、同じ十歳差でも全然違います。
三十八歳が二十八歳から言われて
逆の立場の話も聞いた。三十八歳の女性が、二十八歳からアピールされたときの反応だ。
嬉しくないわけじゃないんです。ただ、結婚も考えてくれるならまだしも、さすがに十歳下はしんどいなって思いました。
理由を聞いた。
社会人一年目の人と、三十代後半の人だと、人生の宿題の量が違うんですよ。向こうはこれから増える。私はもう抱えてる。同じ十歳でも、意味が違う。
時計が合わないと、どこで出るか
子どもの確認は、早く必要になる
十歳差以上の組み合わせは、女性側の経験と経済的な自立で安定しやすい。ただ、将来の予定の差は一番大きくなる。
複数の人が指摘したのは、その確認の時期だった。
子どものことを早めに確認しないと、彼の今を大切にしたいっていう言葉が、こっちの限界の時期と重なるんですよ、と四十代の女性が言った。
家族の反応も、家によって割れる
若い息子と、包容力のある年上の組み合わせを喜ぶ家もある。一方で、周囲への公表に準備がいる家もあった。真里さんは後者だったという。
夫の親に会うまで、一年かかりました。会ったら普通に受け入れてくれたんですけど、そこまでが長かったです。
恋人のときは愛おしく、親になると違って見える
結婚後の話も聞いた。十歳年下の夫を持つ女性の話だ。
一歳の子どもがいるのに、晩酌を邪魔させるなって言うんです。子どもの気配を消せ、と。
甘えん坊だけど結婚の意識はしっかりしている、と見えていた人だったという。
親になったあとに、子どもに戻ることってあるんですよ。あれは想定してなかった。
守られたい、という気持ちは、恋人のあいだは愛おしく映る。育児が始まると、役割を放棄しているように見える。同じ性質の見え方が、局面で反転する。
体力と、更新される中身
エネルギー量の差についても話が出た。
怒ったときに黙り込む年上の人と付き合ったこともあります、と三十代の女性が言った。
年下の彼は、話し合いに何時間でも付き合ってくれるんです。そこはすごく楽です。ただ、将来の話は先延ばしにする。体力はあるのに、決めない。
もうひとつ、警告として複数回出てきた話がある。
女性側の中身って、日々更新されるんですよ。仕事でも人間関係でも。経験値で抜かれると、置いていかれた側が飽きられる、って言われました。
それに対して、年下側は二通りに分かれる。追いつこうとして趣味も言葉も寄せてくる人と、自分の若さを武器にして将来をぼかす人だ。
検索してここまで来た人が、確かめたいこと
十歳下は、何を求めているのか
七人の話を並べると、二種類に割れる。母として認められたい人と、男として認められたい人だ。同じ年下というラベルで並んでいるが、中身は別物になる。お母さんみたい、が増える相手は前者に寄っている。
見分ける方法はあるか
先回りしたときの反応を見る、というのが具体的だった。荷物や支払いを全部こちらでやったときに、助かると言う人と、黙る人に分かれる。黙る人は、男として見られたい側だ。
甘えていいのか
甘えたほうがいい、というのが年下男性側の答えだった。十歳上が甘えるのは恥ずかしい、と真里さんも言ったが、それが一番はっきりした合図になっている。
結婚と子どもは、いつ話すのか
早く話すべきだ、と複数の人が言った。今を大切にしたい、という言葉は、将来の時計が遅い側の言い分になる。そのまま置いておくと、こちらの限界の時期と重なる。
十歳という数字は、何を決めるのか
決めていない、というのが取材の結論だった。恋愛の種類を決めるのは年齢差ではなく、相手が何を求めているかだ。それを本人の口から聞くまでに、どれだけ時間がかかるか。数字が影響しているのは、そこだけだった。
後輩と呼ばなくなるまで
真里さんは結婚して四年目になる。
いまだに、職場の人には後輩って言い方をしてしまうんです。夫って言葉が出てこない。
なぜですか、と聞いた。彼女は少し考えてから答えた。
たぶん、まだ言い訳してるんだと思います。十二歳下と結婚した女に見られたくないっていう気持ちが、どこかにあるので。
夫はそれを知っていますか。
知ってます。一回、言われました。まだ後輩って呼ぶんだね、って。
そのときは何と答えたのか。
ごめん、って言いました。それだけです。彼も、それ以上は言わなかった。
外はもう暗くなっていた。彼女は伝票に手を伸ばして、途中で止めて、こちらに滑らせた。今日は取材なので、と言って笑った。断り方の礼儀が好きだった、と言われた人の断り方は、たしかに柔らかかった。