明るい人はモテる。会うと元気になれるから、と男性は言う。それなのに、明るくしているのに大事にされない人がいて、逆に何もしていないのに隣にいられる人がいる。同じ明るさが、届く日と騒音になる日にきれいに分かれていた。
平日の夜八時、オフィス街から少し離れた居酒屋。仕事帰りの客で半分ほど埋まっていて、ジョッキを置く音が絶えず聞こえる。二十六歳の男性が、職場の派遣で入ってきた女性の話から始めてくれた。
会うとHPが戻る、と表現された人
いなくなったら寂しい
いつも笑顔で、ハキハキしてる人なんです、と彼は言った。
接すると、自分まで明るくなるんですよ。あの人がいる日といない日で、フロアの空気が違う。いなくなったら寂しいと思います。
何が効いているのか、と聞いた。
テンションが高いわけじゃないんです。声も大きくない。こっちが楽になるっていう感じで。
彼はほかにも二人の名前を挙げた。話を真剣に聞く先輩と、目標を持って夜も勉強している友人だ。
会うと元気になれる人の共通点って、盛り上げてくれることじゃないんですよ。俺の側が軽くなることです。
お疲れ、今日も頑張ったね
三十代の男性からは、もっと具体的な場面を聞いた。
仕事でヘトヘトの日に、お疲れ、今日も頑張ったね、って笑顔で言われたんです。それだけで、会いたい人から、会わないとダメな人に上がりました。
自分でも単純だと思う、と彼は笑った。
ただ、と付け足した。
同じことを、別の日に言われたときは、話しかけないでほしいと思いました。同じ言葉なのに。
元気の隙間に落ちる
健気な人が好きだと答える男性が八割を超える調査もある。取材でも似た話が出た。
いつも明るくいようとする、まっすぐさですね、と二十代の男性が言った。
人の悪いところを探さない人。それを見てると、自分も頑張ろうと思えます。
一方で、気の強い元気さに惹かれる人もいる。
引っ張ってくれるほうが向上心につながるので、と別の男性は言った。
彼が強調したのは、そこではなかった。
強い人が、ふとした瞬間に見せる弱い顔が好きなんです。いつも強がってる人の、たまにの甘え。あれが一番きます。
元気一色より、その隙間が入口になる。取材した男性の何人かが、同じことを別の言い方で話した。
演じている元気は、端でばれる
内側が満たされている人の話も出た。
無理に明るくしてないのに、場がほどける人がいるんですよ。多幸感がにじんでるっていうか。
その人の何が違うのか。
相手に不足を埋めさせないんです。こっちが何かしなくても、その人はもう満ちてる。
逆に、外側だけ元気を作っている場合は。
言葉の端でばれます。一回や二回はわからないですけど、長くいると違和感が残るので。
同じ明るさが、疲れる原因になる
ポジティブなのに、居心地が悪い
疲れる側の話も、同じ性質から出てくる。
彼女、すごく前向きな人だったんです、と三十代の男性は言った。
俺のだらしないところを、明るく直そうとしてくるんですよ。成長してほしいって気持ちなのはわかります。
それがなぜきついのか。
受け取る側には、ダメ出しなんですよ。しかも明るくやられるので、こっちは怒れない。
いつも上向きを求められると、本音が出せなくなったという。
疲れたって言えなくなりました。言うと、大丈夫だよ頑張ろう、が返ってくるので。
回復の順番を奪われる
疲れている日にしてほしくないことの上位は、一方的に話しかけられること、話が長いこと、しつこいことだ。放っておいてほしいと答えるのが二割半ほど、ある程度放っておいて少し気にかけてほしいが五割強という数字もある。
元気な彼女が、疲れた彼に元気を分けようとするほど、彼の回復の順番が狂う。
自分で戻るペースがあるんですよ、と彼は言った。
そこに元気を足されると、戻る前に対応しなきゃいけなくなる。感謝しなきゃいけない、笑わなきゃいけない。全部、仕事なんですよ。
吸う側と、振れる側
エネルギーを吸う関係と、振りまける関係の違いを整理した人がいた。
愛されたい気持ちが強すぎる人といると、会ったあとに俺だけどっと疲れるんです。
一方で、余裕がある人は違うという。
日頃から自分の分が余ってる人は、こっちにも振れるんですよ。そういう人には、疲れたときこそ会いたくなる。
仕事が忙しいから会えない、と予定が決まらなくなる時期があるという。
あれ、相手のスペックが足りないんじゃなくて、補給を断ってるだけです。会うと減る相手だと、体が先に避ける。
出番を全部先に片づける元気
もうひとつ、意外な形の逆効果も聞いた。
忙しいだろうから私がやっておくね、って全部先にやってくれる人がいたんです、と二十代の男性が言った。
一人で帰るし、荷物も持たせないし、座ってて、って言う。
助かるのでは、と私は聞いた。
助かります。ただ、俺の存在意義が見えなくなるんですよ。性欲は残るのに、愛情が湧かない。ひどい言い方ですけど、そうでした。
既読が遅れるようになった、と彼は言った。
元気な人が、俺を元気にしすぎて、俺の役割まで先に終わらせてたんだと思います。
元気でいることが、期待値になる
本人の側の話も聞いた。三十代の女性だ。
職場でも、恋人の前でも、明るくしてないと自分じゃない気がするんです。
いつからそうなったのか。
覚えてないです。気づいたらそうでした。
つらい日はどうしているのか。
同じようにします。落ちてる日に落ちてるところを見せると、あれ今日どうしたの、って聞かれるので。そのやりとりのほうが面倒で。
彼女が一番きついと言ったのは、読まれる瞬間だった。
本当は無理してるでしょ、って言われることがあるんです。そう言われた瞬間から、笑顔が仕事になります。
テンションで態度を変えないまっすぐさは評価される。一方で、気分で上下する元気は機嫌の管理に見える。
女の子って、元気だと顔がそこまでじゃなくても可愛く見える、って言われたことがあります、と彼女は言った。
褒め言葉ですよね。でも、あれって、元気を止めた日の評価が下がる予告でもあるんですよ。
最初の三十秒と、そのあと
好きになるきっかけで一番多いのは、話したら意外と気が合った、というものだ。ノリと波長は会ってみないとわからない。
元気な人は、その初速が速いんです、と三十代の男性は説明した。
共通の話題にすぐ飛べるし、場を温めるのも早い。最初の三十秒を稼げる。
時間をかけて好きになる男性が六割近くいるという数字もある。初速の速さは、そのあと別の条件に引き継がれる。
本命になるかどうかは、一人で楽しめる時間があるかどうかです。あと、依存しすぎないか。
もうひとつ挙がったのが、未来の話し方だった。
いつかここ行きたい、って楽しそうに言う人の横だと、二人の未来が想像しやすいんですよ。
逆の場合は。
高いし無理、で全部消す人だと、楽しみの種が残らないです。それを何回か聞くと、こっちも言わなくなる。
検索してここまで来た人が、確かめたいこと
何が好かれているのか
九人の話を並べると、明るさそのものではなかった。こちらの体力が回復すること、緊張がほどけること、自分も動きたくなること。この三つに集まっている。
なぜ疲れられるのか
回復を強制されること、沈黙を埋められること、元気が採点に見えること。この三つだ。どれも、やっている側からは善意にしか見えない。
疲れている相手には、何をすればいいのか
数字としては、完全に放っておいてほしい人より、少し気にかけてほしい人のほうが多い。ただ、順番はこちらが決めない、というのが取材した男性の共通した言い分だった。
先回りしすぎるとどうなるのか
役割が消える、というのが答えだった。荷物も送り迎えも全部やってしまうと、感謝は残るが愛情が育たない、と話した人がいる。
元気を止めたら、どうなるのか
これは全員が答えを持っていなかった。止めた経験がある人が、九人のうち一人しかいなかったからだ。
電源を切れる場所
その一人に、最後に話を聞いた。前出の三十代の女性だ。
一回だけ、止めたことがあります、と彼女は言った。
何があったんですか。
親が入院した週です。もう無理だったので、何もしないで彼の家に行きました。喋らないで、ソファに座ってました。
相手の反応は。
何も言わなかったです。テレビをつけて、隣に座って、それだけでした。
そのとき何を思いましたか。
助かった、と思いました。それと、今まで何をやってたんだろう、とも思いました。
彼女は少し黙ってから続けた。
でも次の週には、また元に戻ってるんですよ。明るくしてる。あの日みたいにできるのは、たぶん親が入院するくらいのことがないと無理なんだと思います。
なぜですか、と聞いた。
止めていい許可を、自分に出せないので。彼はくれてるのに。
隣の席で乾杯の声が上がって、店員が大きな声で返事をした。彼女はそちらを見て、いつもの顔に戻った。私が見ていたのに気づいて、あ、と小さく言って、少し笑った。