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男を立てる女性が、口にせずやっていること

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男を立てる、と聞いて、どんな姿が浮かびますか。一歩引いて、自分の意見を飲み込んで、にこにこしている女性。私はこの言葉がずっと苦手でした。古くさいし、どうして女ばかりが、と。だから今回は、それが上手だと評判の人たちに、半分けんか腰で会いに行ったんです。そうしたら、まるで申し合わせたように、全員が同じことを言いました。あれは我慢じゃないですよ、と。

日曜の午後でした。最寄り駅から歩いて15分、新しい分譲地が並ぶ一角の一軒家。インターホンを押すと、エプロンのままサキさんが出てきました。30代後半、結婚して8年になります。玄関には小さなスニーカーが二足、リビングの隅には子どものブロックが散らばっていました。コーヒーを淹れながら、彼女は私の表情をちらりと見て、ふっと笑ったんです。

「その顔、時代錯誤だと思ってますね。わかります。私も昔は、完全にそっち側でしたから」

見透かされていました。

目次

完璧な妻ほど、夫に冷められる

手のかからない女を目指したら、いてもいなくても同じになった

サキさんは、結婚して最初の3年を完璧主義で突っ走ったといいます。共働きで、家事の8割を引き受け、夫にはほとんど何も頼まなかった。

「重い女とか、面倒な女って思われるのが怖かったんです。だから手のかからない女でいようとした。冷蔵庫はいつも整ってて、家計簿もきっちりつけて、夫が何か言い出す前に全部終わらせてた。当時は、自分はいい妻だって本気で思ってましたよ」

彼女の収入は、その頃すでに夫を少し上回っていました。家のことも仕事もそつなくこなす。それの何がいけなかったのか、私には最初わかりませんでした。

「ある夜、夫がぽろっと言ったんです。君は俺がいなくても困らないよね、って。冗談みたいな口ぶりでしたけど、目だけ笑ってなかった。あの瞬間、背筋がすっと冷たくなったのを今でも覚えてます」

役に立てない場所に、人は愛着を持てない

頼られない3年のあいだに、夫は家庭での出番を少しずつ失っていったそうです。残業だと言って帰宅が遅くなり、休日はひとりで出かける。会話も減った。一度、彼のスマホに同僚の女性とのやりとりが見えてしまったこともあったといいます。

「やましい中身ではなかったんです。ただ、家ではしないような弱音を、その人には吐いてた。それを見たとき、ああ、私はこの人の逃げ場にすらなれてなかったんだって」声が少し沈みました。「正直、あの時期は離婚の二文字が何度も頭をよぎりました」

何が原因だったと思いますか。私が尋ねると、彼女はマグカップを両手で包んで、しばらく黙りました。

「今振り返るとバカみたいなんですけど、私、夫がこの家で活躍する場面を、良かれと思って全部つぶしてたんですよ。人って、自分が手をかけたものにしか愛着がわかないんだと思います。何もさせてもらえない家に、居場所なんて感じられない。私は夫を立てるどころか、座る椅子ごと片付けてたんです」

この話を聞いて、私の中の何かが少し崩れました。男を立てるという言葉を、相手を持ち上げてあげる行為だと思っていたのに、サキさんの話はまるで逆だったからです。

男を立てる女性が、実際にやっていること

決定権を渡す。メニューも、旅行先も

やり方を変えたのは、その冷たい夜からでした。最初に始めたのが、決めごとを夫に委ねること。

「外食のとき、前は私がぱっと店を選んでたんです。効率がいいから。それをやめて、あなたが食べたいところでいいよ、って渡すようにした。旅行も、行き先から宿まで主導権を夫に。あなたが選んだ場所ならどこでも楽しい、って」

ただ放り投げるのとは違う、と彼女は念を押しました。決めてくれたあとに、ここにして正解だったね、と必ず声に出す。選んだ判断そのものを認める。

「最初の頃、夫がびっくりするくらい嬉しそうにしてて、逆に切なくなりました。この人、今まで家でこんなに必要とされてなかったんだなって」

人前では絶対に否定しない。文句はドアの内側で

もうひとつ、彼女が8年間ずっと守っているルールがあります。人前で夫を否定しない。

「友達でも義実家でも、人がいる場では、夫の話に絶対ノーって言わないんです。違うと思っても、その場ではまず、そうだよね、って受ける。料理にハマってた時期は、この人ローストビーフが本当に上手で、って勝手に振ってあげる。本人は照れますけど、帰り道で必ず、今日は嬉しかったって言ってくる」

言いたいことがあるときは。そう聞くと、即答でした。

「家に帰って、ドアを閉めてから言います。二人きりのときは、むしろ普通に言い合いますよ。あれは違ったと思う、って。人前で立てるのと、本音を隠すのは、まったく別の話なので」

媚びてるみたいで嫌じゃないですか。私がそう食い下がると、彼女は少し考えてから答えました。

わざと荷物を持たせ、小さな成功を大きく喜ぶ

「媚びと立てるの境目って、難しいですよね。私の中では、荷物の話がわかりやすいかな」

重い買い物袋を、わざと夫に持ってもらう。自分で持てる重さでも、これ重いからお願い、と頼る。彼が仕事で小さな契約を取ってきた日は、さすが、と大げさなくらい喜ぶ。話が長くなりがちな彼の趣味にも、もっと聞かせて、と乗っかる。

「全部、夫に出番を作ってるんです。できる女が一番やりがちなのが、何でも自分で完結させること。でもそれをやると、さっきの私みたいに椅子を片付けることになる。だからあえて隙を見せる。弱いふりじゃなくて、あなたの手を借りたい場所を、ちゃんと空けておく感じですね」

聞いていて、なるほどとは思いました。思いましたが、ずっと喉に小骨が刺さっていたんです。それって結局、女が一方的にやってるだけでは、という小骨が。

それは自己犠牲なのか、媚びなのか

自分の家なのにバイトみたい、と泣いた人

その小骨を、別の人にぶつけてみました。20代後半のユイさんは、彼と同棲して2年。彼女はまさに、男を立てることに疲れ果てている最中でした。

「私、たぶんやりすぎたんです」カフェで会った彼女は、アイスティーのストローをいじりながら話しました。「家事はほぼ全部私で、友達を呼んだホームパーティーも、買い出しから準備まで全部やって、当日は彼がホスト役で乾杯の音頭。後輩に、いい彼女さんですねって言われて、彼は得意げで。私はキッチンで洗い物しながら、自分の家なのにバイトみたいだなって、急に涙が出てきて」

やめたいと思った瞬間ですか。私が聞くと、彼女は小さくうなずきました。

「あの夜です。立てるって、こんなに惨めなことだったっけって。正直、何のためにやってるのか分からなくなりました」

見返りを数え始めた瞬間に、全部が苦しくなる

ユイさんとサキさんの違いは、どこにあったのでしょう。二人の話を並べてみて、私なりに見えてきたものがあります。

ユイさんは、立てた分だけ返ってくるはずだ、と無意識のうちに数えていました。これだけ尽くしたんだから、感謝されて当然、大事にされて当然、と。だから見返りが釣り合わないとき、惨めさだけが手元に残る。

サキさんのほうは、見返りを期待していませんでした。

「夫のためっていうより、自分のためなんですよ」彼女は最後にそう言いました。「私、全部の場面で勝とうとするのをやめたんです。どっちの店にするか、どっちが正しいか。そんな小さい勝ち負けに、もう体力を使わないって決めた。立てるって、相手を持ち上げることじゃなくて、自分がどの戦いを降りるかを選ぶことなんだと思います」

見返りを数え始めた瞬間に、立てるは媚びに変わる。たぶんそこが、二人を分けた線でした。

それでも、私はまだ頷ききれていない

帰り道、私はずっと考えていました。サキさんの理屈は、わかる。役に立てない相手に愛着はわかない。見返りを数えると苦しくなる。筋は通っているし、納得もしました。

それでも、小骨は消えませんでした。どの戦いを降りるか自分で選べるなら、それは強さでしょう。でも、降りる側がどうしていつも女なんだろう。サキさんの夫は、彼女が何の戦いを静かに降りているのか、たぶん一生気づかない。それでいいんだっけ、と。

この問いに、きれいな答えは出ていません。男を立てる女性がやっていることは、確かに自己犠牲でも媚びでもなく、賢い選択でした。ただ、その賢さを片側だけが背負っている景色に、私はまだうまく頷けないでいます。サキさんの淹れてくれたコーヒーは、最後の一口までおいしかったのに。

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