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職場で愛嬌があると言われる女性の、内側の話。好意と愛想の境目で何が起きているか

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よく笑う。誰にでも同じ態度。ミスをしても場が重くならない。そういう人は職場で得をしていると思われがちで、実際に恋愛の話も集まってくる。ただ、その視線を向けられる側と、向ける側と、それを横で見ている同性とでは、同じ光景の意味が全部ちがう。七人に話を聞いた。愛嬌そのものが何かを起こしていた例は、思ったより少なかった。動いていたのは、それを好意だと読んだ人の距離感のほうだった。

金曜の夜、会社帰りの人が入り始めた居酒屋の座敷。おしぼりの袋を破る音と、遠くの席の乾杯の声。翔太さん、仮名は上着をハンガーにかけながら、あの話ですよね、と先に言った。三年つき合った相手のことを、彼はずっと苗字で呼んだ。

目次

一番仕事ができる人ではなかった

会議で拾ってくれる人

翔太さん、当時二十九歳。営業部にいた。

同期で一番優秀な人は別にいたんです。数字も出すし、判断も早い。でも、俺が気になったのはその人じゃなかった。

気になったのは事務の女性だった。当時二十六歳。

ミスをしても笑って謝る人でした。会議で誰かが的外れなことを言っても、なんかいい感じに拾って話を繋ぐんです。あれができる人は、そんなにいない。

ピリピリした有能さより、少し抜けていて笑顔が残る人のほうが目に入る、と彼は言った。

弁当のフタが開かなかった日

会話が増えたきっかけは、昼休みだった。

彼女がタッパーのフタと格闘してたんです。開かないって。それを手伝ったのが最初でした。しょうもない話ですけど。

その後、彼女はよく意見を求めてきたという。

翔太さんならどう進めますか、って聞かれるんですよ。あれで完全にやられました。頼られると、守りたくなる。単純です。

半年後に交際が始まった。

あの子は誰にでもそうだから

社内の反応は、冷ややかなものも混じっていた。

言われましたよ。あの子は誰にでもそうだから、って。最初はそれが怖かったです。俺だけが特別じゃないのかもしれない、って。

実際はどうでしたか。

本当に誰にでも同じでした。後輩にも、取引先にも、清掃の方にも。温度が変わらない人だったんです。

彼はそこで少し笑った。

怖がってたのは俺の問題だったんですよね。特別扱いされたい欲と、仕事の愛想を分けられてなかった。分けられないまま疑ってた。

交際は三年続いた。別れた理由は愛嬌とは関係がなかったという。転勤の話と、将来の話が噛み合わなかった。

部署に広がった、俺に気があるのでは、という空気

人事から見えていたもの

香織さん、仮名、当時三十四歳。人事にいた彼女は、別の光景を見ていた。

新人の女性社員に、同僚の男性が明らかに浮かれてたんです。目に見えて。

部署には、あの子は彼に気があるのでは、という空気が広がった。

私にはすぐわかりました。彼女はただ丁寧に接してただけです。誰に対してもそうだった。

上司が言った一言

決定的だったのは、上司がその男性に静かに言った言葉だという。

部活のころ、嫌いな先輩にも愛想よくしてただろう、って。社会人の笑顔は好意じゃない、と。

空気が一瞬で変わったという。

その場にいた全員が黙りました。私も、胸が少し痛かったです。

なぜですか。

昔、同じ勘違いをしたことがあるので。私も相手の親切を好意だと思って、勝手に期待して、勝手に落ち込んだことがある。

始まらなかったこと自体が、いちばん多い結末

その後、男性は彼女への話しかけを業務の範囲に戻した。恋愛は始まらなかった。

にこやかさって、相手を不快にさせないための技術なんですよ。恋愛とは別物です。それを読み違える人は、仕事の距離感もだいたいズレてます。

彼女は最後にこう言った。

職場で一番多い結末って、何も始まらないことなんです。記事にはなりませんけど。

愛嬌が、刃になった日

色気を使っている暇があるなら

まいさん、仮名、当時二十四歳。総合職の二年目だった。

男性が多い部署だったので、意識して笑顔を増やしてました。コミュニケーションを取らないと仕事が回らないので。

ある日、四十代の女性社員に言われた言葉を、彼女は正確に覚えている。

男性社員とは楽しそうに話しているわね、って。色気を使っている暇があるなら仕事に集中したらどうですか、って続きました。

そのときの体の反応まで話してくれた。

胸が締めつけられて、その日の昼は喉を通らなかったです。おにぎり一個を三十分かけて、半分残しました。

会話を減らしたら、孤立だけが増えた

以降、男性との会話を必要最小限にした。

用件だけにしました。おはようございますと、お疲れさまですと、業務連絡だけ。

評価は上がりましたか。

上がった感じは全然ないです。増えたのは孤立だけでした。

愛嬌は武器だと言われる、と彼女は言う。

でも、使う相手と、それを見てる人が違うと、刃になるんですよ。私に刺さったのは、話しかけた男性側からじゃなくて、横で見てた人からでした。

半年後、彼女は別部署の同年代の女性とだけ昼食を取るようになった。その時期、恋愛は完全に止まったという。

外から見える愛嬌と、その人の芯は別だった

蓮さん、仮名。当時十九歳、浪人中だった。銭湯の売店でアルバイトをしていたときの話をしてくれた。

年上の女性が働いてて、すごく愛嬌のある人でした。暇な時間に話すのが、当時の唯一の楽しみだったんです。

受験が優先で、何も始まらないまま店を辞めた。

あとから聞いた話があって。その人、職場の既婚者と関係を持って、子どもまでできたらしいんです。相手の奥さんとは友達だった、とも聞きました。真偽は確かめてないです。人づてなので。

彼はその話を、断定を避ける言い方で語った。

俺が言えるのは、外から見える愛嬌と、その人の芯は別だってことだけです。押しに弱くて、嫌われたくない人って、職場の親密さをそのまま恋愛や不倫の入口にしてしまうことがある。

当時の自分については、こう言った。

俺はあの笑顔しか見てなかったです。人として何を抱えてるのかは、一ミリも見てなかった。

順番に、いなくなった

奈々さん、仮名、当時三十一歳。女性が多い職場にいた。

順番に辞めていくんですよ。まず、きれいでよく笑う人が妊娠して辞めました。次に、容姿は目立たないけど愛嬌のある人が結婚して辞めた。

残ったのは、と彼女は続けた。

仕事はできるけど、当たりの強い人たちです。私を含めて。

私生活の話が、自然に出るかどうか

彼女が観察していたのは、出会いの入口だった。

愛嬌がある人って、仕事の場でも私生活の話が自然に出るんです。週末どこ行った、とか、実家がどこ、とか。それが出会いになる。

自分にはできなかったという。

愛嬌がない自覚があります。無理にやると気持ち悪いと思われそうで、できなかった。育ちもあると思います。笑顔を武器にできる人が羨ましくて、でも真似はできなかった。

彼女は恋愛を社外で始めた。

職場の人懐っこさは、自分にはないものだって決めてしまったので。決めたのは私です。誰かに言われたわけじゃない。

採る側が見ているもの

中途採用の現場に長くいた管理職の男性にも話を聞いた。

学歴や経歴より、人当たりが柔らかい人を採ることがあります。受付や内勤だと、書類が厚い人より愛嬌のほうが現場を回すので。

その方針で入った女性が、部署のムードメーカーになり、後に社内の男性と結婚した例を知っているという。

仕事ができないわけじゃないんです。ただ、できない部分を愛嬌が覆い隠す、という程度のことはあります。

彼はそこで、条件を付け足した。

笑顔だけで評価が終わる人は、いずれ中身を見られます。三年もすれば必ず。

検索してここまで来た人が、確かめたいこと

なぜ職場恋愛と結びつきやすいのか

話しかけやすい。ミスを笑いに変えられる。疲れている人の隣にいても場が重くならない。挙がった理由はこの三つに集約された。守りたくなる気持ちや、一緒にいて楽だという感覚が先に来る、と翔太さんは説明した。

好意なのか愛想なのか、どう見分けるのか

同じ態度を他の人にも取っているかどうか。それだけだ、と複数の人が言った。翔太さんは疑いながら三年つき合い、結局その答えを確かめている。香織さんの部署の男性は、確かめる前に周囲が答えを出した。

同性から反発されるのはなぜか

まいさんの経験がそのまま答えになっている。反発が来たのは、会話した男性側からではなく、横で見ていた同性からだった。愛嬌が向けられている先が偏って見えると、そこが標的になる。

愛嬌がない人はどうすればいいのか

奈々さんは真似をしなかった。無理にやると気持ち悪がられると思ったからだ。彼女が選んだのは、職場の外に出会いを移すことだった。この判断が正しかったのかは、本人も判定していない。

結局、恋愛はどこで決まるのか

七人の話を並べると、笑顔そのものではなかった。翔太さんの場合はタッパーのフタと、意見を求められた回数。始まらなかったケースには、その個別の時間がなかった。職場の笑顔はまず仕事の道具で、恋愛になるかどうかはその後に残る時間の量で決まっている。

三年後に聞いた話

翔太さんは、別れた相手が今どうしているか知っているという。共通の知人がいるからだ。

転職して、別の会社で働いてるらしいです。相変わらず誰にでも同じ温度らしくて。

それを聞いてどう思いましたか。

安心しました、と彼は言った。

俺と付き合ってた三年間も、あれは演技じゃなかったんだなって。当時あんなに疑ってたのに。

彼はグラスを持ち上げて、飲まずに置いた。

ただ、と続けた。

三年つき合って、最後まで確信は持てなかったんですよ。今になって、知人からの伝聞で安心してる。順番がおかしいですよね。

座敷の奥で誰かの送別会が始まって、拍手が起きた。彼はそちらを一度見て、視線を戻した。それ以上その話はしなかった。

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