待ち伏せされた。知らない人から手紙が届いた。大学に行くのが怖くなった。
友達に相談したら、自慢してるみたいと陰口を叩かれた。
モテることは羨ましいことのはずだった。でも実際に起きていたのは、プライバシーの侵害と、孤立だった。
モテすぎて困った経験を持つ人たちに話を聞いた。彼らの悩みは、誰にも理解されないという二重の苦しさを抱えていた。
ロッカーに入っていた手紙と、髪を暗く染めた日
吉祥寺のカフェ。休日の午後、彩花は大学時代を振り返った。27歳、会社員。
「明るい性格と笑顔が評判で、サークルに入るたびに男性陣から注目されて。合コンでは毎回連絡先を聞かれて、LINEが毎日数十件届く状態で」
最初は嬉しかった。でも状況は変わっていった。
「授業後に待ち伏せされたり、知らない人から好きですって手紙がロッカーに入ってたり。大学に行くのが怖くなったんです」
さらに苦しかったのは、周囲の反応だった。
「友達からも、自慢してるみたいって陰口を叩かれて。孤立しがちになって。モテて困ってるって悩み、誰にも言えないんですよ。言ったら自慢になるから」
彩花は最終的に、自分を変えた。
「髪を暗く染めて、地味な服装に変えて。徐々に落ち着いたんですけど、なんで私が変わらなきゃいけないんだろうって、悔しさはありました」
彩花は続けた。
「モテるって、選べる側みたいに見えるじゃないですか。でも実際は、一方的に押し寄せてくるものを、ひたすら処理する日々で。選ぶ余裕なんてなくて、ただ怖かった」
相談できない悩みという二重の苦しみ
モテすぎる悩みは、誰にも相談できない。相談すれば自慢と受け取られ、共感より嫉妬が返ってくる。困っているのに、困っていると言えない。その二重の構造が、孤立を深めていく。
彩花の友人、健太は30歳。彼は社会人になってから同じ悩みを抱えた。
「会社に入ってすぐ、女性社員から人気になって。社内飲み会で隣に座られることが増えて、休憩時間に手作りのお菓子を渡される日々で」
噂が広がり、仕事に集中できなくなった。
「異動を希望して部署を変えたんですけど、今度は新しい職場で冷たいって言われて。距離を取れば取ったで批判される。どうすればいいのか分からなくなりました」
笑顔で接客しただけなのに―閉店後に待たれていた恐怖
渋谷のカフェ。平日の夜、美咲はアルバイト時代を語った。25歳、会社員。
「カフェでバイトしてた時、客から頻繁にナンパや連絡先交換を求められて。笑顔で接客するだけなのに、特定のお客さんが毎日来店するようになって」
ある日、閉店後に待たれていた。
「ゾッとしました。店長に相談しても、モテて羨ましいって取り合ってもらえなくて。結局シフトを減らして、逃げるように辞めたんです」
美咲はプライベートでも同じ問題を抱えた。
「SNSに写真を上げると、ストーカーまがいのメッセージが殺到して。今はアカウントを非公開にしてます」
美咲は続けた。
「仕事の笑顔を、好意だと勘違いされるんですよ。接客は仕事なのに。モテて羨ましいって言われるたびに、この恐怖を分かってもらえないんだなって、孤独になりました」
職業上の笑顔が好意と誤解される構造
接客業の笑顔は仕事だ。でもそれを個人的な好意と誤解する人がいる。誤解した相手の行動がエスカレートしても、周囲はモテて羨ましいと軽く扱う。本人が感じている恐怖は、誰にも届かない。
美咲の同僚、恵理は28歳。彼女は通勤で悩んだ。
「通勤電車で毎日視線を感じて、席を立つと声をかけられて。会社近くのコンビニでも、レジの男性が特別対応してきて、休憩中に待ってる姿を見てゾッとして」
恵理は友人にも理解されなかった。
「自慢話?って言われて。悩みを打ち明けられない孤独感がきつくて。最終的に職場近くのシェアオフィスを利用して、通勤ルートを変えました。多少ストレスは減ったけど、なんで私が逃げる側なんだろうって」
既婚なのに声をかけられる―妻の嫉妬と家庭のひび
新宿のバー。金曜の夜、大輔は既婚者としての悩みを語った。33歳、会社員。
「結婚後も外見のことで女性に声をかけられることが多くて。妻の嫉妬を買ってしまって」
出張先の飲み会で名刺交換した女性から、夜中に電話がかかってきた。
「共通の知り合い経由で、奥さんがいるのに浮気?って噂されたり。俺は何もしてないのに、家庭内がギクシャクして」
妻からは、もう少し目立たないようにしてと頼まれた。
「服装や髪型を控えめに変えたんですけど、根本解決には至ってなくて。自分の見た目のせいで妻を不安にさせてるって、申し訳なさがずっとあるんです」
大輔は続けた。
「モテるって、独身なら武器かもしれない。でも既婚者には、リスクでしかないんですよ。何もしてなくても疑われる。誘ってくる側は軽い気持ちでも、こっちの家庭には重い影響があって」
既婚者のモテが家庭に落とす影
既婚者がモテることは、家庭にとってリスクになる。本人に落ち度がなくても、声をかけられること自体が配偶者の不安を生む。噂が広がれば、疑いの目を向けられる。守りたい家庭が、自分の意思とは関係なく揺らいでいく。
大輔の知人、由美は32歳。主婦の彼女も同じ悩みを抱えた。
「子育て中でも、近所のママ友の夫や習い事の先生から好意を寄せられることがあって。夫婦仲にヒビが入りかけて」
幼稚園の送迎で声をかけられ続け、噂が広がった。
「ママ友付き合いがぎくしゃくして。家庭を優先して習い事を辞めたり、地味な格好を心がけたり。でもモテるのが悪いのかって、自分を責める日々でした」
告白が相次いで、サークルに居づらくなった話
吉祥寺の定食屋。夕方、翔太は大学時代の苦い経験を語った。26歳、会社員。
「サークルでリーダー役を務めてたら、女性メンバーから告白が相次いで。断るとグループ内の空気が悪くなって、活動自体がしにくくなったんです」
翔太は誰とも深く関われなくなった。
「合コンでは選べないって悩むより、誰とも深く関われない表面的な関係ばかりになって。モテ期がピークの頃は、睡眠不足で体調を崩して」
翔太の望みはシンプルだった。
「普通に友達になりたいだけなのにって、ずっと思ってました。恋愛対象として見られ続けると、友情が育たないんですよ。距離を縮めると誤解されるから、誰とも縮められなくて」
翔太は続けた。
「モテるって、人間関係の選択肢が増えることだと思われてるけど、実際は逆で。恋愛が絡むことで、普通の友達関係が作れなくなる。孤独でしたよ、あの頃」
モテが奪う普通の人間関係
モテることは、人間関係の選択肢を増やすように見えて、実は狭める。距離を縮めれば誤解され、告白され、断れば気まずくなる。普通の友達関係を築くことが難しくなり、表面的な関係だけが増えていく。
翔太の友人、隆は29歳。リモートワークでも悩みは続いた。
「オンライン会議のプロフィール写真のせいか、仕事関係の女性からDMが来て。勉強会では一緒に飲もうと誘われて、断りきれず付き合ったら愚痴を聞かされる羽目になって」
隆は自衛策を取った。
「SNSを最小限にして、趣味の時間を一人で楽しむスタイルにシフトしました。プライベートを守るために、付き合いを減らすしかなかった」
「高飛車」と言われた新社会人の選択
恵比寿のカフェ。休日の午後、奈々は入社直後の経験を語った。24歳、会社員。
「入社早々、先輩や同期からデートに誘われて。社内ルールや噂を気にして、すべて断ったんです」
すると評価が変わった。
「高飛車って言われて、職場環境が悪化して。誘いを受けても問題、断っても問題。どっちを選んでも責められるんだって、メンタルが疲弊しました」
奈々は自分を守る方法を見つけた。
「有給を多めに取って、趣味の読書や一人カフェで心のバランスを取るようになって。モテる喜びより、平穏が大事だって実感したんです」
奈々は続けた。
「境界線を明確にすることが、一番大事でした。今は恋愛に集中できないって周囲に伝えて。理解者が少ない分、自分自身を大切に守る強さが必要なんですよね」
断っても受けても責められる板挟み
モテる人は、誘いを受けても断っても批判される。受ければ噂になり、断れば高飛車と言われる。どちらを選んでも正解がない板挟みの中で、自分のペースを守ることだけが、唯一の自衛策になる。